第一回 “目の詰まった材 本当に良いの?”

アドバンス・ギターズ 井上の一人語り

はじめに

こんにちは。アドバンスギターズ店長の井上です。
近ごろ、楽器マガジンに記事を書く機会が増えてきました。
執筆を重ねるうちに、「記事では触れきれなかったけれど、もう少し掘り下げてみたいな」と思うテーマが少しずつ溜まってきました。
また、日々お客様と接したり、ギターそのものを観察していると、
ふと立ち止まって「これって、実際どうなんだろう?」と考えることが多々あります。
そんな瞬間に感じた疑問や気づきを、より自由な形で話すことはできないか?
そうして始めたのが、YouTubeでの「一人語りシリーズ」です。
このシリーズでは、アコースティックギターにまつわる話題をなるべく広く、そして自分自身が「面白い」と思えることを中心に取り上げています。
この記事では、そのシリーズについて、映像だけでは伝わりにくい部分を補足しながらまとめました。
アコースティックギターの世界を、少しでも新しい角度から楽しんでいただけたら嬉しく思います。

第一回 “目の詰まった材 本当に良いの?”

トップ材の木目に良し悪しはあるの?

シリーズを始めていくにあたり、“アコギ屋のキラーフレーズ”について考えてみるのも面白いかなと思い内容を考えました。
そこで思いついたのが“目が詰まった材は本当に良いのか?”というテーマです。
というのも私自身このギターは目が詰まった材が使われていますよね、ということを話したり商品説明に加えたりすることがありました。
いわば、目が詰まった材はそもそも良いものとして、褒め言葉として、
少し乱暴な言い方をすれば楽器屋の売り文句として使っているのでは?と思うに至りました。

そこで目の詰まった材は本当に良いのか?
良いとしたら何が良いのかなどを改めて考えをまとめて、話しました。

目の詰まった材とはどこで用いられるか?

アコースティックギターでいえば、主にボディ材(スプルースやローズウッド)で用いられることが多い印象です。
ネック材のマホガニーや指板材のエボニーについては、“密度がある”と表現するのも見かけます。

目の詰まった材とはどういう意味で用いられるか?

ネガティブな表現としては使われることは見たことがありません。
ギターへの褒め言葉として、“良い意味”で使われています。
もっと言うと、楽器屋目線では売り文句と言っていいかもしれません。

そもそも目の詰まった材って何?

アコギなのでスプルースで考えたいと思います。
スプルースの木目というのは年輪の幅そのものです。
横にリボンのようにゆらゆらと杢を浮かべるスプルースもありますが、ここでは一旦それは置いておきます。

目の詰まった材というのは年輪の幅が狭いことを指してます。
年輪の幅というのは木材の成長速度ですので、目が詰まった材というのは成長が遅いということになります。
木の成長というのは気候要因ですので、気温や日照時間等その場の環境や木の種類によっても変わります。
木目が均一というのは、安定して成長していることを示します。

では目の詰まった材は良いのか?
アコギなのでMartinのスプルースを例にします。
Martinではトップ材のグレードとして、8段階あると言われています。
目の詰まった材が良いとした場合は、グレードが高いほど目が詰まっていくことになります。
しかし、Martinのギターを見ていく限りでは必ずしもそうとは限りません。
実際にMartin D-28とMartin D-45の木目の幅というのはそこまで変わらないものがあります。

この8段階の判定基準は私にはわかりませんが、外観やトーンウッドの特性などを総合的に判断しているものと思われます。
一部では1インチあたりに年輪が何本入るかという基準が用いられることもあるみたいですが、Martinで用いていたとしてもそれはあくまで最低ラインを見るものであって、実際には専門家が見れば外観の良し悪しはそのような基準がなくともすぐにわかるかとは思いますので、この“スプルースは1インチに何十本という木目があるね”といった数値にすぎないと思います。

つまり、目が詰まっているかどうかだけでアコギの良し悪しを決めることはできないと考えています。

そもそもアコギ材としての良し悪しを考えるときに、大きくは3つあると思います。
それが特性(加工度/剛性/重量)、音響特性、デザイン性です。
それらのバランスで職人や我々受け手側が主観で良し悪しを判断することになります。

木目の広い材は避けたほうが良い?

“目の詰まった材が良い”の反対を考えてみると木目の幅が広い材は悪いとなるわけですが、どこからが悪しとして広いかその基準を決めることはできません。
そういうのは先ほどの通りで事前に足切りされるので、製品として仕上がったアコギのトップ材で用いられるものについては、
広いほど粗悪であると考える必要はないかなと思います。
例えばギブソンの2010年代のモデル等で木目が一般よりも広いものがあったりします。
私が試してきた印象として、それらはやわらかくて華やかな良い音色をしていたので、愛機として選ぶには申し分ない個体ばかりでした。
一方で、木目が均一にびっしり詰まった材を“美しい”と感じることは大いにアリだと思います。
アコギはエレキギター等よりも外観の情報量がどうしても少なくなってしまうので、そうした見た目の美しさを褒めポイントとして愛でていくのも大変素敵なことであると感じます。
また、木目の幅については、トーンウッドとしての役割も多少なりはあると考えています。
これについては追々話していきたいと思います。

おまけ(木目がとても広いギターについて考える)

この話をするために年輪が広い木ってないのかな?って調べてみました。
すると、ジャパロニアという早く成長する日本の桐というのがあるみたいで、幹が4年で40cmくらい成長するそうです。
年輪の幅は10cm。ちょうどドレッドの幅は40cmくらいですので木目が8本のやつを作れなくはないと思います。
それを作ってこれは良いな、悪いなって判断されると思うのですが、メーカーは作らないですよね多分...
おそらくダルンダルンとした音になるのかな??

この記事を書いた人:Advance Guitars 店長 井上(いのうえ) - ビンテージギター研究家

幼少期より楽器に触れ、数千本を超えるヴィンテージギターの査定・販売に携わるエキスパート。海外のコレクターやディーラーとも太いパイプを持つ。 「ギターの歴史は、色やスタンプひとつで変わる」を信条に、マニアックかつ愛のある解説を心掛けている。

保有資格・実績: 楽器鑑定士歴8年、ギターマガジン等への執筆・監修協力

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