Ibanez AR History

Ibanez AR(The ARTIST SERIES)の歴史

これまでAria Pro IIやYAMAHAのオリジナルモデルにフューチャーした記事を書いてきましたが、まだまだ欠かす事の出来ないブランドとモデルが沢山あります。

その中でも今回取り上げるのは、Ibanez(アイバニーズ)のオリジナルモデル「AR」についてです!Ibanezといえば現在では、ハードロックやメタル系で人気の多弦ギター、ジャズ向けのフルアコースティックギター、さらには多彩なエフェクターなど幅広いラインナップを展開するブランドとして知られています。

そんなIbanezから1970年代に登場し、海外で熱狂的な支持を得てから日本へ「逆輸入」という形で凱旋した伝説のオリジナルモデル、それがThe Artist Series 「AR」です!

ここからはARが誕生するまでの歴史とARの仕様について深掘りしていきます!

100年以上の歴史を持つIbanez

Ibanezは星野楽器株式会社が持つブランドの一つです。
星野楽器=Ibanezの歴史は1920年代まで遡ります。
1908年に星野書店の楽器部が創業され、1929年に星野楽器が設立されます。

そして1929年にスペインのSalvador Ibanezというクラシックギターやウクレレを取り扱うブランドの輸入販売を行います。

1935年にはガットギターの製作を開始、その際にブランド名を「Ibanez Salvador」というブランド名で発売し、これが後にIbanezへと変更されていきます。

海外へのアプローチと自社工場の設立

その後、第二次世界大戦による名古屋空襲で社屋や工場などが全焼してしまいましたが、1947年頃にはギターの製造を再開します。

この時に製作していたべっ甲製のピックが海外の顧客から注文が入った事をきっかけにして海外輸出に本格的に力を入れていきます。

1950年代に入ると海外で人気が出始めていたエレキギターにも着手をし始め、Guyatone製のエレキギターをIbaenzブランドで輸出を開始。

1962年には多満工場を設立しオリジナルモデルのエレキギターやアンプを開発/輸出を開始します。

ちなみにこの多満工場は、現在ドラムで有名なブランドTAMAの元となっています。

富士弦との出会いとオリジナルモデル「The ARTIST SERIES」の登場

1970年当時、世界的なエレキギターブームが巻き起こり、Ibanezを展開する星野楽器は、自社工場である多満工場だけでは生産が追いつかない状況に陥りました。

 そこで富士弦楽器製造(現・フジゲン)と提携を結び、エレキギターの共同開発をスタート。

これにより、数多くのコピーモデルやオリジナルモデルの製造が進んでいきます。

また1970年には富士弦楽器製造が直接貿易から撤退し、国内販売を神田商会、海外向け輸出を星野楽器に委託する体制へ移行しました。これにより流通が明確化され、より安定した供給が可能になります。

さらに富士弦楽器製造では、1969年の社長交代を機に品質向上への取り組みが強化され、それまでの技術基盤を活かしながら生産精度が大幅に向上しました。

この時期から、国産エレキギターのクオリティは飛躍的な進化を遂げ、後の“国産ギターブランドの黄金期”へとつながっていきます。

以降多満工場は「TAMAドラム」の製造に集中をするようになります。

1970年代中頃にはオリジナルモデルの開発も行い、73年にはアーティストとタイアップした「The ARTIST SERIES」として2611/2612/2613/2614/2615/2616を発売します。

2615/2616以外はダブルカッタウェイのES-339のようなボディシェイプを持ったボルトオンモデルとなっており、それ以降のARシリーズの原型ともなっているモデルです。

1975年にはLPスタイルのボディシェイプを持ち、テールピース後ろにマザー・オブ・パールのインレイの入った豪華な仕様を持つ2405と、ダブルカッタウェイの薄めのボディにジャーマン・カーブのような落とし込みが施された2617などが発売されます。

翌76年には「Professional Series」としてアーティストが使用していた個体の仕様をほぼそのまま再現したリミテッドモデルが発売されます。

Professional Seriesではグレイトフルデッドのボブ・ウェアーモデルの2681やランディ・スラックスモデルの2671が発売。

 この2機種には現在のIbanezの上位機種にも採用されているツリー・オブ・ライフ インレイを採用。

ボディバインディングのアヴァロンも相まって非常に高級感のある見た目になっています。

The Artist Seriesは順風に見えましたが、1977年にGibsonの親会社であるノーリン・コーポレーションが星野楽器の海外輸入業者へGibsonのヘッドストックとロゴを使用しているとして訴訟を起こします。

1978年には和解をしますがこれ以降星野楽器はコピーモデルの製造を辞めオリジナルモデルの開発により一層の力を入れていく事になりました。

70年代後半といえば日本はコピーモデル全盛期の時期ですが、この時期にコピーモデルを辞めオリジナルモデルに絞られた事でIbanezの独自性を持ったモデルが開発されたのかもしれません。

国内への販売開始とARの登場

海外アーティスト仕様のモデルや国産エレキギターの市場拡大、Ibanezのカタログが店頭に並ぶ事によって70年代後半徐々にArtist Seriesは国内からの人気が高まってきます。

そしてついに逆輸入という形で1979年にThe Artist Sereisが国内での販売を開始します。その際にモデル名を4桁の数字からARに変更します。

こうしてIbanez ARが誕生しました。

1979年以降は細かな仕様変更や様々なモデルが登場し、国産オリジナルモデルとしての地位を確立していきます。

ここからはTC楽器に過去に入荷したThe Artist Seriesを見ながらARの仕様遍歴を見ていきます!!

Ibanez AR モデル紹介
2405

1975年発売されたマンドリンのようなヘッドシェイプにシングルカッタウェイのボディシェイプを持つモデル。

ヘッドには壺型のインレイ、指版には当時のIbanezマンドリンにも採用されていた模様のようなインレイが施されています。

テールピース後ろにはマザー・オブ・パールの煌びやかな装飾が施され、アンティーク家具のような高級感のあるモデルとなっています。

2617

1975年に発売開始されたArtist Seriesで初めてセットネックを採用したモデル。
その他にも指版にエボニー材を使用した事やポジションマークにアヴァロンブロックを使用したのも、2617が初めてです。ダブルカッタウェイにジャーマンカーブのような落とし込みが施されたボディシェイプはARと似ており、ARの原型とも呼べるモデルです。

Artist Seriesは70年代にヘッド形状など仕様変更が見られます。
こちらの個体は78年製のため過渡期の仕様となっており、ヘッド形状がGibsonのようなシェイプから先細りのシェイプに変更されています。

2681

1976年から79年までのわずか3年間製造されていたモデル。Ibanezが海外アーティストのために制作した個体と同一スペックで市販化した「Professional Series」の一つです。

2681はグレイトフル・デッドのBob Weirモデルになりますが、他にも2681のシングルカットバージョンの2680 Randy Scruggsモデルなどが発売されていました。

ヘッド形状は「バッファロー」とも呼ばれているツノが2本生えたような独特な形状をしています。

外周だけで無くIbanezロゴの上の内巻きになった部分にもバインディングが巻かれているのは、富士弦の技術力の高さを伺えます。

指版にはツリー・オブ・ライフという旧約聖書に登場する生命の樹をモチーフにしたインレイが施されています。

こちらのインレイは現在でも一部のIbanezのモデルには採用されており、Ibanezの象徴的なインレイにもなっています。

ボディは2617と似ておりジャーマンカーブのような落とし込みが施されていますが、カッタウェイのツノ部分が少し短くなっており少し小振りにいる印象があります。

ピックアップは時期によって異なりますが、77年仕様変更以前はSuper 70を搭載。

上記の個体は76年製でPU上面にIbanezの刻印が施されています。

77年以降はSuper 80を搭載。

こちらはポールピースの穴が空いておらず、ピックアップカバー上面に「フライングフィンガー」というオリジナルマークが刻印されています。

2680

2681と同様のスペックを持ちながらも装飾が簡略化され価格設定も低くされたモデル。

アッシュボディやエボニー指版、セット・イン・ネック、ピックアップなど基本的な仕様は2681と同じですが、指版のツリー・オブ・ライフ インレイがドットポジションマークに変更されており、ボディのバインディングもアヴァロンからクリーム色のセルバインディングに変更されています。

ARシリーズ
AR100

国内販売モデルとして一番安価な価格設定で販売開始したモデル。
モデルの立ち位置的にはエントリーグレードですが、ヘッドの特徴的なインレイやジブラルタルブリッジなどのARの特徴はしっかりと持っています。

1983年にピックアップがSuper 58に変更され、それ以降はトーンノブがpush構造となり、デュオサウンド機能が搭載されます。

AR105

ボディトップにバールマホガニーを使用したモデル

コントロールやピックアップなどのパーツはAR100と同じですが、ボディ材がバールマホガニー+メイプル+ナトーといった現代でもあまり見る事の無いのウッドマテリアルのモデルです。

AR112

AR100を基に12弦仕様になったモデル。

12弦仕様になった事以外はAR100と同スペックです。

AR300

Ibanez ARを代表とするモデル

AR200でフロントピックアップに採用されていたトライサウンドシステムを、フロントとリアのどちらにも搭載し、指版にはアヴァロンブロックインレイ、ボディ外周にもアヴァロンを使用したモデルで、ARの中では一番人気があり流通数も多いモデルです。

チェリーサンバーストやアンティークヴァイオリンといったARらしいカラーの他にゴールドやホワイトなど様々なカラーバリエーションを持ちます。

サスティーンブロックといった金属のブロックをブリッジ下に入れ、サスティーンの向上を図られています。

トライサウンドシステムはピックアップをシリーズ/パラレル/シングルコイルの3種類の出力が出来ます。

AR305

AR100を基に12弦仕様になったモデル。

12弦仕様になった事以外はAR100と同スペックです。

AR300を基にボディ材にバールマホガニーを使用したモデル。

基本的なスペックはAR300と同様ですが、ボディにバールマホガニーを使用。

AR105と共に1981年にラインナップに追加されます。

カラーはAR300と違いアンティーク・ヴァイオリンのみとなっています。

1984年にはエスカッションが金色に変わり、85年には21フレット指版に[SUPER EDITION]のインレイが施されます。

AR550

AR500のマイナーチェンジモデルとして国内専用モデルとして発売されたモデル。

AR500はAR300同様にトライサウンドシステムを搭載、更にアクティブ回路の3バンドイコライザーを搭載したモデルですが、AR550はAR500を愛用していたオフコースの鈴木康博氏からのアドバイスを基に開発されました。 

重量のあったサスティーンブロックを廃止して軽量化を図り、トライサウンドシステムはデュオサウンドシステムへ変更するなど、ステージでの実用性を重視したより実戦的な仕様へと昇華されています。

ミニスイッチがフロント/リアのデュオサウンドシステムのスイッチとイコライザーのON/OFFスイッチとなっており、AR500よりも簡略化されています。

スイッチ横のLEDはイコライザーがONの時に光るようになっています。

AR112

2000年にLimitedモデルとして販売されたモデル
AR2000は1998年から海外で販売をしていましたが、2000年にPrestigeとして国内で限定販売を行われました。

ボディ厚は少し薄くなっており軽量化が図られていますが、トップには16mm厚のメイプルを使用。 ボディを薄くしたことで、従来のARよりもソリッドで立ち上がりの速いサウンド傾向にあり、取り回しの良さも向上しています。 

ピックアップエスカッションにはローズウッドが使われており、全体的に高級感のあるLimitedモデルに相応しい見た目となっています。

コントロールはトライサウンドシステムやアクティブEQなどは搭載されておらず、トグルスイッチに2vol.2toneのシンプルになっています。

こちらの個体はヴィンテージヴァイオリンというカラーですが、チェリーレッドサンバーストカラーも存在し、各50本ずつの製造という非常に少ない製造本数でした。

あとがき

他の国産ブランドと異なり、ターゲットを海外へ絞っていた事による発展の仕方、富士弦や神田商会との関係性などを紐解いていく事で、現在もIbanezが全世界で人気のある理由も若干ながらでも分かりました。

またARならではの個性とアプローチは、楽器としての魅力と道具としての魅力を両立しており、この魅力をもっと多くの人へ広げていくのも私の使命だと感じました。