『ウィーンの伝統を纏い、ロータリーの未来を拓いた。』
W.ジンガーの思想を初期仕様のまま残す、Singer Serie B♭ロータリートランペット。
[概要]
ジンガー・セリエB♭ロータリー・トランペット。128ミリ・ゴールドブラスベル。11.50ミリ・バルブボア。メインチューニング管ハイB♭,A,G#キイ装備。第1・第3ロータリー抜差管オート・トリガーレバー付き。3番ロータリー・ヘビーボトムキャップ(ウィーンフィル記念硬貨装着)。脱着式ベルステム・プロテクター付き。金メッキ仕上げ。楽器重量1367グラム。2012年製。ケースは付属しません。
[状態]
細かなスリ痕、薄い磨き痕が散見する程度。凹み・修理歴のない美品コンディションです。全ロータリー分解、管内洗浄、軟モノ交換、各所整備・調整済み。
[特徴]
元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席トランペット奏者ウォルター・ジンガー氏が、約5年の歳月をかけて開発したSinger Serie。最大の特徴は、氏自身が考案した新しいロータリーシステム「モノブロック・ヴェンティル」です。本機は2008年に完成した初期型に近い仕様を持つ2012年製で、現在のVotruba製ではなく、開発当初から携わった金管マイスター、バルトロモイス・アイブル氏(Bartholomäus Eibl)が製作を手掛けています。
モノブロック・ヴェンティルは、3つのローターとその間を結ぶ流路をひとつの金属ブロック内に収めた独自構造。従来型で狭くなりがちだったバルブ内部の息の通り道を大きく確保し、第3ローターの回転方向も工夫することで、音域による鳴りムラを抑え、レガートでの滑らかな音の移行を狙っています。本機は後年のチタン製ではなく真鍮製ローターを備え、重量は1367グラム。ロータリートランペットとしては重量級ながら、レスポンスは俊敏で、楽器中央に集まった重量が到達性の高い太くまとまりのある響きを生み出します。
2013年以降はローターがチタン製となり、さらに2018年にはモノブロック自体にも軽量化が施されました。その意味でも本機は、Singer Serieが後年洗練されていく以前の、オリジナルに近い設計思想を味わえる一本です。深く柔らかな響きから、パワフルで輝かしいサウンドまで音色の振幅は広く、何より興味深いのは、ジンガー氏本人が最初に「完成」と認め、世に送り出したのがこの重量感を持つ初期仕様だったという点でしょう。
さらに初期製作品らしく、ヘッケルのトランペットに見られたカタツムリ型支柱「Heckel-Schnecken」をあしらい、第3ローターのヘビーボトムキャップには2012年発行のウィーン・フィル記念硬貨を使用。いずれも直接演奏性能を左右する装備ではありませんが、ウィーンの音楽文化と楽器製作の伝統を感じさせる、なんとも贅沢な意匠です。凹みや修理歴のない美品コンディションで、全ローター分解、管内洗浄、軟モノ交換を含む整備・調整も完了。
機能だけでは語り切れない“ウィーンのロマン”まで詰め込まれた、初期Singer Serieならではの一台です。