パート2:1964〜1969年・年表(このページ)
"The Workhorse"s
〜Gibson J-45の歴史〜
語り継がれてきたJ-45
Gibson 1965 J-45 Adj.
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1965年製の個体。
ボディトップのリム側のチェリカラーが退色し全体的にオレンジ色をしているのが特徴です。
さらに退色するとナチュラルフィニッシュのようになってしまい、J-50とほとんど見分けがつかなくなってしまいます。
J-45とJ-50では構造的な違いがないため、ボディ内のスタンプで判別するか、スタンプが消えてしまっている場合は目で見て判断です。
たくさん見ていると退色したチェリーとJ-50のナチュラルの違いがわかるようになってきます。この退色というのは1963年から1966年までみられます。アジャスタブルブリッジにはウッドサドルが採用されています。木材は主にローズウッドとエボニーが使用されます。
この他としては、ネックとボディの接合部に"スティンガー"とよばれる黒い塗装が施されていることがわかります。
このスティンガーですが、元来はJ-200やSuper 400、L-5といった上位機種のヘッド裏に装飾として施されるものではありましたが、製作途中の加工痕やダメージを隠すために時よりこうした形で施されることがありました。
現在では新品時にカスタムとしてあえて入れるなど、マニア心をくすぐる仕様となっています。
Gibson 1965 J-45 Adj.
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1965年製の個体。
この年にヴィンテージ・ギブソンにおける大きな仕様変更が行われます。ナット幅42mm〜43mmほどだったネックはナット幅40mmほどに、いわゆる"ナローネック"の誕生です。アコースティックだけでなくエレキギターでも同様の仕様変更が行われるという革新的な出来事でした。
そしてこれは演奏性やサウンドに大きな影響を与えました。
ナローネックとレギュラーネック、どちらが“良い”のか?
この問いは、これまで幾度となく繰り返されてきたかと思います。今となっては「ナローネックは不人気」という声は、少数派になっているかもしれません。
もちろん、ヴィンテージ市場においては、1965年以前のレギュラーネック仕様の方が骨董品としての価値が高く、相場的にも上位に位置づけられているのは事実です。
しかしながら、ナローネックにはそれならではの魅力があります。たとえば演奏性です。親指でルート音を押さえるような“ウェスタングリップ”を多用するプレイヤーにとっては、ナローネックの方が握りやすく、演奏の自由度も高くなるのではと考えております。シンガーソングライターの秦 基博さんは1966年製のJ-45を使用しており、まさにこのスタイルで演奏されている印象があります。
また、サウンド面でもナローネック特有のキャラクターがあります。シャープで歯切れがよく、キレのあるトーンが魅力です。代表例としては、吉田拓郎さんが使用していた1967年製J-45。名盤『元気です。』に収録された「リンゴ」では、石川鷹彦さんが吉田さんのJ-45を使用して演奏しており、まさにそのキレ味あるサウンドを堪能することができます。パーカッシブな低音と、わずかにコンプレッションがかかったような締まりのある音色。
それはまさに、1960年代後半のJ-45にしか出せない魅力といえるでしょう。
Gibson 1966 J-45 Adj.
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1966年製の個体。
チェリーサンバーストがしっかりとフェイドしたこれぞ'66!というような佇まいです。ナローネックの他にヘッド角度が14°というのもこの時期の特徴です。
こちらも1965年より移行し始めました。
さらに特筆すべき点としては、使用されているペグです。
その製造元は日本を代表するパーツメーカーであるゴトー社。1967年のJ-45やスモールボディによく見られますが、1966年の個体にも使用されているのを極たまに見かけます。
こちらの個体はつまみが通常よりもボテっとしていて厚い同年代のモノに交換されているのですが、
オリジナルもゴトー社製のペグが使用されていました。
Gibson 1966 J-45 Adj.
Cherry Red “BGN” Stamped
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1966年製の個体。
ボディトップのサンバーストではないチェリーレッドカラーが特徴的です。ここで真っ先に疑問に思うのがシリアルデイトが1966年でチェリーカラーであるという点です。一般的にアコースティックのカスタムカラー(主にチェリーレッドやエボニーブラック)は1967年〜1969年のシリアルデイトです。この疑問について鍵となるのが、ヘッド裏に記された“BGN”というスタンプです。
このスタンプは後から所有者が入れたという訳ではなく、ギブソン工場で入れられたものとみています。“BGN”とは、ギブソンの工場においてヘッド裏に刻印された識別マークのひとつで、「Bargain(バーゲン)」の略とされています。これは従業員向けに大幅に値引きされたギターであることを示すもので、一般市場には流通しなかった個体といわれております。そのため、こちらの個体は一般流通させるには問題があり従業員向けにチェリーレッドで販売されたと考えています。
ギブソン・アコースティックのカスタムカラーについては、なぜ誕生したか、どのような経緯で作られたか、
ということを示すための公式な記録を確認することができず、詳細がわかりません。エレキギターのカスタムカラーについては1963年に登場するFirebirdで採用されており、カラーチャートも存在しユーザーが選べるようになっています。
アコースティックのカスタムカラーの特徴は以下の通りです。
-1967年〜1969年によくみられる
-セカンド印が押されている個体が多い
-ボディトップが4ピースの個体もある
-B-25やLG-1といったスモールボディやEphiphoneのFT等のモデルにもみられる
-ブラウン等のレアーカラーも存在する
このような状況から現在のところ最も納得のできる考えとしては、通常の基準では正規品として出荷できなかった個体を、塗装によって仕上げの印象を変えることで販売可能にした。つまり、工場としての歩留まり(ロス)を減らす目的で、カスタムカラーが活用されたのではないか、という見方です。
Gibson 1967 J-45 Adj.
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1967年製の個体。
この年よりチェリサンバーストカラーの様相が変わります。リムの赤色は潰しの明るい色で経年による退色が1966年までの個体ほどありません。
この時すでにチェリーサンバーストに関する退色が問題視され、色が消えないように塗料を変えた、そんな一幕が想像できます。
ペグはゴトー製。ブッシュはクロム(4弦のみニッケルに交換)です。
Gibson 1967 J-45 Adj.
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1967年製の個体。
サンバーストのカラーリングがとても印象的です。この年よりブラウン系のサンバーストカラーが復活します。
1960年代前半と比べると退色した際にリム部分に赤みがあるという点で異なります。
吉田拓郎さんが使用していたJ-45と酷似しています。
本人はセラミックサドル、固定サドル、ウッドサドル等サドルを替えて使用していたようです。
Gibson 1968 J-45 Adj.
シリアルデイトは1970年ですが、ピックガードにデザインされたGibsonロゴマークやカラーリング等の仕様より1968年製と判断した個体。先ほどのタバコサンバーストとはガラッと印象を替え、リム側の黒色がしっかりと残っております。ヘッド裏をみるとセカンド印が押されていたので、ファクトリーでフィニッシュに改めて手を加えたのではないかと考えております。塗装の質感もやや厚めで、ネックも吹きなおしているような痕が確認できます。
とはいえ保存状態がとても良いことは確かで、当時のタバコサンバーストのJ-45はこのような見た目をしていたんだろうなと想像ができるお手本のようなヴィンテージです。
ピックガードのGibsonロゴマークについては、カスタムカラーと同様でその背景等の詳細がわかりません。
1966年のカタログの裏表紙にこのデザインが登場していることは確認できます。フレット上で弦を押さえていることをイメージしたという意見もありますが、個人的には音の壁(Sound Barrier)をイメージしたという見解はとてもアリだと思っています。
ギブソン公式グッズでこのグラフィックが紹介される時も、"Soundwave"と言われています。
Gibson 1968 J-45 Adj.
Ebony Black
ピックガードにデザインされたGibsonロゴマークやカラーリング、ブリッジ等の仕様より1968年製と判断した個体。
真っ黒なカラーリングと黄色みを帯びたプラスチック装飾が印象的な"エボニーブラック"です。
こちらの個体はよくみるとボディが4ピースであることがわかります。
サンバーストやナチュラルだと目立ってしまいますが、真っ黒だと確かに目立ちません。
Gibson 1968 J-45 Adj.
Cherry Red
シリアルナンバーやブリッジ等の仕様より1968年製と判断した個体。
こちらの個体もボディトップが4ピースであることがわかります。チェリーレッドは経年により退色しており、色づきの浅い"さくらんぼ"のようなカラーです。
このような形に退色している個体は少なくはありません。ヴィンテージならではの仕上がりです。
ピックガードはGibsonロゴマークなしのビス止め式ホワイト。元々はビスにも白い塗装が載っていますが、こちらは剥がれて金属部分が剥き出しになっています。
Gibson 1968 J-45 Adj.
Ebony Black
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1968年製の個体。
堂々としたエボニーカラーです。ピックガードはGibsonロゴマークなしのビス止め式ホワイト。経年により黄色みを帯びた質感がたまりません。
バインディングも同様の経年変化でこのイエローとブラックのコンビネーションがとても素晴らしいです。
これぞヴィンテージのエボニーブラックといえる佇まい。
ブリッジはダウンベリー。1968年のシリアルデイトよりこの仕様がみられるようになります。
そしてこのダウンベリーブリッジの1968年製 J-45 Ebony Blackというのが、斉藤和義さんがメイン機として使用している"1号"と同じ仕様です。本人はサドルのネジを取り外してベタ付けで使用しています。
Gibson 1969 J-45 Adj.
ヘッド裏に刻印されたシリアルナンバーより1969年製の個体。
構造的な特徴としては、1968年から導入されたダウンベリーブリッジに加え、ナット幅43mm、さらに大型化したブリッジプレートやL字型のネックブロックなど、1970年代に向けた過渡期ならではの仕様です。
ブリッジプレートにはローズウッド材が使用されています。このサイズでもメイプル材が使用されていることがあるので、個体によって使用材が異なる可能性があります。
それにしてもサイズが大きいです。このような構造の変化は、同時期のMartin社にも見られます。
Martinでは1968年にブリッジプレートの材をメイプルからローズウッドへと変更し、1969年にはそのサイズも大きくなっています。
これらの傾向は、メーカーを問わずアコースティックギター全体における強度重視の構造改革が進められていたことを示唆しており、J-45の設計にもその潮流が色濃く反映されていると考えられます。
年表
(1942年〜1969年まで)
※統計的なデータであり、ご参考程度にご覧いただけますと幸いです。
イレギュラーや特別な仕様を"見かけた"、"持っている"という方はぜひ下記メールアドレスまで情報提供をお願いいたします。
メールアドレス:aco@tcgakki.com
Advance Guitars 井上 宛
1940年代
1950年代
1960年代
"The Workhorse"の相性で長年親しまれてきた名器"J-45"。
その歴史はとても深く、これまでに多くの資料が残され、議論が交わされてきたことを踏まえると、アコースティックギターに関わる人々のJ-45に対する愛は計り知れません。
今回改めて体系的にまとめるというのは、簡単なことではありませんでしたが、この執筆を通してJ-45の魅力を再確認することができました。
冒頭にも記載したとおり、J-45の探求はこれで終わりではありません。
今後のアドバンスギターズの歩みとともに更なる発展を目指していきます。
Advance Guitars 店長 井上
パート2:1964〜1969年・年表(このページ)
