東京・新大久保の新名所
Martin D-45の森
14本のD-45 (1939〜)
「D-45」それは数ある書籍でその全貌を知り尽くされています。Advance Guitarsも数多くのD-45を取り扱っており、現在もなおD-45の魅力をご来店の皆さまにお伝えしております。しかし、改めてD-45の魅力を掘り下げたく私たちならではの観点から、過去に取り扱ってきたD-45の実機を1本1本観察することで見えるものがあるのではないかと思いコラムの執筆に至りました。
ここでは当店で取り扱ってきた貴重な戦前モデル〜90年代までの合計14本のD-45を紹介していきます。
同じD-45というモデル名でもそれぞれ異なった魅力を写真を通して感じていただきましょう。
〜A Photo Gallery of 14 D-45〜
1939年製 Martin D-45S
世界一有名なリペアマン T.J.トンプソン が8年の歳月をかけて修復した歴史的な一本。D-45は1933年にカントリー・シンガーのジーン・オートリーのオーダーによって最初の1本が作られ、1942年までに91本が製造されました。現存する個体は70数本とも云われており、ほとんどを大物アーティストやコレクターが所有しているため、売り物が出ることは極めて稀。そのオリジナルD-45の中には 'D-45S' と名付けられたモデルがあり、モデル名の 'S' はスペシャル・オーダーを意味し、D-45Sは合計で7本製作されました。本器はその内の1本になります。
このギターのオリジナル・オーナーは、1939年当時のマーティンの標準であった1 11/16'や1 3/4'よりもわずかに狭い1 5/8'のナットを指定しました。カントリー・アーティストのウィルマ・リー・クーパーはこのギターを所有していたことがあり、ナッシュビルのSho-Bud社に修理と修復を依頼しました。その際、トップが薄すぎて弦の張力を支えられない状態だったそうです。次のオーナーは、このギターを著名なルシアーであるT.J.トンプソンに送り、演奏可能な状態に戻すために大規模な修理を行いました。その歳月は実に8年、その修理費だけで数百万円に上ったとのこと。プリウォーD-45を語る上でも貴重なモデルと云えます。
TOP:Adirondack Spruce
BACK & SIDES:Brazilian Rosewood
NECK:Mahogany
FINGERBOARD:Ebony
TUNERS:Closed Grover G-111 Tuners Gold
NUT-WIDTH:41.3mm(1 5/8")
1942年製 Martin D-45 Jimmie Dolan
こちらも極めて希少なオリジナルのD-45、究極の一本です。
当時'45'シリーズは材料、品質管理などマーティン社の他のどのモデルよりも厳しくチェックされており、ゆえに製造台数も少なく熟練した職人のみ作ることが許されておりました。サイド&バックのハカランダ(ブラジリアン・ ローズウッド)は戦前物は柾目ばかりで、塗装のウェザーチェックもギブソンと違い独特で、塗装が木に馴染んで落ちているような質感です。またインレイに用いられた日本製のアバロン貝はチップの大きさが特に細かく、近年物に比べると輝きがまったく違います。D-45は1968年に再生産を果たし、今なお数多くのメーカー、ルシアーに影響を与え続けるマーチンのフラッグシップモデルです。最高級のマテリアルとマーティン社の卓越した職人技が実現するサウンドは、全てにおいて超越しており、重厚かつ輝きのある響きを放ちます。
本器は元々1950年代にヒットを飛ばしたアメリカ・カリフォルニア出身のカントリー・ミュージシャン Jimmie Dolan氏が所有していたもの。プロのミュージシャンに長年愛用された個体だけに非常に良く鳴っています。またその渋い風貌からは、極上のヴィンテージ品のみが放つ凄み、神秘的なオーラのようなものを感じさせる素晴らしい個体です。オリジナルD-45の最終製造年となる1942年製で、大戦による金属不足から採用されたエボニー・ロッド仕様になります。ウェイトは1.88Kgと軽く、ストレス知らずの自由奔放な響きが心地よい一本。マーティン・フリーク究極の、まさに奇跡の逸品。
TOP:Adirondack Spruce
BACK & SIDES:Brazilian Rosewood
NECK:Mahogany , Ebony Truss Rod
FINGERBOARD:Ebony
BRIDGE:Ebony
TUNERS:WAVERLY
NUT-WIDTH:42.3mm
WEIGHT:1.88kg
SOUNDHOLE TO X-BRACING:43mm
1968年製 Martin D-45
1968年製 Martin D-45
ヴィンテージのD-45はプリウォーと呼ばれる1933年から'42年までと、再生産分の'68年から'69年まで、'70年代以降に大別されます。
1968年にMartin社は多くの要望に応え、D-45の再生産を決定、2本のプロト・タイプを経て、同年7月にプロダクション・ランを開始させます。
しかし、ワシントン条約の規制で、'70年にローズウッドをブラジリアンからインディアンに変更することを余儀なくされたことにより、オリジナル・モデルと同じブラジリアン・ローズウッドを採用しているのは'68年と'69年の2年間に生産された229本('68年は67本、'69年は162本)のみ。
'60年代後半のこの数はプリウォーの91本に匹敵する希少さと云えます。ヘッドシェイプもこの頃より丸みを帯びたシェイプをしているのも特徴です。
TOP:German Spruce
BACK & SIDES:Brazilian Rosewood
NECK:Mahogany , Ebony Truss Rod
FINGERBOARD:Ebony
BRIDGE:Ebony
TUNERS:Grover
1969年製 Martin D-45
1969年といえばサイド/バックのハカランダ最終期で、翌年の1970年より順次インディアン・ローズウッドへと変更されます。
本機は貴重なハカランダを使用した貴重な個体で、柾目の美しさから良質な木材が使用されていることが伺えます。
1973年製 Martin D-45
1970年よりサイド/バックで使用していたロースウッドがハカランダから柾目採りのインディアン・ローズウッドに仕様変更(ハカランダも一部混在あり)されます。
ボディエンド・ブロックにも変更が見られ、1969年製は3Pに対し1973年製は1Pになっているのが分かります。
1975年製 Martin D-45
ブラウンのカラーリングが目を惹くこちらの個体はShaded Topと呼ばれ、ボディの縁に沿って陰影のようにカラーリングされているのが特徴です。
1975年のD-45の生産数が192本なので、その中でも本機はShaded Topを纏ったうちの貴重な1本です。
ナチュラルカラーとは違った魅力を放ちます。
D-45を代表するうちの1つと言える指板のヘキサゴン・インレイ。
インレイに使用されているアバロン・シェル(アワビの貝殻)は虹色のような美しさが特徴ですが、本機は白蝶貝のような白色が強いシェルが使用されています。
これも自然な素材ならではの表情です。
1979年製 Martin D-45
この年に生産されたD-45の本数は291本。
1977年〜1978年の生産数は合わせて116本(77年は76本、78年は40本)。なぜここまで生産数の幅が出たのかというと、この2年間にMartin社ではストライキが起こった年でもあり、それの影響により生産数がガクッと落ち込んだという逸話があります。
それを考えると1979年のD-45の生産数はストライキの2年間を取り返すべく、職人たちが己の技術を最大限発揮したのではないかと想像できます。
1979年よりチューニング・マシンがGROVER 102Gから、Martinのロゴが刻印されたSchaller M6へ変更になります。
1980年製 Martin D-45
1980年になるとヘッドの塗装が滑らかになります(79年製のような個体も混在あり)。
左図は木地がはっきりしているのに対して、右図は表面が滑らかなのがお分かりいただけることかと思います。
この年よりハードケースのカラーが通称ブルー・ケースからブラック・ケースに変更(形は同じ)されます。それに伴い、ケース内ボアの色味も青色からブラウン色に変更されています。
ブルーケースに憧れた方も多いと思いますが、ブラックもシックな印象を与えてくれます。
1984年製 Martin D-45 Tree of Life
Martin D-45の中でも一際豪華なオーラを放つのが「生命の樹」と名付けられたTree of Lifeです。このモデルはMartin Custom Shopの職人チームにより製作され、まるで芸術品のような佇まいです。
Tree of Lifeは限定生産で登場することがあり、製作される年代やコンセプト(Martin創立記念やボディ含めたカスタムなど)によって様々なインレイが施された個体が存在します。どのモデルもレギュラーでは生産されない大変貴重な個体でもあります。
D-45に加えられた装飾をご覧ください。
このインレイだけでも数100個を超えるシェルのパーツが使用されます。
D-45の華やかさに加え、指板に加えられた豪華なインレイが見る者を圧倒します。
このTree of Lifeと呼ばれる装飾は製作されるモデルにより異なり、ヘッドやピックガード、ブリッジ、ボディバックなど様々な場所にインレイが加えられますが、本機は指板のみTree of Lideが加えられているのが特徴です。
主張しすぎず、しかし華やかに、控えめではありながらもしっかりと豪華な印象を与えてくれます。
1984年製 Martin D-45
1984年というとMartinのトラスロッドの機構がスクエアロッドからアジャスタブルロッドへと移行していく年です。こちらは移行前のSQネック仕様の逸品。程よく飴色に変化したボディトップにはピッキングによるスクラッチが入っており、上品さと貫禄を両立させる素晴らしい佇まいとなっております。
ボディトップにはシトカスプルース、サイドバックにはインディアンローズウッド、指板/ブリッジにはエボニーを採用。一目見るだけでも当時のスタンダードモデルと比べて高級な木材が使用されていると感じることができます。ヘッドストックには、オリジナルのマーチンロゴ入りシャーラーペグが輝いており素敵です。尚、ピックガードは交換されております。
もちろん、サウンドに於いても最高品質です。ワンストロークした瞬間の音の立ち上がりに発生する艶のある煌びやかな高音域。
豊富な倍音から感じるトータルのサウンドは生音であっても、まるで空間系のエフェクターを掛けたかのように広がり、自分の周りの空間ごとD-45のサウンドで満たされます。これだけ広がりを感じるサウンドであると、普通は低域がボヤつくものが多いですが、この個体に関しては全くそれを感じさせず、かと言って硬い音というわけでもない。まさに"Martin D-45"でしか味わえないサウンドと言えるでしょう。年代的な特徴として80年代ごろからはまとまりのある音のイメージではありましたが、ガラスが割れるような暴れたニュアンスもあり70年代に引けを取らない素晴らしい音色を堪能することができます。
TOP : Sitka Spruce
BACK/SIDES : Indian Rosewood
NECK : Mahogany
FINGERBOARD/BRIDGE: Ebony
NUT WIDTH : 42mm
SCALE : 645mm
1985年製 Martin D-45
1985年よりネックに仕込まれているトラスロッドがスクエア・ロッドから、ネックの反りを調整できるアジャスタブル・ロッドへ変更になります。
ネックブロックから除く金属製の棒が確認できます。また、それに伴いネックブロックからサウンドホールまでの仕様も変わっていることが伺えます。
ボディ内部のサイドに貼られている割れ止めの枚数が変更になります。
1980年製は18枚に対して、1985年以降は12枚と6枚少なくなっています。
1985年製 Martin D-45
1995年製の個体は1985年の個体と比べ、ヘッド角が少し角張ったシェイプに変更されています。写真で比べるとシェルインレイの柄が全く異なるのも興味深いです。
バックストリップに使用されている色味の組み合わせも変わっていることが分かります。
アジャスタブル・ロッドの仕込みは1985年製は隠れるように仕込まれているのに対し、1995年製はトラスロッドの先が見えるように仕込まれているのが確認できます。
また、ブリッジプレートはインディアン・ローズウッドのラージサイズから、メイプルのスモールサイズに仕様が変更になっています。
1996年製 Martin D-45
1990年代のD-45は、玉置浩二さんや織田哲郎さんなども所有しており第一線のミュージシャンからも愛されています。
トラスロッドはアジャスタブルで、ブレーシングはスキャロップドXブレーシング。マーチンのベストセラーとして多くのプレイヤーを魅了する ' パワフル ' 且つ ' 豊かな鳴り ’がとても印象的です。
ボディトップのスプルースは程よく飴色になっており、新品とは一味違うオーラを纏っております。サイド/バックの目も詰まっており、イーストインディアンローズウッドには珍しい黒いラインがぎっしりと入った勇ましい佇まい。
"憧れ"を叶えるにふさわしい逸品です。
BRACING:Standard Scalloped X-Bracing
TOP : Sitka Spruce
BACK/SIDES : Indian Rosewood
NECK : Mahogany (Adjustable Truss Rod)
FINGERBOARD/BRIDGE: Ebony
NUT WIDTH : 43.5mm
SCALE : 645mm
CASE : Original Hard Shell Case
使用されるアバロン・シェルは色味がはっきりしたものが使用されています。虹色のようなキラキラと輝く様はまるで宝石が散りばめられたような印象を与えます。
1998年製 Martin D-45
トップ材には飴色に塗装されたイングルマン・スプルースを使用。
オールド・マーチンのような佇まいを感じられます。
サイド/バックには縞模様が美しいハカランダを贅沢に使用しています。
スノーフレーク・インレイは1938年の仕様に対し、ヘキサゴン・インレイが採用されるのは1939年からとなります。また指板の角に沿ってアバロン・シェルの装飾はオリジナルのD-45には見られないカスタム仕様といえます。
ヘキサゴン・インレイへと変わるのは1939年からなので、本機はまさに初登場の1938年頃のD-45をCustom Shop製で再現したのではないかと推測できます。ヘッドにも縁に沿ってアバロン・シェルの装飾が華やかさを引き立てます。また、突板にはハカランダを使用しています。インディアン・ローズウッドとは違った杢目が確認できます。
チューニング・マシンにはWAVERLYのオープンバック・ペグが採用されており、よりルックスもオーセンティックなルックスになっています。
エボニーのブリッジにはロングサドルに加え、サイドにはスノーフレーク・インレイが施されています。ブリッジ・ピンのドットにも贅沢にアバロン・シェルが使用されています。
ブリッジプレートはメイプルのスモールサイズが採用されています。
アジャスタブルサドルは1995年と比べ、隠すように仕込まれています。
まとめ
元々はジーン・オートリーのオーダーから始まったD-45。のちにCSN&YメンバーがD-45を使用し、彼らに影響を受け加藤和彦、堀内護などらがD-45をステージで使用した姿と、それまでのドレッドノートと違った華やかな音色は多くのアーティストをはじめとするMartinファンを驚愕させたのに違いありません。バーティカル・ロゴやヘキサゴン・インレイ、そしてエレガントに輝くボディの装飾は見るものを魅了し「いつかはD-45を買って弾いてみたい」といった気持ちにさせたことと思います。
それに続くように田口清やさだまさし、南こうせつ、坂崎幸之助をはじめとするアーティストがD-45を所有し、現在においても多くのアーティストによりD-45の音色はレコードや映像によって受け継がれています。「D-45」それは時代が変わってもなお、追い求める憧れでもあり、プレイヤーを魅了する幻のギターなのかもしれません。
Advance Guitarsではこうした歴史を踏まえながら、実機を通して皆様にD-45の魅力をお伝えしていきます。
ご来店の際はぜひD-45をお試しください。実際に音色を聴くことでさらなるD-45の世界が広がることに違いありません。
