Martin / 1967年製 D-28 “Train”
世界に1本のみ、オールド・アメリカを題材にした、ワン&オンリーのマーティン、“大列車強盗SPECIAL”
時は19世紀、アメリカ大陸を横断する鉄道が敷かれたことで、西部開拓の時代は大きく変わり始めました。
その時代を象徴するのが、モクモクと物凄い勢いで煙を上げて走る蒸気機関車。
乗れるのは当時の特権階級の人たちだけでした。
そしてこの列車の郵便車には、巨額の金貨が積まれており、
千載一遇のチャンスを狙ってそれを追う勇敢で荒々しい列車強盗たち。
彼らが繰り広げた壮大なドラマは、後にハリウッド映画の数々で再現されました。
そして、その冒険とロマンをギターに封じ込めたのが、この「D-28 “Train”」です。
こちらはアメリカ西海岸のギターコレクターからその歴史や想いとともに引き継ぎました。
アメリカ西海岸といえば、映画の聖地として知られる"ハリウッド"をはじめ、現代までに無数の物語を育んできた夢の街。青い空とどこまでも続く太陽の光が織りなす風景は、ただの都市景観に留まりません。昨今ではサンフランシスコが次回の五輪開催地で決まったり、連日のスポーツニュースでも取り上げられている通り、大谷選手が野球で活躍を魅せているなど、馴染み深い土地でもあります。
その地からやってきた本器は、1967年製のD-28を選び抜きカスタムされております。
まず注目すべきは、そのフィンガーボード。ネックエンドからヘッド先端にかけて力強く駆け抜ける6両編成の蒸気機関車。その脇では、強盗がピストルを構え、乗客を脅すシーンや、金貨袋を抱えた人物、両手を挙げる紳士や貴婦人の姿が、アヴァロン・パールとストーンを使った見事なインレイワークで再現されています。
この美しい細工を手掛けたのは、Martinカスタムモデルのスペシャルインレイなどでも知られている装飾家、ラリー・ロビンソン氏です。
ラリー・ロビンソン
楽器界の最高のインレイアーティストの一人、1972年にアコースティックギターの製作を開始し、1975年にはアレンビックギターのリック・ターナーのもとでソリッドボディのギターを製作しました。ボディの穴開けの失敗による傷跡を隠すためにターナーからインレイの基本を教わったことが、その後のインレイアート探求のきっかけになったとのこと。
その後ロビンソンは数え切れないほどのインレイ作業で技術を磨き、1980年代半ばには、“楽器に素晴らしいインレイを施すなら彼に頼むべき”と、凄腕の職人として知られるようになりました。
マーティン、ギブソン、フェンダー、サンタクルーズギターカンパニー、ナショナルレゾフォニック、ケビン・ライアン、ジェームス・オルソン、ランス・マッカラム、キャシー・ウィンガートなど、アメリカのほぼすべての主要なギター製作者と仕事をしてきたほか、何百人もの個人顧客からの注文も受けております。
1994年に名著『THE ART of INLAY』を出版。この本では彼の技術の秘密がいくつか明かされています。「私がインレイのやり方を学んでいたとき、他のアーティストたちがとても親切にアドバイスをしてくれました。だからこの本は、そのアドバイスの一部を後進たちに伝える方法だと思いました」と彼は言います。彼が携わった作品の写真だけでなく道具や素材についても記されており、今ではルシアーにとってのバイブル本のひとつとなっております。
この本は1999年と2005年に改訂されています。(写真は2005年改訂版)
2002年の初め、最初のギターを製作してから30年後、ロビンソンは北カリフォルニアの工房にて、CFマーティン&カンパニーの特別プロジェクト責任者であるディック・ボークから電話を受けました。「彼は、もうすぐ100万本目のギターを製作する予定であり、会社創設者の玄孫であるCFマーティン4世が、この節目を記念して何かふさわしいことをすべきだと考えたと言いました」とロビンソンは説明します。「私はマーティン社でD-45チャイナドラゴンとD-45ピーコックという非常に豪華なギターを2本製作していましたが、ディックは、これらを凌駕する装飾と、会社の171年の歴史を凝縮したものを探していると言いました。彼らが私をこのような重要なプロジェクトに選んでくれたことを、とても光栄に思いました。」
そうして完成したのがいわゆる、#1,000,000です。
その後も彼は、#1,500,000 、#2,000,000とトップ・オブ・アコースティックの節目を担ってきました。
ちなみに#2,000,000を記念して製作された D-200 DELUXEは、なんと約2000万円近くで取引されております。
そんな彼の繊細かつ大胆なアプローチが、このギターにも生き生きとした物語を吹き込んでいます。
ピックガードとバインディングもまた、このギターを特別な存在にしています。素材にはスターリング・シルバーが使われ、細かく精巧な彫金が施されています。
スターリングシルバーとは、高級ジュエリーやアクセサリーに用いられる高品質なシルバー素材。純度92.5%で上品な光沢があります。ボディの外周だけでなく、バックストライプやネックの両側にまで張り巡らされたこの装飾は、まさに贅の極み。経年によってギターとともにさらに深みのある輝きをもたらしております。
こちらは、かつて「リッチ&テイラー」のカスタムギター工房を主宰していた、グレッグ・リッチ氏が手がけたもので、その職人技が随所に光ります。彼はGibsonのバンジョー史にも欠かせない人物で、ギブソンに在籍していた期間は"Greg Rich Era"と称されるほど、愛好家を虜にしております。
グレッグ・リッチ
バンジョー製作技術は特に1920年代から30年代の主流の楽器の全盛期に非常に多くの進歩があったため、現代のバンジョー製作者が両方の技術に匹敵するだけでなく、それを上回ることができるのは稀なことです。
グレッグ・リッチは生涯をかけた一連の仕事を通じて、過去の尊敬される製作者の構造と装飾の基準を継承し、バンジョーの活気に満ちた過去の精神を現代のバンジョー芸術作品に捉え、蒸留しているそのような人物の一人です。
カリフォルニア州ニューポートビーチにいたグレッグ・リッチは、映画「ボニーとクライド」で聞いたエキサイティングな楽器に興味をそそられました。ランディ・スノッティー・グレッグというコレクターにビンテージ・バンジョーについて学んだ彼は、サンディエゴで建築クラス、金属彫刻、木彫り、カスタムペイントを受講し、ランディの指導の下、これら全てのスキルの要点を独学で学びました。
その後スノッティの工房に住み込み、カスタム・ビルド・バンジョーの製作やカスタム・リペアを開始しました。カスタム・リペアを始めてからすぐに南カリフォルニアにその評判が広がりました。可能な限りオリジナルで古びたものに見えるようにする専門的なスキルと考え方は著名なコレクター&ミュージシャンのマック・ヤスダの目に止まり、ツムラの伝説的なバンジョー・コレクションの修理と修復を担いました。
1980年代半ばのブルーグラス・ミュージックの復活により、ギブソンは低迷に陥っていたバンジョー・ラインをかつての栄光に復活させようと考えました。そんなギブソンから白羽の矢が立ったのがグレッグ・リッチで、同社の最高級の弦楽器製作者からスタッフを厳選する権限を与えられたリッチのリーダーシップと豊かな創造的精神の下で新しいバンジョー部門が立ち上げられ、彼の任期中に制作された輝かしいギブソン・バンジョーは、1920年代と30年代の同社のマスターモデルと同様の賞賛と尊敬の念を持って見なされており、さらに多くのユニークなアートギターやバンジョーが個人的に評価されています。
グレッグ・リッチによって作成されたギターは、ロイ・ロジャース、ジーン・オートリーやガース・ブルックスなどのスターたちだけでなく、世界有数の楽器愛好家のコレクションにも採用されています。1993年にギブソンを去ったはグレッグ・リッチはゴールドスター・バンジョーやリッチ・アンド・テイラー・バンジョーなどの制作に携わり、2021年には「American Banjo Museum Hall Of Fame」に殿堂入りしました。
Martin / 1967年製 D-28 “Train”
1967年、ナザレスの熟練工によって製作されたこの一本は、現代の偉大な職人二人の手によって“D-28 Train”として生まれ変わりました。稀代の職人たちが時を超えて織りなすハーモニーは、まさに芸術品と呼ぶにふさわしいものです。
しかも、この大列車強盗スペシャルは、監督・俳優として合計4回もオスカー像を手にしている映画界の巨匠"クリント・イーストウッド"の手に渡る予定だったという逸話も残っています。ウエスタン映画の象徴であり、音楽ファンでもある彼にふさわしい、まさに“西部劇の魂”を宿した一振り。
このギターは、時代を超えたロマンを今に伝える、まさに博物館級のアコースティックギターです。
触れれば、西部開拓時代の大地の風が、あなたの心に吹き込むことでしょう。
こちらのギターはシンコー・ミュージック・ムック/Martin GUITAR BOOK 2のトップページでも紹介されております。
このような歴史のあるギターを手にすることができたことが率直に光栄でした。
Martinの当時の職人、時を超えラリー・ロビンソンとグレッグ・リッチの手によって特別にカスタムされた世界に一本しかないギターなのです。弾いて良いものなの?という疑問もあるかもしれませんが、音の響きも抜群なことに“してやられたな“と思いました。
使ってこその楽器、その点を皆さんがわかっているんだと感じます。ギターの魅力を伝えるのに撮影ロケーションには苦労しました。ちょうど秋口でしたので、紅葉舞う季節。アメリカと日本の“風”を感じることができる良い写真が撮れたと思います。
映画のワンシーンを連想させるデザイン。ギターと映画の結びきも忘れてはいけません。D-45のジーン・オートリー然り、SJ-200のレイ・ウィットリー然り、二人はカウボーイハットを被り、映画俳優としても活躍しておりました。当時からギターのルックスやサウンドで、シーンを彩り、観客をワクワクさせたに違いないでしょう。
佇まいも含めてのギター、そうした価値観はいまにも受け継がれていると感じ、これは凄いことだと思います。
— Advance Guitars 井上