伝説のワウ・ペダル VOX Clyde McCoy Wah-Wah Pedal - TC楽器 - TCGAKKI

伝説のワウ・ペダル VOX Clyde McCoy Wah-Wah Pedal

皆さん、こんにちは!久々のエフェクター・コラムは世界初の市販ワウ・ペダルであるVOX Clyde McCoyを取り上げたいと思います。えっ、ということは?!そうなんです!!世界中を探してもそうそう見つからない超希少な実機を我がTHE中古楽器屋が確保しました(^O^)vしかも多数!!

はじめにお断りしなければなりませんが、当店でも度々お世話になり取材協力もさせて頂いているシンコー・ミュージックさんが発刊している、まさにエフェクター・マニアのバイブルとも言える「The EFFECTOR BOOK」。そのVol.2でもライターの細川真平氏やKazuhee氏(TEXAS BLOOD)が事細かく詳細に素晴らしい記事をまとめておられるので、今回は重複を承知の上で記事に敬意を表しつつ恥ずかしながら二番煎じで書かせて頂きます。

ワウ・ペダルはファズと並び、最も古くから存在するエフェクターで、トランペット奏者がミュートで行なうプレイ(Wah-Wah)に似たサウンドがつくれます。原理的には固有の共振周波数を持つフィルター回路を用いたエフェクターで、可変抵抗器(ポット)をペダルで直接操作することで周波数ポイントを連続して動かすことで音色変化を加えるものです。可変抵抗器(ポット)とペダルをラック・アンド・ピニオン方式により連動させています。現代においては極めて原始的な回路とも言えますが、電気技術の発達した今日でさえ、この古典的回路が音色的に多くのギタリストに好まれ主流のままになっています。
このフィルター回路は、インダクターとキャパシター(コンデンサー)を使用したLC共振回路というものです。インダクターとキャパシターにより決まる共振周波数(レゾナンス)とピークの高さ(Q)が、音色のキャラクターをつくります。非常に部品点数も少ないシンプルな回路ですが、このインダクターやキャパシター、加えてポットやトランジスターの違い(個体差も含めて)により、得られるサウンドに大きな違いが生れてきます。

さて、ワウ・ペダルの歴史から見ていきましょう。(※年代表記は推定になります)
VOXは1960年代中盤、The Beatles、The Rolling Stonesに代表されるブリティッシュ・インヴェイジョンにおいて、PhantomシリーズのギターやAC-15、AC-30、AC-100(Super Beatle)アンプなどをリリースして最も成功したブランドです。そのVOXブランドを提供していた会社が英国のJMI(Jennings Music Industries)であり、アメリカ進出の上で輸入代理店業務を担ったのが米国Thomas Organ社でした。
Thomas Organは輸入業務に留まらず、JMIと共同でVOXアンプの開発にもあたりました。あのビートルズが使用したAC-100 "Super Beatle"もThomas Organによるものでした。その"Super Beatle"アンプに搭載されていたミッド・レンジ・ブースター回路をThomas OrganのエンジニアBrad Plunkett氏が改良している際に偶然生み出したと言われています。それを元にJMIは、当時すでに製品化されていたVOXのボリューム・ペダルに組み込みプロトタイプを完成させました。これが'66年頃の出来事です。プロトタイプはJimi Hendrix などの著名ミュージシャンの元へ直接届けられたらしいです。
市販化にあたり、製品の製造はイタリアのEME(Electonica Musicale Europea)が請け負いました。EMEは'60年代初めにJMIとThomas Organ、イタリアの楽器メーカーEKO3社による合弁事業で立ち上げられた会社で、VOXのギターやオルガンも製造しました。

'67年2月、最初に市販されたVOXワウは「THE CLYDE McCOY WAH-WAH PEDAL」と名付けられました。 Clyde McCoy(1903~1990)とはワウワウミュート(ホーン部分を手やミュートで塞ぐ奏法)を使った演奏で知られるトランペット奏者の名前で、ペダルの裏蓋に彼の似顔絵が描かれました。発売時期は、VOX/Thomas Organによるワウ・ペダルのプロモーション用レコードのリリース時期から推測されています。また Clyde McCoyの似顔絵は'68年頃には無くなり、ロゴだけに変更されました。末期には、裏蓋に何も記載されていないものも存在します。特に似顔絵入りのモデルは"Picture"、ロゴだけのモデルは"Signature"、無記載のモデルは"No-Logo"と呼ばれ区別されています。
登場間もないワウ・ペダルのサウンドは、Eric Clapton率いるCreamの2ndアルバム『DISRAELI GEARS(カラフル・クリーム)』に収録された「Tales Of Brave Ulysses (英雄ユリシーズ)」(録音は'67年5月)で聴くことができます。Eric Claptonは、そのレコーディングの際にニューヨーク48番街の楽器店「Mannys」にてClyde McCoy Wahを購入したようです。入手したばかりの未知のエフェクターを使って、あの素晴らしい歴史に残る名曲をつくり上げるクラプトンはすごいですよね。

'67年後期にはアメリカ市場でのVOX代理店であるThomas Organの要望もあり、「Crybaby」が投入されました。「Clyde McCoy」と同じくイタリアのEMEで製造され中身は同じでしたが、初期のものは丸みを帯びた一回りスリムな筐体ケースを持ち、ロゴがペダル上部に入っていたことから"Top-Logo"と呼ばれています。

'68年頃に「Clyde McCoy」は、"Picture"からロゴのみの"Signature"に変わり、「Crybaby」も普通の筐体ケースに仕様変更され、「Crybaby MODEL 95-910511になります。

 


'69年頃には、「Clyde McCoy」は「WAH-WAH MODEL V846」とモデル名を変更。
'69年~'70年頃にはEMEからJEN ELECTRONICAが独立し、VOXワウの製造を引き継ぐと共に自社ブランドによる「Crybaby」を発売しました。

JENは、その後'80年代中期にかけてヨーロッパ向けのVOX 「WAH 250.049/250.414」や自社ブランドの「Crybaby 310.001(250.046)」、'70年代後期より「Crybaby SUPER 250.422/250.394」を製造しました。
'72年頃には、Thomas OrganのSepulvedaの工場でも「WAH-WAH MODEL V846」と「Crybaby 95-910511」を生産するようになりました。

アメリカ製ワウの誕生です。'70年代中頃にはChicagoに工場移転。同時期にJENが「Crybaby」の名前を商標登録したため、Thomas社は「Crybaby」の名称を使用出来なくなり、「WAH-WAH MODEL 9-3704」とモデル名を変更しています。過渡期の個体ではフロントプレートや裏蓋の「Crybaby」ロゴの上からステッカーが貼られているものがあります。
また、Chicago期はThomas (THOMAS INTERNATIONAL CORP. CHICAGO, ILLINOIS)~Thomas (Thomas Organ Co. CHICAGO, ILLINOIS)と会社名の表記が変わり、会社は'79年に閉じられました。

OEM(相手先ブランド製造)モデルとして、アメリカの管楽器メーカーKINGの'60年代イタリア製「VOX-WAH Top-Logo」から'70年代のアメリカ製「VOX-WAH MODEL 95-932011までに至るモデルや、英国DALLAS-ARBITER(SOUND CITY)の「WAH FACE」というJEN製造のモデル等が知られています。
そして'80年代中期には、JENも「Crybaby」の販売権をDunlop社に譲渡し消滅してしまいました。

実機紹介

 

VOX '67 THE CLYDE McCOY WAH-WAH PEDAL "Picture" #120X

「クワッ」という噛み付きの良さ(立ち上がりの早さ)を持ち、派手なチャカポコ・サウンド。とても明るく澄み切ったトーンの印象です。

 

SPEC
Inductor : HALO(ラージホール)
Pot : ICAR 100KΩ
Switsch : ARROW(初期ベーク合板構造)
Transistors : BC109b×2
Capasitors : DUCATI 0.01×2, Mullard Tropical-Fish 0.22×2, DUCATI BIPORARE 4μF
w/ Original Softcase

 

VOX '68 Clyde McCoy Wah-Wah Pedal "Signature" #9724

上記ピクチャーの個体より、ややミッドが厚く、一番ワイルドなフィールを持っています。

 

SPEC
Inductor : HALO(スモールホール)
Pot : ICAR 100KΩ
Switch : ARROW(初期ベーク合板構造)
Transistors : ses 131DT2×2
Capasitors : DUCATI 0.01×2, ARCO 0.22×2, DUCATI BIPORARE 4μF
※ブッシュゴムの交換あり

 

VOX '68 Clyde McCoy Wah-Wah Pedal "Signature" #8286

HALO搭載機の中では、大人しめで上品なサウンドです。

 

SPEC
Inductor : HALO(ラージホール)
Pot : CTS 100K(#1377440) ※交換
Switch : Carling(#0713) ※交換
Transistors : BC109b×2
Capasitors : DUCATI 0.01×2, Mullard Tropical-Fish 0.22×2, DUCATI BIPORARE 4μF
※ゴム足の止めネジ×3または1交換, ブッシュゴム×3交換あり

 

VOX '68 Clyde McCoy Wah-Wah Pedal "Signature" #9410

透明感に溢れるHALOならではのサウンドに加え、ピーキーな立ち上がりが特徴的な個体。フィルターが開く瞬間のクワッという独特な喰いつき感と、光線のように放たれる豊潤な倍音が鮮烈です(^ ^)b

 

SPEC
Inductor : HALO(スモールホール)
Pot : ICAR 100KΩ
Switsch : ARROW(初期ベーク合板構造)
Transistors : ses 131DT2×2
Capasitors : DUCATI 0.01×2, ARCO 0.22×2, DUCATI BIPORARE 4μF
※ブッシュゴムの交換あり

 

VOX '67~'68 cry baby "Top-Logo"

鮮烈なトップエンドに加えて、重厚なベーストーンを併せ持っています。特にオーバードライブさせたチューブアンプとのコンビで使用すれば、よりダイナミックで攻撃的なワウ・サウンドが得られます。

 

SPEC
Inductor : HALO(ラージホール)
Pot : ICAR 100KΩ
Switsch : ARROW(初期ベーク合板構造)
Transistors : ses 131DT2×2
Capasitors : DUCATI 0.01×2, Mullard Tropical-Fish 0.22×2, DUCATI BIPORARE 4μF

 

VOX E70s #250.049

やや透明感は落ちるものの、特徴的なトーンカーブや色艶のあるトレブルなど、Clyde McCoyにかなり近い印象のサウンドです。

 

SPEC
Inductor : 赤色円筒型インダクター
Pot : BA811-6678
Switch : MARQUARDT
Transistors : 109C,BC318B
Capasitors : BELLCON
※ブッシュゴムの欠落あり

  

JEN E70s cry baby "初期/FASEL-RED"

HALO搭載機に比べると、やや周波数レンジが狭く、サウンドのクリアさが落ち、トーンの質感が柔らかい印象。

 

SPEC
Inductor : FASEL-RED(500mH)
Pot : COSMOS B500K
Switch : 不明(オリジナル)
Transistors : 2SC1815×2
Capasitors : ARCO 0.01×2, ARCO 0.22×2, DUCATI BIPORARE 4μF
※ゴム足×1の交換あり

  

主要パーツについて※当店の過去入荷データより抜粋

インダクター

Halo

'67~'68 VOX(伊) Clyde McCoy Picture(ラージ)/Signature(ラージ/スモール)、VOX(伊) Crybaby Top-Logo(ラージ)

 

Film Can

'69~'70 VOX(伊) V846、VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby(初期)

 

Stack Of Dime 48 type03 (1st. Generation)

'69~'70 VOX(伊) V846、VOX(伊) Crybaby 95-910511

 

Red(Unknown Type)

L60s? VOX 250.049

 

Fasel

E70s~M80s VOX(伊) WAH 250.049/250.414、JEN(伊) Crybaby(初期)、JEN(伊) Crybaby 310.001、Crybaby SUPER 250.422/250.394

 

TDK 5103

'72~'79 VOX(伊) V846、VOX(米) V846、VOX(米) Crybaby 95-910511、Thomas Organ(米) Crybaby 95-910511、Thomas(米) WAH-WAH 9-3704

 

Stack Of Dime 48 type03 (2nd. Generation)

'70s Thomas(米) WAH-WAH 9-3704

 

トランジスター

BC109b

'67~'68 VOX(伊) Clyde McCoy Picture/Signature

 

109C/BC318B

L60s? VOX(伊) 250.049

 

ses 131DT2

'67~'68 VOX(伊) Clyde McCoy Signature、VOX(伊) Crybaby Top-Logo

 

2SC1815

'69~'70 JEN(伊) Crybaby(初期)

 

2N5232A/SIP5172

E70s VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby 310.001

 

5117

'70s VOX(伊/米) V846、Thomas Organ(Thomas)

 

BC238B/BC239C

'70s JEN(伊) Crybaby SUPER 250.422

 

ポット

ICAR

'60s VOX(伊) Clyde McCoy Picture/Signature、VOX(伊) V846、VOX(伊) Crybaby Top-Logo、VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby(初期)

 

ERT

L60s~'70s VOX(伊) V846、VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby 310.001

 

Centralab

'70s~'80s VOX(伊/米)、JEN(伊)、Thomas Organ(Thomas)

 

COSMOS

'69~'70 JEN(伊) Crybaby(初期)

 

COSMOS RV24

'70s JEN(伊)

 

BA811-6678

L60s? VOX(伊) 250.049、'70s~'80s JEN(伊)

 

スイッチ

ARROW(初期ベーク合板構造)

~'68 VOX(伊) Clyde McCoy Picture/Signature

 

ARROW

L60s~E70s VOX(伊) V846、VOX(伊) Crybaby 95-910511

 

CARLING

'70s VOX(伊/米) V846、Thomas Organ(Thomas)

 

MARQUARDT

L60s~'80s JEN(伊)

 

キャパシター

MULLARD “Tropical Fish”

VOX(伊) Clyde McCoy Picture、VOX(伊) Crybaby Top-Logo

 

DUCATI

VOX(伊) Clyde McCoy Picture/Signature、VOX(伊) Crybaby Top-Logo、VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby(初期)

 

ARCO

L60s~E70s VOX(伊) Clyde McCoy Signature(スモールHalo期)、VOX(伊) V846、VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby(初期)

 

PROCOND

VOX(伊) Crybaby 95-910511、JEN(伊) Crybaby 310.001

 

PHILIPS

'70s VOX(伊) V846、Thomas Organ(Thomas)

 

 

初代Clyde McCoyワウといえば、前述の「Tales Of Brave Ulysses (英雄ユリシーズ)」(録音は'67年5月)や「White Room」の名演を残したCREAMのEric Clapton、「Burning of the Midnight Lamp (真夜中のランプ)」(録音は'67年7月)や「Voodoo Child 」を始め、ウッドストックでアメリカ国家「Star Spangled Banner 」のワイルドなワウ・プレイを残したJimi Hendrixの愛用が知られるところです。Jimiは Crybaby “Top-Logo”やKING VOX-WAH “Top-Logo”も使用していました。2人とも当時いち早くワウ・ペダルをステージで使用していたFrank Zappaから影響を受け、使い出したという話があります。その後は Jimmy Page、Jeff Beck、Santana、Nile Rogers に、Michael Schenker、Stevie Ray Vaughan…挙げていけばキリがありませんね。ブルース、サイケ、ソウル・ミュージックからハードロックと幅広いジャンルに渡って愛されるペダルです。
ワウ・ペダルは非常にシンプルなエフェクターと言えますが、搭載するパーツによりサウンドに大きな違いが出るので、とても奥が深いと思います。
また、ギタリストがダイレクトに操作して、感性のままにギターに雄叫びを上げさせたり咽び泣かせたりと、まさに人間味に溢れる楽器ですよね♪ フレーズに表情や色味を加えたり、まるでギターが喋っているかのような効果を出したり、トーン・ブースター的に使ったり、踏み方や使い方でギタリストの個性が出ますしね♪ また、ギヤの噛み合わせを一山、二山ずらすことで、周波数レンジを好みに調節することもできるんです!(^ ^)b

 

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