Gibson Acoustic Vintage Rare Color History
レアカラーの歴史と全貌に迫る
カタログ外の異端児たち
1960年代後半、Gibsonアコースティックの歴史において、突如として彩り豊かなモデルたちが姿を現します。
いわゆる「レアカラー」と呼ばれる個体群です。
これらはこれまで、J-45の歴史の一部として、あるいは「特別仕様のJ-45」として紹介されることはあっても、「レアカラーそのもの」に焦点を当てて語られる機会は多くありませんでした。
なぜ、王道のサンバースト以外のカラーが生まれたのか。
その背景には何があったのか。
今回は、Advance Guitarsの視点でこのミステリアスな歴史を俯瞰し、その全貌を整理してみたいと思います。
そもそも「レアカラー」とは何か?
本記事における定義を明確にしておきましょう。
代表的なものとして、1967年以降に見られるJ-45のエボニーブラック(Ebony Black)やチェリーレッド(Cherry Red)が挙げられます。
当時のカタログモデルにおける標準フィニッシュは、「チェリーサンバースト」「サンバースト」「ナチュラル」の3種が基本でした。
ここでは、「それら標準カタログカラー以外のフィニッシュが施された個体」を総称して「レアカラー」と定義し、話を進めていきます。
誕生の経緯を追う 〜エレキとの決定的な違い〜
Gibsonのカスタムカラーといえば、FirebirdやSG、Thunderbirdなどのエレキギター/ベースにおける華やかなカラーチャートを思い浮かべる方も多いでしょう。
自動車塗料を用いたペルハムブルーやインバネスグリーンなどは、公式なオプションとしてFirebirdが発表される1963年からカスタムカラーチャートに存在していました。
しかし、アコースティックギターに関しては事情が異なります。
「アコースティックギターのカスタムカラーに関する一次資料(公式カタログやカラーチャート)」が見つからないのです。
つまり、これらは体系化されたオプションではなく、工場の気まぐれか、あるいは特別な意図を持って生まれた「例外」であった可能性が高いのです。
Gibson 1960s SG Junior “Polaris White”
歴史を紐解く 〜エボニーブラックの系譜〜
では、1967年に突如としてカラーモデルが発明されたのでしょうか?
実はそうではありません。 エボニーブラックの歴史を遡れば、古くは1930年代から存在しています。
戦前のL-00に見られるブラックフィニッシュにホワイトピックガードの組み合わせは、そのシックな装いから「タキシード」(※写真はタイガーストライプピックガード)の愛称で親しまれています。
Gibson 1930s Black Special #4
アコースティックギターだけでなく、アーチトップギターにもこのブラックフィニッシュは採用され、ブラックエボニーフィニッシュを基本カラー(1930年代後半)としたL-30やL-50に似た仕様をもつBlack Special #4というモデルも存在していました。
なぜ、1930年代のGibsonにはこれほどまでに「黒」のモデルが多かったのでしょうか?そこには、当時の時代背景ならではの「現実的な理由」と「美意識」が交錯していると考えます。
主な理由のひとつとして挙げたいのが、世界恐慌下における「コスト削減」です。美しい木目を持つ最高級材は、誤魔化しの効かないナチュラル・フィニッシュなどで高値で取引されました。つまり木目を活かしたフィニッシュだけに頼ってしまうと歩留まりが悪くなってしまいます。
しかし、節や色ムラがある木材も無駄にはできません。見た目に多少の難があったとしても、トーンウッドとしては十分に機能するという側面もあります。そうした“音響的には何も問題がない”木材の「視覚的なアラ」を隠し、
製品として世に送り出すために、黒の塗りつぶしは非常に合理的だったのではないかと考えます。
しかし、それが単なる「苦肉の策」で終わらなかったのがGibsonの非凡な点です。当時のジャズミュージシャンたちは、タキシードやスーツでステージに立つのが基本でした。そのフォーマルな黒い装いに、漆黒のギターは、視覚的に非常にシックでプロフェッショナルに見えたという側面もあります。つまり、「木材を無駄なく使うための知恵」が、結果として「プロのためのフォーマルなルックス」として昇華されたのです。
この時代からすでに、Gibsonには機能美としての「エボニーブラック」という美学が存在していました。」
時代は進み1962〜63年。
“Jet Black”としてこの「黒」をアコースティックギターのスタンダードとして再び世に知らしめたのが、Everly Brothersの登場です。
彼らのシグネチャーモデルにおける漆黒のボディは、当時の音楽シーンに強烈なインパクトを与えました。
このEverly Brothersモデルの存在が、後のJ-45エボニーブラック誕生への布石となったのでしょうか。
想像が膨らみます。
レアカラー誕生のヒント 〜"BGN"〜
レアカラーはどのようにして生まれたのか?
その誕生経緯のヒントとなる貴重な一本が、当店Advance Guitarsに入荷しました。
鮮烈なチェリーレッドを纏ったJ-45。
ヘッド裏には「BGN(Bargain)」のスタンプが刻印されています。
このスタンプは後から所有者が入れたという訳ではなく、ギブソン工場で入れられたものとみています。
“BGN”とは、ギブソンの工場においてヘッド裏に刻印された識別マークのひとつで、「Bargain(バーゲン)」の略とされています。
Gibson J-45 Cherry Red “BGN” Stamped
これは従業員向けに大幅に値引きされたギターであることを示すもので、一般市場には流通しなかった個体といわれております。
そのため、こちらの個体は一般流通させるには問題があり従業員向けにチェリーレッドで販売されたと考えられます。
なぜ、このような個体が作られたのか?
これは推測の域を出ませんが、正規ルートでの販売が難しくなった個体を流用し、工場内で『カタログ外カラーの試験的な製作』を行ったという可能性も考えられます。
この "BGN" 個体は、Gibsonが試行錯誤していた過渡期の証言者と言えるかもしれません。
百花繚乱のレアカラー・モデルたち
本記事における定義を明確にしておきましょう。
代表的なものとして、1967年以降に見られるJ-45のエボニーブラック(Ebony Black)やチェリーレッド(Cherry Red)が挙げられます。
当時のカタログモデルにおける標準フィニッシュは、「チェリーサンバースト」「サンバースト」「ナチュラル」の3種が基本でした。
ここでは、「それら標準カタログカラー以外のフィニッシュが施された個体」を総称して「レアカラー」と定義し、話を進めていきます。
(28039) Gibson 1968 J-45 Ebony Black / Logo P.G / belly-up bridge
レアカラーの中で最も象徴的なモデル。ピックガードにはGibsonロゴマークがデザインされています。
(28041) Gibson 1968 J-45 Ebony Black / belly-down bridge / 2nd stamped
ネジ止めされた白いラージガードとのコントラストは、ロックアイコンとしての地位を確立しています。
そしてダウンベリーブリッジとの組み合わせは、斉藤和義さんがデビュー直後から使用する通称"1号"と同じ仕様です。
(29943) Gibson 1967 J-45 Cherry Red / belly-up bridge
サンバーストの赤みとは異なる、鮮やかでポップなレッド。経年によりこの赤みが退色している個体もしばしば見かけられます。
(15178) Gibson 1968 J-45 Cherry Red “4 Piece Top”
こちらのチェリーレッドは経年により退色し、枯れた色合いとなり渋さが際立っております。
ボディトップ下部の両サイドに目を向けると木部にはわずかに継ぎ目があり、トップ板が4ピースで構成されていることがわかります。
これは主に1960年代後半のJ-45 サンバーストやカスタムカラーに稀に見られる仕様です。J-50を除くカラー物についてはリム部分も着色されるため、生産コストなども考慮してこのような仕様になったのでは?といったような考察もできます。
一方でJ-50で見かけたことは今までにありません。ナチュラルであることと販売当初からのJ-45との差別化として、1950年代のカタログでは"素材の厳選"を謳う記載があったりと、このような名残からほとんどが2ピースなのかもしれません。
(29919) Epiphone 1968 FT-79 TEXAN Cherry Red
Gibson工場で作られていた兄弟機、Epiphoneにもレアカラーは波及しました。
仕様の多くはGibsonのフラットトップと共通しておりますが、Epiphone特有のヘッドとロングスケールネックという特徴からGibsonとはまた一味違うサウンドです。
レアカラー誕生のヒントその② 〜"セカンド印と生産本数の考察"〜
エボニーブラックを代表とする、この時代のギブソン・レアカラーモデルですが、そのヘッド裏をよく見ると、"2"というスタンプが刻印されている個体がしばしば見受けられます。
これは「セカンド(2nd)品」であることを示しており、塗装ムラや木部の傷など、機能面には問題がないものの外観上の欠陥がある場合に押されるものです。
ここから、ある一つの仮説が浮かび上がってきます。それは、「外観上の欠陥があった個体に対し、その箇所を隠す目的でエボニーブラックやチェリーレッドといった濃い塗装を施したのではないか」という可能性です。
木目の粗や傷を隠すために塗装を施し、それを「カタログ外のカラー」と位置付ければ、見た目のハンデはむしろ「レアな魅力」へと変わり、販売しやすくなります。
このように考えると、華々しく「カスタムカラー」を打ち出していたFirebirdとは異なり、アコースティックのレアカラーに関してはギブソンが積極的なプロモーションを行わなかったこと(外観に欠陥がある商品を積極的には発信できない)にも合点がいきます。
アコギにおいては、レアカラーはオプションというよりは、製造上の都合(解決策)としての側面が強かったため、パンフレット等の資料も作られず、カタログにも掲載されなかったのではないでしょうか。
これは、先述した「1930年代のブラックフィニッシュ」が生まれた背景に関する考察とも共通しており、説得力があるのではないかと思います。
一方でレアカラーモデル全てにセカンド印が押されているというわけではないことや、サンバーストフィニッシュの個体にもセカント印が存在している(それらにはスティンガーと呼ばれる黒く塗りつぶしている箇所もみられる)という事実もまた、この疑問を難しくしています。
それに付随して気になっていることが、1960年代後半というのは「セカンド品」が多いのではないか? だとしたらそれなぜか?
ということです。
その背景をさらに深掘りするために、「アコースティックギターの出荷本数」という数字に目を向けたいと思います。
当時は世界的なフォーク・ソング・ブームの真っ只中。アコースティックギターの需要は驚くべき勢いで高まっていました。その熱狂はGibsonの出荷データにも如実に表れています。
J-45を例に挙げると、1951年〜1960年の総出荷台数が約16,000本であったのに対し、1961年〜1970年は約31,000本と、ほぼ2倍に急増しています。
この生産本数の増加はJ-45に限った話ではなく、Gibsonフラットトップ全体で起きていました。
さらに、1960年代のJ-45の出荷本数を年単位で細かく見ていくと、非常に興味深い事実が判明します。1965年の3,951本も多い数字ですが、1967年には「5,670本」という突出した記録を残しているのです。
1967年という年はまさに、エボニーブラックなどのレアカラーが市場に多く出回り始めた時期と符合します。
ここから導き出される考えとしては、世界的な需要の爆発により生産体制が逼迫し、検品基準ギリギリの個体や、外観上の問題を抱えるフラットトップが増加し、その打開策として、アラを隠せる「レアカラー」に着手し、結果として出荷体制が整った1967年に、大量のJ-45が世に送り出されたのではないかということです。
セカンド印だけでなく、4ピーストップのレアカラーモデルが見られるのもこのような事情からではないのかと思えてきます。
"2"のスタンプと、1967年の爆発的な出荷本数。
この2つの事実は、レアカラー誕生の裏に隠されたメーカーの苦悩と工夫を、静かに物語っているのかもしれません。
スモールボディにも存在した "遊び心"
レアカラーの波は、J-45などのラウンドショルダーだけではありませんでした。スモールボディのB-25にも、同様のカスタムカラーが存在します。
小ぶりなボディにソリッドカラーが乗ることで、より一層「ポップで愛らしい」ルックスとなり、コレクター心をくすぐります。
29922 Gibson 1968 B-25 Cherry Red / Logo P.G / belly-up bridge
チェリーレッドカラー仕様のB-25。
J-45と共通でネジ止めされたホワイトピックガードにGibsonロゴマークが綺麗に残っています。
このギブソンロゴですがチェリーレッドのJ-45ではほとんど見かけないので、そういった点でも珍しいです。
99328 Gibson 1967 B-25 Ebony Black / belly-up bridge
エボニーブラック仕様のB-25。こちらも外観はJ-45と共通しています。
ポップさとクールさを兼ね備えた素晴らしい一本です。
29949 Gibson 1969 LG-1 Ebony Black / belly-down bridge
そして同じくスモールボディであるLG-1にもレアカラー個体が存在します。1969年の仕様を纏ったエボニーブラックです。
当時の廉価モデルではありますが、ほぼ存在することはないでしょうからJ-45やB-25を凌ぐほどのコレクターズアイテムといえるでしょう。
"スーパー"レアカラー:深淵なる「希少色」の世界
レアカラーの中にも「さらにレア」な色の存在が確認されています。
その筆頭が「Brown(ブラウン)」フィニッシュです。
これらはサンバーストの黒い部分だけを抽出したような、あるいはウォルナットのような独特の色味を持っています。実物を目にすることは極めて稀であり、ヴィンテージ市場でも滅多にお目にかかれない幻のスペックです。
Gibson J-45 Brown ※写真は復刻版(2004年製)
レッドとブラックの影に隠れて存在するのがブラウンカラーです。
近年モデルで復刻されることもありますが、このカラーリングはオリジナルの1960年代後半にも存在しています。
市場に滅多に流通することがない、激レアアイテムです。
Epiphone 1968 FT-79 TEXAN Brown
J-45と同様にFT-79でもブラウンカラーが採用された個体が存在します。
シースルーにエボニーブラックやサンバーストとも違うテイストで異彩を放っています。
100530 Gibson 1968 B-25 Brown
スモールボディにも存在するブラウンカラー。
ジャンボサイズでさえ珍しい茶色がB-25にも採用されている個体です。色合いや塗装の質感等、先ほどのテキサンとも似ています。
ここでは詳細を控えますが、この他にも存在を確認したことがあるレアカラーモデルがあり、Gibsonヴィンテージの沼は底が見えません。
最後に
今回はGibsonアコースティックの「レアカラー」に焦点を当てて筆を執りました。公式な記録が残っていないからこそ、一本一本の個体から歴史を読み解く面白さがあります。
私たちAdvance Guitarsのレアカラー探索の旅は、まだまだ終わりそうにありません。この記事を読んでいる方の中には、もしかすると1960年代当時、楽器店の店頭でこれらのカラフルなギターが並んでいる光景を実際に見た、という方がいらっしゃるかもしれません。
「実はレアカラー登場した背景にはこんな出来事がある」「当時、こんな色が売っていた」「こんなモデルを見たことがある」 そんな生きた証言をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。
その記憶の一つ一つが、失われた歴史を繋ぐ重要なピースになります。
Advance Guitars 店長 井上 メールはこちら
