中古サックスが店頭に並ぶまで

<第二回> 〜板金・洗浄編〜

第一回では、題材となるSelmer A.SAX SERIE II を、様々な解説をしながら分解までをお見せしました。
詳しくご覧になりたい方は "第一回<分解編>" からどうぞ。

今回は、組み立て前の準備をご紹介します!
お料理でいうところの、下ごしらえですね。とても地味な作業の連続ですが、ここが要!
最終的な仕上がりの精度を大きく左右する、大事な工程です。

項目を分けると

  1. 板金(凹み・歪みを直す)
  2. トーンホールを整える
  3. 消耗品を外す
  4. サビ取り洗浄
  5. 磨き


となります。では順番にご紹介します!

1. 板金(凹み・歪みを直す)

組み立ての前に、土台を整えます。はじめに、凹み・歪みの修理です。

日々サックスを練習していると、
ちょっと休憩しますか〜。「ゴツッ!!」
なんて経験みなさん一度はあるかと思います。

イスや机のカドにぶつけたり、スタンドから倒れたり、、あれ?こんなところいつの間に凹んでた?等々…
ショックですよね、、そう、サックスの材質である”真鍮”は意外と柔らかい金属なんです。

でもだからこそ、凹みは直せます!

Before

After

ヘコみの部分は、万力に固定した芯金で内側から押し出します。逆に、ヘコんだ衝撃で金属が膨らんだ部分はハンマーで慣らしていく。ヘコみをピンポイントで押し出す(ヘコんでいない箇所は膨らませない)というのは熟練の技術が必要です。

💡くぼ管ポイント

なるべく少ない手数で直すのが、管体へのダメージを最小限にするコツですね。
目視ではっきりわかる凹みはもちろん、気付きにくい(浅い)凹みも全て綺麗に形を戻しました。

2. トーンホール(音孔の精度を整える)

音孔(=丸く開いている穴)のことを指します。
このトーンホールは、管体から引き上げ という製造方法で作られます。工場での製造時に、なるべく平らに整えられてはいるものの、その精度は完璧ではありません。

つまり、「完璧なタンポ調整」を目指すなら、「完璧(フラット)なトーンホール」が必要。ということです!
ですのでくぼ管では、オーバーホールするならトーンホールの精度まで突き詰めます。
(実際、結構手間のかかる作業ではあります😭)

具体的には、幅広の平らなヤスリ、または平らなアクリル板を当てて、タンポ合わせと同様に光で隙間をチェック
→削って修正の手順で行います。(もちろん削りすぎはNG!髪の毛1本分ほどの最小限の幅で整えます!)

💡 タンポ調整とは?

トーンホールにタンポがどのように着地する(塞がる)か、を合わせる作業のことです。
この精度が高いほど、響きのロスが無くなり、良い楽器・良い調整。とされるかなり大事な要素です。
(厳密に言えば、その後のバランス調整でも左右されるのですが)

Before

After

3. 消耗品(コルク・タンポなどを外す)

真鍮製であるキイとキイの間には、主にバランス調整のために、コルクやフェルト、チューブが付いています。
この消耗品には、バネの力が常にかかっており、時間とともに潰れたり、油や水分を吸って硬変したりします。

これらは接着剤で付いているので、キサゲという工具でこすって全て外します。

STEP 1|コルク・フェルト・チューブを外す

リペアマンの方しか共感してもらえない情報ですが、、
このとき、今のコルクの厚みとキイの開きを確認しておくと、新しいコルクを付けるときにスムーズですね💡

STEP 2|タンポを外す
タンポはシェラックという熱で溶ける接着剤を使っているので、カップ側からバーナーで熱を加えて外します。

STEP 3|サビ取り準備
サビ落としの薬品は、表面にしか作用しないので、こんもりした緑青が出ていたり、ラッカーの下に出たサビを落としたい場合は下準備をする必要があります(これがまた、名もなき作業で時間がかかる、、、)

キイに傷をつけないように、(使い込んでいい感じに刃の丸くなった)キサゲで、表面だけ優しくこすり落とします。

4. サビ取り・洗浄(長年の汚れを落とす)

🛁 さあ、お風呂の時間です!

ここまででやっと本当に丸裸になりました!

長年使い込んだことによる、古い油(真っ黒)・ホコリ・(たまに猫の毛)・緑青・赤サビをすべて落とします!
※管体は、トーンホール削りのあとに洗浄することで、削り粉もすっきりです!

ネックの赤サビが落ちた様子

魔法のサビが落ちる液にいれて、、(パームDキイ)

30個ほどある全てのキイを薬品につけ、洗剤をつけたスポンジで優しく洗ったら、ほらスッキリ!
ところどころ真っ赤だったキイが、黄色〜薄ピンクの地金の色に戻りました👏

洗い終わったあとは、キイパイプの中に水と古い油汚れが残っているので、お掃除します!

5. 磨き(真鍮本来の輝きを取り戻す)

やっと最後の作業です!

赤サビが濃くでていた場合は、キイ自体も変色しているので、ペースト状の金属磨きを使用します。
そうすると、元の真鍮の色が戻り、艶が出ます。酸化防止とともに、ラッカーの残っている部分とも馴染むので一石二鳥!

Befor 上:サビ取り洗浄後の状態(パームFキイ)

After 下:さらに磨いた後の状態(パームDキイ)

※元のサビが軽度なものや、マットな質感を残したいものは、敢えて磨かない場合もあります。

そしてこの磨き作業、実はかなり手間がかかります。
それでも、ここまで手を入れるのは、くぼ管のポリシー。

「中古だからこんなもんか」、「多少汚くても仕方ないよね」というような、
 中古 = 綺麗じゃないというイメージを払拭したい。

目につかないキイの裏側まで一つずつ丁寧に磨いています。

と、お時間が来たので今回はここまで!

NEXT|次回予告

いよいよ、組み立てへ!

ここまでで、なんと半日。できれば新しい消耗品の取り付けまで進めたかったのですが、尺が足りず…。
次回は念願の「組み立て」まで入るはず!
どうぞお楽しみに!

この記事を書いた人:武智 (大久保管楽器 サックスリペア担当)
バリトンサックス吹き。愛用楽器はSelmer Paris SERIE2。

略歴:
神奈川県出身。グローバル管楽器技術学院卒業。社会人吹奏楽団に所属中。

保有資格・実績:
大久保管楽器のサックス修理を一手に担い、これまで500本強のオーバーホールを仕上げる。

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