第二回 “ボブ・ディラン J-50の行方”
はじめに
こんにちは。アドバンスギターズ店長の井上です。
近ごろ、楽器マガジンに記事を書く機会が増えてきました。
執筆を重ねるうちに、「記事では触れきれなかったけれど、もう少し掘り下げてみたいな」と思うテーマが少しずつ溜まってきました。
また、日々お客様と接したり、ギターそのものを観察していると、
ふと立ち止まって「これって、実際どうなんだろう?」と考えることが多々あります。
そんな瞬間に感じた疑問や気づきを、より自由な形で話すことはできないか?
そうして始めたのが、YouTubeでの「一人語りシリーズ」です。
このシリーズでは、アコースティックギターにまつわる話題をなるべく広く、そして自分自身が「面白い」と思えることを中心に取り上げています。
この記事では、そのシリーズについて、映像だけでは伝わりにくい部分を補足しながらまとめました。
アコースティックギターの世界を、少しでも新しい角度から楽しんでいただけたら嬉しく思います。
第二回 “ボブ・ディラン J-50の行方”
ボブ・ディランが所有していたJ-50はどこに消えた?関係者証言から紐解きます
今回は、ボブディランのJ-50について話していきたいと思います。
名機中の名機です。
“J-50を使用した代表的なミュージシャン”として真っ先くるのがこのボブ・ディランなのではないかと思います。
場合によっては、J-45のナチュラルという意味で、J-45の代表ミュージシャンとして取り上げられてしまうくらいです。
彼が使っていたJ-50。
その特徴は、
・スクリプト・ロゴ
・レクタンギュラー・ブリッジ
・ロングサドル
・3プライのボディ・セル・バインディング
・戦後期のKluson製 八角形 チューナー オープンバック仕様(推定)
という感じです。
スクリプト・ロゴかつレクタンギュラー・ブリッジという組み合わせから、製作年は1946〜1947年に絞られます。
1947年はスクリプトとモダンロゴが混在する移行期ですが、ディランの影響か、もともとの生産数の少なさゆえか、見る機会はほとんどありません。
とはいえ、1946年製を見る機会も特別多いわけではありません。
ただ、もし二択で答えてと言われたら、移行期ではない1946年製の可能性が高いと言わざるを得ないでしょう。
そして、よくこのJ-50はどこにいったのか?という話題が上がることがあります。これについて可能な限り調べてみました。
参考にしたのがこちらです。
「BOB DYLAN On A Couch & Fifty Cents A Day ※1」
※1 ボブ・ディランが1961年ごろより、よく訪れていたというアパートのイヴとマック・マッケンジーの息子であるピーター・マッケンジーによる著書
「A Freewheelin' Time ※2」
※2 ボブ・ディランの恋人であったスーズ・ロトロによる自伝
フリーホイーリンのアルバムのジャケットにも写っている方です。
残念ながら一次的な情報というのは出てきません。
そのため、当時彼の周辺にいた人物の著書、いわば手記や記憶を頼りにするしかないんです。
彼のJ-50は「BOB DYLAN On A Couch & Fifty Cents A Day ※1」にて、1964年にボブ・ディランの元恋人であったスーズ・ロトロが所有していたこと、その後"ニューヨークのアパートで盗まれた"とスーズ・ロトロが言っていたことがピーター・マッケンジーによって記されています。
これについてはスーズ・ロトロ自身の考えが彼女の自伝である「A Freewheelin' Time ※2」で確認できます。
ボブ・ディランのJ-50は火事により焼失したと言われることもありますが、まず、なんで焼失したと言われるかについてなんですが、火事は本当にあったみたいです。
1965年の10月に彼女の自宅アパートで火事が起こるのですが、その時の様子については次のように記載されています。
"Bob’s old Gibson guitar was nowhere to be found. The green coat that I had bought in Italy and was wearing on the Freewheelin’ album cover was somewhere in the pile of black, stinking clothing in the bedroom."
Freewheelin’のジャケットで着ていたコートは黒焦げになっていた一方で、ボブのギブソンギターは"どこにも見つからなかった"
(Bob’s old Gibson guitar was nowhere to be found. )
という表現をしています。
この頃彼女が持っているボブのギブソンギターというのは、彼のギターの使用歴やピーター・マッケンジーの話から考えるにJ-50で間違いないと言っても差し支えないでしょう。
では、"なぜスーズ・ロトロは、ボブのJ-50が盗まれたと思っているか?"
その理由は、彼女の自伝を読むと見えてきます。
彼女は同時期に風変わりな俳優と出会っていて、その人にアパートの鍵を渡しており、のちに起きた火事について「原因は古い建物でよくある配線不良とされているが、もしかすると彼が関わっていたのではないか」という疑念を抱いていました。
火災後、J-50は見つからなかったため、彼女はその俳優が持ち去ったのではないかと推測します。
もっとも、これは本人の想像の域を出ず、ギターが焼失したのか、盗難に遭ったのか、あるいは別の事情でどこかに残っているのかを確かめる術はありません。
最後にこの話のオチとしては、当人ボブ・ディランはこれについて全く気にもしていないんじゃないかということです。道具として使って、恋人に渡した以上、その先は知らない。そういう感情なんじゃないかと勝手に想像します。
この記事を書いた人:Advance Guitars 店長 井上(いのうえ) - ビンテージギター研究家
幼少期より楽器に触れ、数千本を超えるヴィンテージギターの査定・販売に携わるエキスパート。海外のコレクターやディーラーとも太いパイプを持つ。 「ギターの歴史は、色やスタンプひとつで変わる」を信条に、マニアックかつ愛のある解説を心掛けている。
保有資格・実績: 楽器鑑定士歴8年、ギターマガジン等への執筆・監修協力
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