[目次]
なぜアトランシアは唯一無二なのか
林信秋氏の経歴
孤高のルシアー、林信秋氏の哲学
歴代モデルで辿るアトランシアの軌跡
代表的な独自パーツ
ショップが語るアトランシアという楽器
あとがき
創造大陸~ATLANSIA~
支えるのは構造、響かせるのは思想。
常に創造とチャレンジをし続ける音の理想郷アトランシア。
1.なぜアトランシアは唯一無二なのか
「アトランシア」
長野県松本市に拠点を置くエレキギターおよびエレキベースのハイエンドブランド。その独自のデザインと機構は、一般的なエレキギター/ベースとは一線を画す、既存の楽器の枠にとらわれない革新的な設計で、オリジナリティに溢れた楽器を製作しています。
その革新的設計を叶えるため、生産に必要な機械設備の多くを自社で開発・製作しており、パーツ一つ一つに対する情熱とこだわりが感じられます。
そして、その革新的設計から生み出される唯一無二のサウンドやプレイアビリティは、愛好者の間で熱狂的に支持されています。
ATLANSIA
それは“大海の孤島”。 荒波に流されるかもしれない小さな島。
しかし、孤軍奮闘!常に斬新なものづくりに挑戦する創造大陸です。
目指すは壮大なギターロマンの世界です。 N.Hayashi
(HPより抜粋)
1978年に設立された林信秋ギター工房(後のアトランシア)。
設立当初からユニークでありながらも、実用性にかなった楽器を製作しており、まさに「唯一無二」という言葉がピタリと当てはまるブランドです。
あらゆる国内楽器ブランドと比較して、もはや”異質"といっても過言ではないアトランシアというブランドの存在。
“目立つ”ことを意図して作られているのではなく、純粋に機能性と合理性を突き詰めた結果として、異形の美を帯びているのが大きな特徴ですが、その唯一無二さは製作された楽器におけるものだけでなく、アトランシアというブランド、そしてビルダーの林信秋氏の信念や存在そのものにも言えます。
アトランシアが設立された当時の楽器業界の時代背景から見てもその”異質”さは際立ちます。
日本のエレキ楽器黎明期
1960年代、日本にロックンロールやロカビリー、サーフミュージックなどの欧米文化が流入。フェンダー、ギブソンなどの世界的ブランドの高価な楽器の輸入販売では日本国内でのエレキギター普及には至らず、国内メーカー各社は安価なコピーモデルの生産に勤しみます。
その後1970年代、日本の製造技術は大きく成長し、精巧なコピーモデルが人気を博します。今ではジャパン・ビンテージと呼ばれる数多くの名器が登場し、コピーモデル戦争は1980年代まで続くこととなります。
そんな時代の中、1975年にスタートしたアリアプロツーというブランドはコピーモデル戦争からいち早く脱却を図り、1977年にPE-1500というオリジナルモデルを発売します。そのギターのデザイン、設計、製作を行ったのが、後にアトランシアを立ち上げる林信秋氏です。
林氏は1978年に独立し、林信秋ギター工房(後のアトランシア)を設立します。
今でこそブティック系のメーカーはいくつも存在しますが、アトランシアが設立された1978年という時代を考えると、アトランシアがいかに楽器業界におけるファーストペンギンであったかが伺えます。
次にアトランシア創立者でありビルダーである林信秋氏の経歴を紹介していきます。
2.林信秋氏の経歴
アトランシアの創立者であり、日本を代表するビルダーの1人。
1943年9月20日 長野県生まれ。
クラシック好きの父親と教会でオルガン奏者をしていた母親のもと育ち、高校時代にはブラスバンドに所属する傍ら、クラシックギターにも触れる。
デザインに興味を持っていたことから、美術の短期大学に進学。
卒業後は地元長野へと戻り、1963年にマツモク工業へ入社。当初マツモクはシンガーミシンの子会社で、ミシンのキャビネットを製造しており、林氏もミシン・キャビネットのデザインをしていたそうです。
その後日本にもエレキギターブームが到来。マツモクは同じ長野県松本市に本社を置くフジゲン(旧富士弦楽器製造)から依頼を受ける形でギター産業へと参入。マツモク独自でギターの生産を始めるようになった折に林氏はギターのデザインへと回ることに。
1977年、のちにアリアプロツーのベストセラーとなるPEシリーズの礎、PE-1500を設計/開発。当時フェンダーやギブソンのコピーで人気を馳せてた国内メーカーに一石を投じたオリジナルデザインのPEシリーズは、日本製ギターのクオリティの高さを世界に示したモデルとして知られ、今なお受け継がれています。
1978年、マツモク工業から独立し、「林信秋ギター工房」を設立。
マツモクの下請けの仕事をしつつ、オリジナルギター製作を開始。そのギターの名は「アトランシア」。
以来、伝統的な楽器作りの土台の上で、常に「オリジナリティである」という信念を貫き、数々のオリジナルモデルを開発しています。
1982年に社名を「アトランシア・インストゥルメンタル・テクノロジー」に変更。
2025年現在も林氏とアトランシアスタッフによって加工から組み上げまで1本1本製作されており、日本を代表するハイエンドブランドのひとつとして常に革新の旗を掲げ続けています。
出典:Atlansia guitar world(株式会社立トーミュージック発行Guitar Graphic第1号より抜粋)
3.孤高のルシアー、林信秋氏の哲学
アトランシアの唯一無二さと言えば、独自パーツであったり、オリジナリティ溢れたボディやネックシェイプが取り沙汰されがちです。
しかし、それらはアトランシアが生み出してきたものの結果であり、そのの本質はビルダーの林信秋氏の哲学にあるのではないかと思います。
“哲学”というと非常に抽象的な言葉ですが、ここでアトランシアというブランド、林信秋氏というビルダーについて、我々中古楽器屋であるTC楽器が実際に触れてきたものを軸に紹介していきたいと思います。
人柄と楽器が直結するアトランシア
アトランシアの楽器を買い取った時、高い確率でオリジナルのケースのまま譲っていただくことが多いです。そんなオリジナルケースのポケットを開くときに楽しみにしていることがあります。
このように林氏からの手紙が残っていることがあるのです。
直筆のコピーではありますが、この手紙からは林氏の楽器に対する思い、そしてそれを通じて”使う人”への思いというのがまざまざと伝わってきます。
製品を通じてビルダーの思いを受け取ることは多々あれど、このようにダイレクトにビルダーの人物像を感じられるような楽器はそうそうないのではないでしょうか。
その筆跡からは「楽器に対する自信」や「理解してくれて嬉しい」という林氏の気持ちが汲み取れます。
そして特筆すべきは、我々中古楽器屋がこの手紙を多々目にしたことがあるということです。
この手紙は新品で購入された時に付属したものですが、それが何人かの手に渡っても(もちろんワンオーナーの場合もありますが)、破棄されずに残っていることが非常に多いのです。証明書のような厚紙ではありません。普通のA4の紙ペラが数十年も綺麗に残っているのです。
きっとユーザーたちはこの手紙に”感動”しているのだと思います。他のブランドでこのようなものはあまり見たことがありません。
そしてこの手紙の思いはユーザーにしっかりと届いていることが分かる事例があります。
入荷したアトランシアの楽器にはこのようなメモ書きが残されていることがあります。こちら林氏の直筆の修理歴のメモです。
どういうことかと言うと、販売されたあとの楽器の修理やメンテナンスを林氏自身が数多く行っているということです。手紙にも書いてある「お気軽にご連絡ください」が本当に実現している現れだと思います。
もちろん販売店を通じての修理依頼も多いでしょうが、林氏に直接電話して修理、メンテナンスをしてもらったという話をお客様から多々聞きます。
実際、我々も過去何度も林氏に修理の依頼をしたことがあります。メーカーにとっては卸しているわけでもない、しかも中古専門の小売店に優しくしても何のメリットもないわけですが、同社は我々に対等に接してくれるのです。そんなところでも林氏の自分が作った楽器に対しての責任や、使い手への気遣いを感じられるのではないでしょうか。
10年保証を謳っているのがその最たる証拠です。
これだけビルダー自身とユーザーとの距離の近いブランド、ましてやそれを凡そ50年近く続けているようなブランドは世界的に見ても多くはないでしょう。
アトランシアユーザーの方々は、そんな林氏の人柄もアトランシアの大きな魅力として感じているのです。
時代の先駆者~神話を超えて~
次に林氏の楽器に対する考え方を語っているインタビューを紹介します。
コピーモデルを作っていた時代から感じていたことなのですが、「ギターはこうであってもいいんじゃないか」と思う点が私としては多々あった訳です。レスポールにしろストラトにしろ、外国で作られたモデルが評価されても、それは「或る一人の人間が考えて作ったらこうなりました」と云うことに対する評価であって、「だからギターはこうでなくてはいけません」と云うことでは無いと思うのです。
「私が自分で納得のいく発想で作ったらこうなりました」というギターが作りたかったわけで、そうなると、その発想を具体的に形にするためには既成のパーツでは間に合わない場合が多くなってくるんです。 ROCK’N ROLL NEWSMAKER 1989年10月号 VICTOR MUSIC INDUSTRY 社
そして、「伝統」という話題の中でギターよりはるかに歴史の長いバイオリンになぞらえて、「もし林氏がバイオリンを作ったら、オリジナリティの高いものができそうですね」というインタビュアーに対しこのように語っています。
バイオリンといえば、アマティーとかストラディバリウス等という名器の名前がすぐに上がりますよね。その名声が現代にまで及んで、今日のバイオリン職人たちは、できるだけオリジナルモデルに忠実に、工法までその当時に倣って膠なんかを使ってやっているようで、まあ、それも一つの方法だとは思うのですが、もし三百年前のイタリアのクレモナ市の職人たちが現代に生きていたら、恐らく最新鋭の工作機械をふんだに利用して、もっといいものを作ろうとするんじゃないかと思うんです。素材とか、技術とか、世の中の色々な物が進歩しているのに、それらを使わないという手はないんじゃないか、と私は考えるのですが。 ROCK’N ROLL NEWSMAKER 1989年10月号 VICTOR MUSIC INDUSTRY 社
このインタビューからは、アトランシアのオリジナリティ溢れる楽器は「他と違うものを作ってやろう」という考えのもとではなく、「こっちの方が理にかなっている。こっちの方が便利なはず」というどこまでも合理的、工業的な考え方で発展したデザインなのだということが伝わってきます。
さらに林氏はこのように続けます。
「どこか似ていて、どこか似ていない」位のものが、車でも売れているようですね。全く新しい発想のものは、抵抗が大きいらしく、買いづらいのでしょうか?でも、私としては、とにかく「自分の作ったものを理解してくれる人がいるんじゃないか」という気持ちがある ROCK’N ROLL NEWSMAKER 1989年10月号 VICTOR MUSIC INDUSTRY 社
その数年後のインタビューでもこのように語っていました。
オリジナル・ギターを製作するにあたってふたつの道があると思います。ひとつは市場のニーズを分析してそれに基づいてでデザインする方法。もうひとつは、ギターとは何かを考え分析し、こうあるべきだという信念に基づいてデザインする方法です。私のしてきたことは、前者もありますが後者が多いと思います。これは市場のニーズに沿っていないので、市場性は不明です。でも、進歩があってこそのギターの世界が面白くなるし、ユーザーのレベルアップにもつながると思います。そうなれば素晴らしいし、また必要なこととも思います。
常にアトランシア・ブランドのギターは、最初に考慮すべきことはオリジナリティという信念を今後も貫きたいと思っています。 Atlansia guitar world(株式会社立トーミュージック発行Guitar Graphic第1号より抜粋)
現代のエレキギターやエレキベースの多くは、今なおFenderやGibsonなどが70年前に作り上げたスタイルを踏襲したものがほとんどです。言ってしまえばそれが市場のニーズの大多数であるし、「伝統的なギターこそが至高」というある種の”神話”が存在しています。
そんな中、アトランシアはその伝統を全く無視して目新しい奇抜なモノを作っているのではなく、あくまで伝統を土台とし、合理的な機能性のある造形美を追求しています。
「ギターとはこうあるべき」という神話、「定番が売れる」という神話を超えた先にあるのがアトランシアの本質なのではないでしょうか。
美しく、優れた音色で、演奏性の高い楽器を作り出すために、既成の作り方にとらわれずに考えることを止めない。それがアトランシア・林信秋氏の哲学なのです。
4.歴代モデルで辿るATLANSIAの軌跡
当店に入荷した個体や、スタッフ、アトランシア様、及びお客様からお借りした個体/資料をもとに、いくつかのモデルを紹介します。
GARLAND
1978年頃に発表されたアトランシアのデビュー作であるガーランド。
アトランシアの最大の特徴とも言える円錐状のネックはこの頃から存在し、アトランシアが当時から異彩を放つ存在だったことが窺い知れます。
’86 GARLAND DELUXE BASS
’82 GARLAND Bass
CONCORD
1982年に発表されたアトランシアの第2弾モデル、コンコード。
大きくえぐられたカッタウェイは「パラボラ・カット」と名付けられています。
’91 Concord Super Model Active 3EQ
’89 Concord
Victoria
1985年に登場したヴィクトリア。
Fホールを有するアコースティックなデザイン。ARSピックアップタイプやハムバッカータイプ、ピエゾピックアップタイプなど様々なバリエーションがあります。
‘04 Victoria Special
‘89 Victoria
Solitaire
1986年に発表され、多弦化の流れのあった当時のベース界に一石を投じた少弦ベース、ソリテアー。
「ゆっくりな曲なら1弦で弾けるのでは」と、奏者ではない林氏ならではの発想ですね。結果として、パーカッション的に使われたり、多様な使い方がユーザーによって発展しているモデルです。
'00s Solitaire 1st FL
Stealth
1987年に初登場したステルス。
ピックアップ脇や指板エンド付近には親指を置きやすくするためのサム・ポケット加工が施されています。また極限まで無駄を削ぎ落としたヘッドシェイプは、優れたボディバランスをもたらします。
‘90 Stealth Deluxe
‘09 Stealth 2st
GALAXY
こちらも1987年登場のギャラクシー。
機能美を追求したボディデザインは、ハイポジションの演奏性を高めるために1弦側のホーンを削ぎ落とすという斬新なシェイプ。
’93 GALAXY BASS
JUPITER
1989年に登場したジュピター。
アトランシアには逆に珍しいトラッドなJBスタイル。ボディシェイプこそJBスタイルに近いですが、随所に独自アイディアが盛り込まれています。
Jupiter Special Freted Mod
PEGASUS
ボディシェイプ、木材の采配、配色、大胆なアームレストなど、ここまでたくさんの唯一無二のモデルを紹介してきましたが、まだ衝撃を受けることがあるのかというほどの斬新なデザイン。進化を止めないアトランシアがここにあります。
’06 Pegasus
PENTAGON
1993年頃発売のペンタゴン。
アームレストや、パラボラ・カット、サム・ポケットなど、今までのモデルの機能性を盛り込み、新しいボディシェイプに落とし込んだアトランシアのコンセプトの結晶ともいえるモデルです。
’94 Pentagon 5st ACTIVE 2EQ
’01 Pentagone Guitar
5.代表的な独自パーツ
アトランシアを語る上で外せないのが、ほとんどのパーツをオリジナルで製作、それも自社工場にて生産している点です。さらに言えば、そのパーツを作る機械すらも自作しています。
今では楽器界のスタンダードとなっているような構造が、大手メーカーが作り始めるずっと前からアトランシアが取り入れていたものも数多くあります。”独自性”や”唯一無二”さを取り上げてきましたが、むしろ世界を牽引している部分が多くあり、1人の日本人が立ち上げたアトランシアというブランドが世界に与えた影響は計り知れません。
このような独自パーツはどういった時に思いつくのかというインタビューには、「楽器を弾いている時ではなく、作っている時に思いつくことが多い」と答えています。作っている時、調整している時に不都合を感じて、だったら最初から調節可能なパーツを搭載したらどうか、というパターンが多いようです。
繰り返しの言い回しになりますが、やはり合理性と機能性を追い求め、常に考え続けているが故に誕生するパーツたちなのだろうと思います。
それではアトランシアベースに搭載されている代表的なパーツたちを紹介していきます。
ペグ
SLANTED WINDER
特徴的な斜めに取り付けるペグは、人間工学に基づいた設計。
今では多くのベースに取り入れられている構造ですが、アトランシアでは1978年に登場した最初のガーランドから採用されていました。
ロックペグも世界を先取って取り入れていたとされています。
ノブ
SLANTED VOLUME KNOB
ペグ以外にもノブが斜めに取り付けられていたり。
林氏が「デザインの良し悪しは機能的かどうかということと思います」とコメントしている通り、プレイヤーの使いやすさを追求していることが伺えます。
テンション・ピン
ROLLER TENSIONER
アトランシアのHPには「PATENT PAGE」が存在しており、実際にパテントを取得しているものも含め、170個のアイディアが掲載されています。ローラー式のテンション・ピンはその中で一番最初に紹介されているパーツです。
弦が接する部分をローラー式にすることによってチューニングの狂いを最小限に抑え、弦にダメージを与えにくく、また高さの調節も可能なのでテンションのかけ具合も調節できます。
ナット
ADJUSTABLE STRING NUT
弦の乗る部分がスクリューとなっており、工具を使わずに高さ調節が可能となっています。またスロットがV字型になっているため、どんなゲージの弦でも溝を切る必要がありません。
テールピース/ブリッジ
ATB-01
サドルがV字型に溝が切られたアジャスタブル・スクリューとなっており、工具を使わなくても手で回して高さの調節が可能となっています。
ATB-06 W/N “WILY/NOBLE"
「Atlanta Bass哲学の代表的存在、各弦独立テールピース」と謳うパーツです。
こちらのブリッジはなんとWILKINSON/N.HAYASHIと記載された、ウィルキンソンと林氏の共同開発のチューナー付きブリッジテールピースです。林氏がウィルキンソンを直接たずねた時に弦のねじれ対策について相談し、合作するに至ったそうです。
もともとウィルキンソンが持っていたアイディアをアトランシアが正式に許可を取って製品に取り入れました。
ピックアップ
ARC
アトランシアの象徴的なピックアップである各弦に対して独立しているARCピックアップ。回転させられるような機構になっており、手で回して音色を調節することができます。また、各ピックアップごとにEQやトーンコントロールを設けたりなどの展開も可能。
ARS
より小型設計のARSピックアップ。ARCのように回転はできませんが、弦間ピッチを狭くしたり、より多くのピックアップを搭載することが可能です。
写真は各弦に対して3個ずつ、計12個のARSを搭載した特別モデル。
6. ショップが語るアトランシアという楽器
年間数千本の楽器を取り扱う我々中古楽器店の目から見ても、アトランシアは一線を画す存在です。
手にしてまず思うことは「作りの丁寧さ」です。工業製品のように合理性を求められた造りながらも、大量生産品ではない手工品としての丁寧さがあります。
そして製品自体の堅牢さもさることながら、前述した通り林氏のアフターケアが行き届いている個体が非常に多いです。 「独自パーツが多くて、セッティングが特殊なのでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、一般的な楽器と同じく”普通の調整”ができるのです。特殊と思われがちな機構は全て理に適った構造をしており、使いやすくする為のもの。林氏の世界観だけではなく、使う側が”製作者の意図が読める”楽器なのです。
林氏の設計思想には、プレイヤーの使いやすさへの配慮が随所に感じられ、FenderやGibson、PRS、Spectorといった名ブランドと並べても違和感がありません。そして驚くべきは、それらと肩を並べるような構造やコンセプトを40年以上も前から形にしていたという事実です。
少数生産体制なので物の希少性の高さももちろんですが、現在、新品のみならず中古市場でも価格が高騰しています。1978年設立のブランドですが、いわば「時代が追いついた」とでも言いましょうか。
ベース界の”スタンダード”といえばやはりFenderになると思いますが、Fenderとは似ても似つかぬサウンドのアトランシア。非常に硬質なサウンドながらも低音域がグッと出てきてくれて、弾き手の思惑にしっかりと応えてくれるような安心感。2倍以上する価格のハイエンドベースと比べても全く遜色ない、むしろ近年のハイエンドベースが軽く思えてしまうような重厚さ。
初めて手にした時にはきっと「なんだこのネックは!」と思われるのがほとんどだと思いますが、ワンフレーズ試奏したあとには必ず「あれ、不思議と弾きやすいな」とほぼ全てのお客様が仰います。
アトランシアしか弾けなくなってしまうような弾き心地、アトランシアにしか出せないサウンド。そんなブランドは他にはない、やはり「唯一無二」なのです。
7.あとがき
林氏のインタビューを読んでいると、マツモク時代にコピー品を作ってきたことへの罪悪感や、ギター後進国であった日本への憂いを正直に話しているのが非常に印象的でした。
林氏自身がそのような立場にいたからこそ、PE-1500に始まり、アトランシアというオリジナリティの塊のような楽器を製作する矜持が生まれたというのも想像に難くありません。
ジャパン・ビンテージと呼ばれる、名器となった数々のコピー品は、そのような後ろめたさがありつつも、日本の楽器製作技術を高めた要因のひとつであることは確か。
そしてそんな背景があったからこそアトランシアが生まれたもの確か。
マツモク時代、デザイナーでありながら自ら現場で試作してしまっていたと語る林氏。そんな職人であるからこそ、自分で作っていく過程で「この方が合理的なのでは」と独自パーツを開発し、製造に使う機械やソフトですら独自開発してしまうという発明家っぷりです。
そんなルシアーであり、デザイナーであり、発明家である林信秋氏という人が日本にいて良かった、と一楽器好きな人間として強く思いました。
今回このコラムの公開のきっかけとなりました、新入荷商品のアトランシアが下記リンクよりご覧いただけます。是非チェックしてみてください!
商品に関するお問い合わせはメール/チャット/お電話で承ります。もちろん買取も大歓迎です!
出典:
Atlansia guitar world(株式会社立トーミュージック発行Guitar Graphic第1号より抜粋)
ROCK’N ROLL NEWSMAKER 1989年10月号 VICTOR MUSIC INDUSTRY 社
Atlanta 公式ホームページ(https://www.atlansia.jp/)
