アドバンスギターズ
アコースティックギターの弦は“本当に”緩めるべきか?
アコースティックギターを使い終わったあと、「弦は緩めるべきか? それとも張りっぱなしでいいのか?」というテーマ。
ネットやSNSでも意見が分かれ、長年議論され続けている疑問です。
数万本の中古・ヴィンテージアコギを取り扱い、日々そのメンテナンスやリペアに向き合っているアドバンスギターズとして、ハッキリと結論をお伝えします。
「アコースティックギターを弾き終わったら、必ず弦を緩めてください。」
今回は、年間2000本以上のギターを修理・調整するTC-TUNE リペアチーフ 田中のリアルな見解をもとに、なぜ「弦を緩めるべきなのか」、その決定的な理由を解説します。
1.なぜ張りっぱなしは危険なのか? 最大の理由は取り返しのつかない「トップ浮き」
アコースティックギターの弦を張りっぱなしにすることのデメリット。
それはネックの反りなどではなく、最大の不可逆な状態変化(元に戻らないダメージ)である「トップ浮き」を引き起こすことです。
ここが最も重要なポイントになります。
ネックの反りやその他の不具合は、リペアマンの手にかかれば修理で直すことができるものがほとんどです。
しかし、この「トップ浮き」に関してだけは根本的な治療が難しく、基本的には対症療法しかありません。
これを避けることが、弦を緩める第一の目的と言っても過言ではありません。
ボディのトップ板がお腹のようにぽっこりと膨らんでいる状態が長く続くと、ギターには次のような連鎖反応が起こる可能性が出てきます。
- トップ板の陥没
ブリッジ周辺が膨らむ一方で、ブリッジの少し前からサウンドホールにかけての板が、逆に落ち込んで凹んでしまいます。
- トップ板の割れ
木材がそのいびつな変形に耐えきれなくなり、最終的に割れてしまいます。
- 深刻なブリッジ剥がれ
ブリッジ自体が変形してしまい、綺麗に貼り戻せないような剥がれ方をします。
(特にGibsonによく見られる、ブリッジ両端がビス止めされている仕様のものは、変形の逃げ場がなく深刻なダメージに繋がりやすいです)
つまり、トップ浮きは単に「お腹が出る」だけで終わらず、
まわりの構造を巻き込んで、どんどん悪い方向へ症状が進行してしまう非常に厄介な現象なのです。
2. ネックの「元起き」や「角度狂い」
弦高が高い状態で張りっぱなしにしていると、トラスロッドの効かないネックの仕込み口付近から折れ曲がるように反る「元起き」が発生します。これも通常のトラスロッド調整では直せず、大掛かりな修理(ネックリセット等)が必要になる原因となります。
よくある誤解:「弦を緩めるとネックが逆反りする」の真実
弦を緩めて保管する際に真っ先につきまとうのが「緩めるとネックが逆反りするのでは?」という不安です。
これについて、職人の視点からメカニズムを解説します。
-
【リペア職人の見解】
まず大前提として、弦を緩めること自体が逆反りの直接の原因ではありません。
逆反りは、ネック内部に仕込まれたトラスロッドの「逆反り方向への引き込む力」が弦の張力よりも強い場合に起こります。つまり、ロッドの力が強すぎる状態であれば、弦を張りっぱなしにしていても逆反りする可能性はあるのです。
さらに言えば、ヴィンテージギターなど「アジャスタブル・トラスロッド(調整可能なロッド)」が入っていないアコギも多く存在します。そういったギターに関しては、そもそもロッドで逆反り方向に力がかかっていないため、弦を緩めたからといって逆反りするリスク自体がありません。
では、なぜ「緩めると逆反りする」という通説が広まったのか。 それは、弦を緩めたことによって一時的にロッドの力が勝り、“ロッドで調整可能な範囲内”で少し逆反りする現象を指しているのだと思われます。我々リペアマンからすれば「少しロッドを回して直せばいいだけの話」なのですが、一般のユーザー様にとっては「ネックが反ってしまった! 大ごとだ!」と感じてしまうため、こうした通説が定着したのでしょう。 要するに、「チューニングや調整が面倒くさいよね」というレベルの話であり、ギター本体の致命的なダメージを心配するようなことではないのです。
よくある悩み:「チューニングを繰り返すと弦が切れやすくなる・寿命が縮む」
【リペア職人の見解】
その通りですが、本体を守るためです。
確かに頻繁なチューニングによる金属疲労で、弦の寿命が縮むのは事実です。
昨今は弦の価格も高騰しているため避けたい気持ちも分かりますが、「数千円の弦の寿命」と「数十万円のギター本体の致命的な破損(高額な修理費)」を天秤にかけたとき、どちらを守るべきかは明白です。
万が一の「事故・衝撃」から愛機を守る防波堤
ギターをうっかり倒してしまったり、ケースごと衝撃が加わったりした際、弦が強く張られた状態だと、引っ張られる力と衝撃が合わさって一瞬でヘッドが折れてしまうことがあります。
弦を緩めてテンションを抜いておけば、万が一衝撃が加わった際でもダメージを最小限(浅いクラック程度)に抑えられる可能性が格段に高まります。
結論:どれくらい、どう緩めればいい?
- 緩める量
ペグを数回転させ、弦の張力(力)がボディやネックにかからなくなるくらいしっかり緩めてください。
- 注意点
アコースティックギターにおいては、「緩めすぎ」による悪影響は基本的にありません。
実際に当店でも数年にわたり弦を緩めて保管されるアコースティックギターもありますが、弦を緩めっぱなしにしたことで構造的な問題が生じてしまったことは一度もありません。
むしろ注意するべき点としては、「保管環境」と「使用頻度」です。これについてはまた別の記事で詳しく紹介できればと思います。
まとめ:1日の終わりに「弦を緩める」習慣を
アコースティックギターは、木と接着剤で組み上げられたとても繊細な生き物のような楽器です。
大切な愛機と長く付き合い、最高のコンディションとサウンドを維持するために、「弾き終わったら弦を緩める」ことをぜひ毎日の習慣にしてください。
- 「自分のアコギ、なんだか最近トップが膨らんできた気がする……」
- 「ネックの状態が良いのか悪いのか分からない」
そんな不安や違和感をお持ちの方は、ぜひ一度アドバンスギターズやTC-TUNEまでお気軽にご相談ください。大切な楽器を長く楽しんでいただけるよう、全力でサポートいたします!
この記事を書いた人:Advance Guitars 店長 井上(いのうえ) - ビンテージギター研究家
幼少期より楽器に触れ、数千本を超えるヴィンテージギターの査定・販売に携わるエキスパート。海外のコレクターやディーラーとも太いパイプを持つ。 「ギターの歴史は、色やスタンプひとつで変わる」を信条に、マニアックかつ愛のある解説を心掛けている。
保有資格・実績: 楽器鑑定士歴8年、ギターマガジン等への執筆・監修協力
▶︎執筆記事はこちら
Ren Ferguson Montana Rivers Masterpieces #3
Ren Ferguson Co. × Advance Guitars シグネイチャーラインナップ
新大久保・Martin D-45の森
テリー中本の伝説・YAMAHA四天王
1800年代に生まれた芸術・魅惑のアンティークギター
良き相棒 Gibson J-50
"The Workhorse" Gibson J-45
華麗なるスクエアショルダー Gibson Dove
Gibsonの元マスター・ルシアー “レン・ファーガソン
ピーターフォンダ氏所有 1944年 Martin D-18
大列車強盗スペシャル Martin D-28 TRAIN
ワーナーブラザーズの想いを載せたMOSSMAN SUPER CUSTOM by Baxendale
超貴重 Gibson Hummingbird の歴史
この記事が参考になりましたら応援よろしくお願いします!
