ギターアンプと言えばマーシャルと並んで知名度の高いフェンダーアンプ。アメリカンサウンドの代表的ブランドと言え、Mesa/Boogieなどその後多くのメーカーに多大な影響を与えています。アンプオンリーな他のブランドと異なり、エレキギターやベースなどの製造でもトップレベルなのは言うまでもなく、信頼できるトップブランドと言うことができるでしょう。また1940年代から半世紀以上に渡ってアンプを作り続けているという長い歴史を持ち、フェンダーの歴史そのものがアンプの歴史と言っても過言ではないでしょう。
ロックと言えばマーシャル!マーシャルと言えばロック!やや乱暴な表現ではありますが、これに異を唱える人は少ないかと思います。ではフェンダーと言えば何?
この答えが難しい…フェンダーアンプはロックはもちろんカントリー/ブルース、ジャズ、ハワイアンなど実にさまざまなフィールドのプレイヤーから幅広く愛されています。ベンチャーズからミッシェルガンまで。こうした多彩さ、間口の広さがフェンダーアンプの魅力なのでしょう。
しかしそんなフェンダーアンプ、あまりに種類が多すぎてどれを選んだら良いか分からない~という方も多いでしょう。そこで今回はフェンダーの歴史をわかりやすく紐解きながら、そんな貴方にぴったりのフェンダーアンプを探していきましょう。
フェンダーアンプの時代背景
フェンダーの創始者としてお馴染みのレオ・フェンダーが生まれたのは1909年のこと。そろそろ100年が経ちます。まだ発明王エジソンが蓄電池などを作っていた頃。日本では明治42年。かつての1000円札、伊藤博文が銃弾に斃れたのもこの年でした。
1938年、すでに独学でラジオなどの修理や製作に高い技能を持っていたレオはカリフォルニアに自身の店を開きます。その名も「Fender's Radio Service」。これがフェンダーの歴史の幕開けとなります。当時は自身で製作したPA機器をレンタルしたり、ラップスティールなどの楽器を製造、販売したり修理したりしていました。
やがてレオは、友人のミュージシャンでエンジニアでもあったクレイトン・カウフマン(通称ドク)とラスティールギター用のアンプの製作を始めます。これが完成したのは第二次戦後間もない1945年の終盤のこと。このモデルは二人のイニシャルを併せてK&Fと名付けられました。これがフェンダーアンプの原点とも言えるモデル。世界初のソリッドボディエレキギターが登場するよりも3年以上前のことでした。一年後の1947年、カウフマンと袂を分かったレオは自身でさらなるニューモデルの開発に勤しんで行きます。フェンダーのロゴを冠した初のアンプはModel 26sと呼ばれ、これがフェンダーアンプの、ひいては世界の歴史の始まりとなったのです。
フェンダーアンプにまつわる巷の噂
フェンダーアンプといえば良くある話。「ツイードに限る」「ツインリヴァーブがあれば大丈夫」「銀パネの音が渋い」「ポール・リヴェラのデザインが~」「赤ツマミのザ・ツインの音が太い」「ヴァイブロキングが一番」などなど。なるほどこれらはいずれも各時代の魅力的な側面を端的に語った言葉だと思います。しかし、いずれも正しい意見だとすると何が一番いいんだろう?とわからなくもなったり…。そこでここではそれぞれ話題のモデルがどんな歴史的関係にあるのか、わかりやすく考察してみましょう。
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各年代のおおまかな音の特徴
上記でフェンダーアンプの大筋の歴史の流れがおわかり頂けたかと思います。それでは音についてはどのように変遷したのでしょうか。各モデルの詳細な特徴はひとまず置き、ここでは各時代の音の傾向の流れを追ってみましょう。
まずはツイードアンプで知られる50年代、世界初のソリッドボディエレクトリックギターやロックミュージックが登場したのがこの時代。エレキギターにまつわる様々な要素の創世記ということができます。逆に言えば歴史も浅くそれだけプリミティブだったとも言え、シンプルな機能のものがほとんどです。故にそのサウンドもシンプルかつストレートで、草創期のロックやそのルーツとなったR&B、カントリーなどのリアルタイムなトーンに溢れています。
60年代に入って最大の変革はリヴァーブの登場でした。またミュージックシーンの拡大に伴って、出力の大きなものが主流となり、それまでのプリミティブに歪むサウンドから、もう少し余裕のあるトーンへと移り変わって行きます。これが後に「フェンダーサウンド」とも言われるアメリカンサウンドのスタンダードとなり、ウエストコースト系ロックやブルースロックなどのサウンドに顕著にあらわれているでしょう。
60年代後半~70年代になると、ハードロックの台頭に伴いコンサート規模も拡大し、音量もよりラウドなものが求められるようになって行きます。加えてPA機器がまださほど充実していなかった時期でもあり、アンプに求められたのはクリアでよく通る音でした。シルヴァーフェイスに象徴されるこの時代のフェンダーアンプも、それまでのアメリカントーンは保ちながらも、よりシャープで切れ味の良いサウンドへと移り変わっていきます。
そして80年代、多くの変化が訪れた時期でした。PAやスタジオ機器の急速な発展により、多彩なサウンドメイクが可能になって音楽ジャンルも多岐に渡っていきます。それまでのロックミュージックは産業型のビッグビジネスとなり、またニューウェイヴやパンク、ヘヴィメタルなどより多彩で過激なサウンドが求められるようになりました。フェンダーアンプでは初のクリーン/ドライブ切り替え式のモデルが登場し、多くの新機能を持ったモデルが次々と生み出されて行きました。今でこそ「産業ロック」と呼ばれるスタジオワークの賜物的サウンドの数々がこの時代の機器で録音されています。
「新しさ」が全てを支配していた80年代が過ぎると、シーンは新奇さよりピュアさを求めるようになります。テクノロジー過多とも言えたそれまでに反発するかのように、余計なもののないシンプルなものが再び求められるようになりました。古き良きものが見直されたのもこの時期で、フェンダーではヴィンテージリイシューモデルの生産が始まります。また、カスタムアンプショップがスタートし、ハンドワイヤードのシンプルでピュアなトーンを持ったモデルが作られました。
そして今に至る2000年代、デジタル技術も飛躍的に進化し、ヴィンテージモデルが評価される一方でそれらのデジタルモデリングなども主流となり、混沌としながらも新旧両時代の魅力的な全てが共存していると言えます。各時代の技術的な問題などから、「使えるもの」であるためには進化、変貌を遂げなくてはならなかった50~80年代と異なり、「全てが使えるテクノロジー」に支えられ、各時代の要素が全て共存できるのが現代ということができるでしょう。
このように各時代のサウンドとは、その時代時代のシーンやテクノロジーなどが如実に影響しているということができます。各時代のレコードなどを聴きながら思いを馳せてみるのも面白いでしょう。
ヴィンテージアンプとブティックアンプ
こうした流れの中、フェンダーのオールドアンプ、特に50年代のツイードアンプなどはヴィンテージアンプとして昨今、高い評価を受け、多くの人々の憧れの存在となっており、既にヴィンテージの代名詞的存在となっていると言えます。これらツイードアンプの持つ魅力とは一体どんなものなのでしょうか。
無論、ツイードアンプと言ってもモデルや年代など無数に存在しますので一概には難しいのですが、共通する要素としては「シンプルな回路」というものが上げられます。後の世代のアンプのようにゲイン回路や複数のチャンネル切り替えなどがなく、そのヴォリュームとトーンだけというシンプルな回路であるがために、信号のロスやスポイルが少なくピュアなトーンを得ることができます。エフェクターを沢山つなぐと音色が豊かになる反面、楽器からの信号はロスが多くなっていくのとに似ていて、謂わばツイードアンプはニュアンス的に「回路直結」のようなストレートさが得られるのです。これをお手本にしているのが最近流行りとも言えるブティックアンプで、不要な機能を省き、回路をできるだけシンプルにすることでピュアなトーンを引き出そうとしています。このようにフェンダーのオールドアンプはヴィンテージ系のモデルだけでなく、現代のモダンなシーンに対しても多大な影響を与えているということができます。
そもそも「ツインリヴァーブ」ってなんだ?
「フェンダーのアンプならまずはツインリヴァーブ」これは皆さん知っていることでしょう。しかし例えば、楽器屋さんで「ツインリヴァーブください!」と言っても「どのツインリヴァーブでしょう?」と訊き返され返答に困ることはありませんか?「なんでツインリヴァーブだけでそんなにいろいろあるんだ!」ともうそこでフェンダーアンプを探すのが嫌になってしまう人もきっといるはず。でも大丈夫です。ツインリヴァーブとはフェンダーアンプのフラッグシップ的モデルで、基本的には各時代一種類しかありません。日産のスカイラインと同じです。歴代各ヴァリエーションがあれどスカイラインはスカイライン。詳細はともかく、歴史の流れがわかれば怖くありません。そこで一目瞭然のツインリヴァーブの歴史をご覧ください。
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フェンダーアンプ各モデル早見表
フェンダーの各時代でいろいろと変化していくことがわかりました。ツインリヴァーブの歴史もわかりました。でも他にもデラリバだベースマンだって他にもいろいろあって何がいいのかわからない~!そんな場合は簡単。名前にとらわれずパターンで憶えましょう。いろいろなモデルがあると言っても基本的には各出力(パワー)とスピーカーサイズと本数の組み合わせに過ぎません。マーシャルなどの50Wと100Wに当てはめて考えればわかりやすいと思います。
大きく分けてフェンダーのチューブアンプは出力的には4つのパターンしかありません。約10W以下の超小型、25W前後の小型、50Wくらいの中型、100Wクラスの大型、これだけです。これに各スピーカーの大小の組み合わせでモデルが決まっています。スピーカーは15インチ(特大)、12インチ(大)、10インチ(中)、それ以下(小)の4種類くらい。例えばTwinは大型のパワーに大スピーカー2本のモデル。Deluxe Reverbは小型パワーに大スピーカーが1本です。Vibrolux Reverbは中型パワーに小型スピーカー2本、Pro ReverbとSuper Reverbの違いはスピーカーだけで、中型パワーに大スピーカー2本だったらPro Reverbで中スピーカー4本だとSuper Reverbです。下記に代表的なモデルを比較表にしてみました。お好みのサイズを選んでみましょう。
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上記表から各モデルの出力部とスピーカーの関係がおわかり頂けると思います。それではスピーカーによる音の違いとはどんなものなのでしょうか。
スピーカーによる音の違いは主に、1. サイズでの違い、2. 本数での違い、3. ブランドによる違いの3種類が考えられます。
まずサイズでの違いについて。一般にスピーカーはサイズ(直径)が大くなればなるほど、より低域の再現性に優れたものになっていきます。ベース用のスピーカーやサブウーハーなどが巨大なのもそれが理由です。逆に小さければ小さいほど、高域の再現性に優れ、オーディオ用のホーンドライヴァーなどはそれに当たります。
次に本数について。スピーカー部の許容入力数は各スピーカーの許容入力の合計になりますので、スピーカーの本数が多ければ多いほど、許容入力は大きくなります。一定の入力に対して、許容入力が大きければ各スピーカーへの負担は少なくなりますのでオーディオ的に再現性の高い、レンジの広いサウンドを得ることができます。逆に負担が大きくなると(あくまでオーディオ的に)再現性は低下しますので、ミドルよりのファットなサウンドになります。例えるなら、大きな重い荷物を運ぶイメージでしょうか。大勢で運べば「余裕な感じ」になりますし、少数で運べば「力いっぱいな感じ」になります。スピーカーの音もそんな具合です。
そして最後にブランドごとの違いですが、これはある種時代性も反映しているとも言えます。フェンダーアンプで使用されてきたスピーカーとして有名なブランドは主にJensen、Oxfored、EMINENCEがあり、Jensenは50年代に良く見られるスピーカーで、軽いコーン紙と軽いマグネットにより乾いた弾けるような鳴り方が特徴的です。コーン自体も薄いため楽器のアタックによっては歪みがちで、カントリーなどでみられる「アタックはパリっと軽く歪んで、サスティンはクリーン」というようなサウンドもJensenの得意とするところです。一方Oxfordは60年代を中心に使用されてきたスピーカーで、粘りのある甘いサウンドでリヴァーブとの相性も抜群です。伸びやかなブルースソロなどには最適でしょう。そしてEMINENCEは現在も多くのアメリカンブランドで使用されているスピーカーでこの3種の中では最もフラットと言って良く、レンジが広く素直なサウンドで知られています。フェンダーアンプでは70年代以降のモデルで目立ちます。シルヴァーフェイスのきらびやかなトーンなどはこのEMINENCEスピーカーによるところも大きいのでしょう。また例外として当時フェンダーがオプションとして販売していたJBLを搭載したモデルも見受けられます。JBLはオーディオ用としても評価の高いスピーカーで、倍音を良く含み、ワイドレンジながら優しく繊細なサウンドで特にジャズ系の愛好者たちから好まれています。
こうしたスピーカーの特徴がわかったところで、各アンプのサウンドがよりイメージしやすくなったことかと思います。例えば、Jensenの12インチを1発搭載した25Wモデル、EMINENCEの10インチを4発搭載した50Wモデル。それぞれのサウンドを思い浮かべることができるでしょうか?
プチ知識
ギタリストよりもアンプが主役!? ツイードアンプのツマミの位置の謎。
リイシューモデルでもそうですがベースマンなどツイードアンプを使っていて(あるいは試してみて)、「何でツマミが後ろ向きについているんだろ。操作しにくいな~」と思ったことはありませんか。ツインリヴァーブなどは前面についているのに、ツイードアンプは何故上部に、しかも後ろ向きについているのでしょう?確かにこれでは正面からは見辛く、操作性の良いものではありません。では何故に?
答えは「当時はアンプの後ろに立って演奏していたから」です。ツイードアンプが主流だった50年代、バンドというものはまだまだ「バックバンド」である場合が多く、ステージで目立つのはあくまでシンガーでした。また、PAシステムが充実していなかったということもあり、ギターアンプの音を客席に出すためにアンプはギタリストよりも前に置かれるのが通例でした。そのため後ろから操作しやすいように、この位置にツマミが設置されているのです。オープンバックのモデルが多いのも同じ理由からでしょう。ステージ上にはシンガーとアンプだけ、バックバンドは幕の後ろで演奏するというようなことも少なくなかったようです。
60年代に入り、ロックミュージックの普及と共にギタリストがステージ上で目立つようになり、アンプの前に立って演奏するスタイルが主流になるにつれ、アンプの方も全面にツマミがついたモデルに切り替わっていきます。
カスタムショップとカスタムアンプショップ
現在カタログなどで多く見かける「カスタムショップ」の表記。実はこれには2つの種類があることはご存じでしょうか。マスタービルダーギターなどでお馴染みの「カスタムショップ」アンプと、より専門にアンプをデザイン/ビルドしている「カスタムアンプショップ」アンプです。前者「カスタムショップ」は世界トップレベルのギター作りで培った木工技術を生かして、既存アンプのエンクロージャーなどをモディファイします。Blues Jr.の外装を美しいハードウッドで仕上げたWoody Jr.などはその恒例で、サーキットは通常のモデルと同じながら、エンクロージャーだけでここまで音が違うのかと唸らせてくれます。独創的なルックスを持つTwo Toneも同様で、通常のBlues Jr.に10インチと12インチの異なる2つのスピーカーを組み合わせ個性的なトーンに仕上げています。
一方、 銘機Vibro KingやTone Masterなどでお馴染みの「カスタムアンプショップ」は完全に通常のラインから独立したハンドメイドプロジェクトで、アンプの設計/デザインから制作まで独自で行い、フェンダーアンプのトップラインとして幾多のニューモデルを開発しています。
隠れた銘機たち
Super Champ('82~'85)
ポール・リヴェラのデザインで有名な、小型アンプのヒット作。それまでのチャンプのサイズに10"インチのスピーカーを搭載し、クリーン/ドライブの2チャンネル切り替え及びリヴァーブを搭載させたモデル。小型化させるためプリ部に6C10を使用するなど独創的な回路で、小出力でも他モデルにはない個性的なチューブトーンが得られるため、今でもレコーディングなどで愛用しているミュージシャンが多い。
Prosonic('95~'01)
フェンダー初のClass A/AB切り替え及び、真空管/ダイオードの整流回路の切り替えを可能にしたモデル。スピーカーにはセレッション10"インチを2発マウントし、2つのゲインコントロールにより従来のフェンダーサウンドから、英国風ブティックアンプのトーンまで再現した実力派モデル。Class A時のファットでピュアな音圧は2x10"とは思えない重量感を持っていた。カスタムアンプショップによるデザインで、当初はカスタムアンプショップのラインから生産される予定だったという。群を抜くトーンキャラクターを持っていたが、他のモデルに比べて認知は高くないままに生産完了となった。