TCGAKKI Selection

1956 Gibson Les Paul Custom

THE FRETLESS WONDER

1957年当時アメリカ、ミズーリ州のコロンビアに住む”Forbis”さんという男性が、地元の銀行から借入をしてギターを購入した証書とともに保管されていたものです
The guitar was purchased by a man named "Forbis" from Columbia, Missouri, USA, in 1957, with a loan from a local bank, and was stored with the deed.

Innovative Pickup

Designed around 1952 and developed by Seth Lover.

Solid Mahogany

Mother-of-pearl is used for fingerboard inlays.

Flagship Model

Split diamond inlays, the symbol of high-end models, are shining.

Gibson Les Paul Custom

made in 1956 - Alnico Pickups

ミズーリ州と聞いて何を想像するでしょうか。ルート66の起源となった道やバドワイザーの発祥の地、そして東側に位置するセントルイス。1950年代当時の街は活気にあふれ、一方まだ未開拓の地が残っていたような時代です。

そんな時代にギターを購入し弾き倒すアメリカの若い男の夢を想像したくなります。この楽器は様々なメッセージを携えてTC楽器で紹介することになりました。

ハードケースを開けた瞬間に目に入る漆黒のボディと相反するように輝くアルニコピックアップの銀光。
見た瞬間から心が躍っている現代の私たちのことを66年前のオーナーは想像できるでしょうか。

History

Owned by Mr. Forbis

1957年当時アメリカ、ミズーリ州のコロンビアに住む”Forbis”さんという男性が、地元の銀行から借入をしてギターを購入した証書とともに保管されていたものです。正真正銘のワンオーナー品となります。

モダンジャズで有名なサックス奏者のチャーリー・パーカーの出身地はミズーリ州、そしてセントルイスには国立ブルース博物館があったりと音楽ともゆかりある地域であることから様々な情景が想像されます。

ギターは本当によく弾かれていて、ネック裏の塗装が摩擦で剥がれいたりフロントPUの横にはガッツリとピックで弾いた跡が残っています。クラシックスタイルでギターを抱えていたのか、ボディバック面の下部にバックル傷が多く残っています。

もしかしたら”Forbis”さんは、細い階段を降りた地下にあるBarで暗めのスポットライトに照らされ、バドワイザーを呑みながらこの Les Paul Custom で Jazz や Blues を演奏していたのかもしれませんね。

The Fretless Wonder

「タキシードに似合うLes Paul」というコンセプトを元に作られたLes Paul Custom。ゴールドトップの華やかな煌びやかさとはまた違う、落ち着いた煌びやかさが印象的なモデルです。アーチトップギターをメインに使用していたジャズ・ギタリストをターゲットに、1954年 7月、当時から楽器業界最大級のイベントであったNAMM Showにてデビューしました。

ジャズ・ギタリストに向けて作られたモデルであるため、サスティーンを伸ばす事よりもスムーズなフィンガリングを重要視して作られており、他のレスポールモデルよりも幅の広いフレットが打たれていて、高さも他に比べて低く作られています。

当時のLes Paul Customのカタログには’’The Fletless wonder’’という見出しで掲載されており、これはまるでフレットをないかのような弾き心地を感じられるというGibson社自身が付けた愛称でもあります。こうしてLes Paul CustomはGibsonのレスポールモデルの中でもトップ・オブ・ザ・ライン=最高級機種としてのポジションを確立していったのでした。

1956年のレスポール事情

1956年のLes Paul Customの製造本数は489本となっており、55年、57年までで一番製造本数が多く力を入れられている年です。奇しくもこの年、エントリークラスのモデルとしてレスポール・ジュニアの生産も開始されます。そのジュニアの初年度の生産本数が3,129本だったことから見ても、Les Paul Customがいかに手間やコストをかけて作られていたかを伺い知ることもできます。

Les Paul Customが何故オールマホガニーになったのか、その理由は諸説ありますが、理由の一つとしてトップの木目が見えないブラックカラーだからという説もあります。
レス・ポール氏は当初メイプルとマホガニーの比率を逆にしてくれとGibsonに依頼したという逸話もあり、Gibsonがオール・マホガニーで販売すると知ったレス・ポール氏はかなり怒ったとも言われています。
Gibson社とレス・ポール氏との間では度々意見の食い違いなどが起きているので、こうしたそれぞれの思惑が歴史的なモデルの数々に繋がって行ったと思うと興味深いです。

レス・ポール氏とGibson社との出会い

レス・ポール氏とGibsonの出会いは1940年代まで遡ります。当時レス・ポール氏はカントリーミュージックのギタープレイヤーとして活動を行う傍ら、1930年代よりソリッドギターの研究を行っていました。まだロックもなく、フルアコースティックスタイルのギターしかなかった時代に、既にソリッドギターの概念を持っていたレスポール氏の先見性には驚かされます。1941年頃に彼は丸太を意味する「The Log」というプロトタイプを製作。これは文字通り丸太のようなネックに、切断したエピフォンのホロウボディを取り付けたものでした。そして1946年頃、レス・ポール氏はこの「The Log」をGibson社に持ち込み、それがレスポール・モデルの開発へと繋がっていくのです。

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Shin-Okubo, Tokyo Japan

1956 Gibson Les Paul Custom


ヘッド
上位機種の象徴ともいえるスプリット・ダイヤモンド・インレイが輝いている。
インレイ上に乗っかっていたトップコートが経年で剥がれていることで、より本来の輝きを見る事が出来る。
ヘッド外周に施された積層バインディングもLes Paul Customの特徴の一つ。

ネック/指版

ネックは1Pマホガニー、厚みは1F22mm12F25.2mm
ネックシェイプはゆるやかなカーブを描いたCシェイプで、19573PU搭載のCustomに比べて厚みがありしっかりと握り込む事ができる。

フレットは当時のターゲットでもあるJazzギタリスト向けに提案された"フレットレス・ワンダー"で仕上げられており、オーバーバインディングがあまり残っていない程低くなっている。
演奏面に直結する為、フレット交換をされている個体が多いが、こちらはしっかりと"フレットレス・ワンダー"を保持している。

指版は当時の上位機種に使われていたエボニーを採用。
塗装の黒にも引けを取らない程に真黒な材を使用している。
ブロックポジションマークにはマザー・オブ・パールが贅沢に使用されている。
サイド・ポジション・マークには単なる黒ドットでなくべっ甲柄の物が使われているので、色合いに画一でない趣きが感じられる。

ボディ

ボディは1ピースのマホガニーから削り出されており、トップにはハンドメイドならではの美しいカーブ(アーチ)加工が施されている。
これはLes Paul Customが生産中止となる1961年までの総じての仕様で、復刻された1968年からはメイプルトップ/マホガニーバックに変更となっている。

ヘッド同様にボディ外周に積層のカスタムバインディングが施されている。
スタンダードと違いボディバック面にもバインディングが巻かれているのが、上位機種に相応しい高級感を出している。
左右のアーチがとても丁寧に付けられ光が綺麗に統一して反射しており、まさにBlack Beautyと呼ばれるに相応しい見た目となっている。

ペグ

ペグはKluson 501VX(通称ワッフルバック)のパーロイド製ボタンを使用。
この頃のボタンは劣化しているものが多いが、この個体は比較的に綺麗な状態を保っている。
その後仕様変更により501VXが再び登場するのは1969年になるが、ボタンが金属製のものに変更されている。

ブリッジ&テールピース

ノンワイヤーのABR-1(ゴールドメッキのものはABR-2とも呼ばれる)ブリッジにアルミのストップテールピースが搭載されている。
1961年の生産中止まで同様のブリッジとテールピースだが、1968年の再生産時にはサドルがナイロン製になり、ワイヤーが付けられたABR-1が搭載されている。テールピースは引き続きアルミ製。

ノブ
1954年の発売当初はバレルノブが付けられていたが、1956年からこちらの個体に搭載されているベルノブに仕様変更されている。


ポット&コンデンサー

ポットは側面に錆があり確認出来ない箇所があるが少なくとも2つは、Centra Lab製の物を使用している。
コンデンサは1956年頃からGibsonで使われはじめた「Bumble bee」を搭載。根元が筒状になっているのは中期の仕様とされている。

ピックアップ(PU-480)

バードランドなど一部の機種に使われていた長方形のマグネットを使用したピックアップ。
1952年頃に設計されており、P.A.Fを開発した事でも有名なセス・ラヴァー氏が開発した。
アルニコVマグネットを使っている事から「アルニコV」「アルニコ・マグネット」なども名称で呼ばれている。
構造はDe-Armond社が開発したDynasonic PU(下記右写真参照)と似ており、ピックアップ横に付いているマイナスネジを回す事でピックアップが上下する仕組み。

ピックアップ(P-90)

1946年にウォルター・フラー氏が開発したシングルコイルピックアップ。1956年までのレスポールスタンダードにも搭載されており、レスポールジュニアやスペシャルなどでもお馴染み。
開発当初はバータイプのポール・ピースを使用していたが、1950年頃からアジャスタブルのポール・ピースに変更された。

サウンドインプレッション

P-90はハムバッカーにも匹敵するような温かみと芳醇な中/低音域を持っており、高音域のまろやかさは現行のP-90では中々感じる事の出来ません。シングルコイルのタイトさも兼ね揃えいる素晴らしいサウンドです。

PU-480はP-90と同様にタイトさを持ってはいますが、中音域の押し出しは強くリアに比べても更に箱物に近いサウンドキャラクターを持っています。ミックスではP-90の高音域とPU-480の中音域の押し出しが絶妙に組み合わさっている、まさに良い所取りのサウンドになっています。

Toneを絞ると他のエレキギターのように高音域はもちろん落ちますがサウンドのタイトさは失われず、P-90では特に3~4辺り、PU-480では5~6辺りが良い感じに高音域の角が取れ、アコースティックギターのような生鳴り感を感じる事が出来ます。

ネックシェイプは少し厚みがあり、まろやかなRを描いたUシェイプとなっています。
後年に発売された3ハムバッカーのLes Paul Customは比較的薄めのネックシェイプのものが多いので、それに比べると握り込んだ際に瞬時に手に馴染んてくれる印象です。
特にシェイクハンドスタイルで握り込んだ時にそれを感じる事が出来ます。

ボディ重量は約3.7kgとLes Paulの中では比較的軽く、ボディバランス自体はネックとボディが丁度同じくらいの比率となっている為、ヘッド落ちや逆にボディ側に引っ張られるという感覚もありません。

普段ストラトなどFender系を弾く私ですが、このLes Paul Customはそんな私でもサウンド、弾き心地共に瞬時に身体に馴染んでくれます。

総括・あとがき

今までPAF搭載期Les Paul Customしか触った事がありませんでしたが、かなり違う点が多く同じCustomではあれど別物と感じる事も多々ありました。ですが年代は違えどLes Paul Custom全体に通ずるサウンドのニュアンスを持っており、そこに関してはやはりどちらもCustomの名に相応しいモデルだと感じました。

またボディの重量バランスやネックシェイプなどは1950年代中期のLes Paul Standardに似ており、Les Paul Seriesとしての統一感を感じました。

ビンテージというものに触れる機会が難しくなりつつある中、現行品の「始祖」となる個体に触れる事が出来、ビンテージの価値とそれを使うアーティストがこれで無ければいけない理由が分かりました。

前オーナーがどのようなスタイルでどのように演奏していたかなど、勝手に考察をする事が出来るのは弾き込まれたビンテージの良さであり、綺麗なビンテージ、いわゆるミントコンディションの個体とはまた違った感情を得る事が出来ます。

【SPEC】
Body: 1P Mahogany
Neck:1P Mahogany
Fingerboard:Ebony
PU:Front PU-490 Bridge:P-90
Weight:3.7kg
Nut-Width:42.2mm


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