初めての楽器選び|アコースティックギター

 一言で音楽と言ってもそこには様々なスタイルがあります。王道のバンド・サウンド、独特の雰囲気と怪しい色気を漂わせる中性的なロック、重低音を轟かせデニム&レザーでキメるヘビメタ、また今では当然のように街中で流れるR&Bやヒップホップ、そのルーツであるとことん泣きの入ったブルース、他にもジャズやボサノヴァなど挙げたらキリがありません。
が、しかし! 音楽、また楽器の本質を考えたうえで、全てに共通してたどり着くもっとも原始的な部分があります。それは・・・生音!! という訳で、半ば強引な切り口ではありますが(苦笑)、アンプ等を介さない生音楽器の中でも安定した人気を持ち、プレイヤー人口も多い最もポピュラーな生音楽器"アコースティック・ギター"を始めようという方に選び方などお力添えをしたいと思います。

 「アコギが弾きたい!」と最初からアコギを選ばれる方も多いのですが、以外と良く聞かれるのが「今まではエレキでブイブイ言わせてたけどアコギは良く分かりません・・・」という声。バンドマンとしては『MTVアンプラグド』においてエリック・クラプトンやエアロスミス、KISS、ポール・ウェラー、ニルヴァーナ等が見せたバリバリのロックとは対照的な落ち着いたアコースティックの響き、そんなステージに憧れてアコギを始めたいと思う方も多いのではないでしょうか。

 他にも、ストリートなどで良く目にする感情を歌に乗せて力強くギターをかき鳴らす弾き語り。時には繊細に、時には大胆に変化する幅広いプレイに対応出来るフィンガー・ピッキング。柔らかい音色で叙情的なメロディーを奏でるクラシック・ギター・・・アコギには魅力的なスタイルがいっぱいあります。では、「初めてで何も分かんねぇべ〜」と希望と不安の狭間で悶々としている初心者の方から「恥ずかしくて今更聞けっかよ!」 というちょっぴりシャイなベテランさんまで、ご一緒に初めてのアコギ選びへと旅立ちましょう。

 ギターを買うにあたって、選ぶ基準となるのは「予算」「良い音」「ルックス」「ブランド」などがあると思います。が、その中でも一番切実な問題と言えばやはり予算でしょう。「おい、チミ、何でもいいから一番高いヤツ持ってきてくれたまえ」「ワ〜イ、パパ〜うれしいジョ〜」「オホホ! 坊っちゃんの練習用にスタジオも買ってあげるザマス!」なんてブルジョワなやり取りが出来る家庭はほんの一握り。

 多くの方はこれから始める楽器にいくらまで出せるか!?という最初の分岐点にぶつかります。店頭で実際にお客様とお話をしていても「続くか分からないので取り敢えず安いのにしようと思ってます」という考えの方や「最初に高いの買っちゃえば続けざるを得ないですから!!」と思わず納得してしまう程の自信に溢れた方まで、始めてのギターを選ぶ時の考え方は十人十色。

 ですが、あくまで私個人の独断と偏見で敢えて言わせてもらいますと、やはり最初は低価格。高くても5〜6万の商品が良いのではないでしょうか? 値段を気にせず弾く事に集中できるし、何より楽器を続けるにあたっての一番楽しみなイベント・・・そう、ランクアップがしやすいでしょう!?・・・と、思わず声を張り上げてしまいました。まぁ、私の戯言は参考のひとつとして記憶の片隅にでもとどめて頂ければ・・・。

 また、実際に店頭で探す場合、うまく予算内で気に入った物がある時もあれば、予算は関係無く、見た瞬間、持った瞬間、音を出した瞬間に「アタイ、ビビッと来ちゃった!」という場合もあります。一度にたくさん試奏すると耳が麻痺して「どれも同じ音に聞こえちゃいます・・・」と弾けば弾くほど迷宮入りしてしまう事も多々あるので、そうなる前にビビッ!と直感で感じたギターを選ぶのも良いと思います。

 そして「新品」か「中古」か。これは初めて選ぶ時だけでなく、2本目を買う時や高額品を買う時など、楽器を買う際には否応なしに付いてくる選択肢です。どちらにも魅力がありますが、新品は言うまでもなく"状態の良さ"が大きな特徴です。未使用品なのでうっとりする程に綺麗でピカピカ。まだ誰の物でもないので弾けば弾くほどあなた色に染まっていく事でしょう。

 一方、中古品の魅力ですが、こちらは何と言っても"音の進化"。楽器というのは、経年や弾き込まれる事により音が変化していきます。20年、30年と時間をかけて乾燥していったり、弾き込まれて音の立ち上がりが良くなったりして出来上がったオンリー・ワンの音が中古品の良さです。特にアコギなどのアコースティック楽器は音の変化が顕著に表れるので個体差も大きい分、自分だけの音を奏でるギターに出逢った時の喜びは格別。

 また、中古品に対して「傷とかくすみとかあるんじゃないの?」というイメージを持たれる方も多いと思いますが・・・答えはその通りです。実は未使用状態の中古もあるのですが、一般的には軽い打痕やピックによる弾き傷がある場合は多く、時には割れなどのリペアをしている物もあります。しかし、その使用感や年季の入ったルックスも中古品の大きな魅力と言えるでしょう。

 事実、傷の無いギターには興味ないと言うヴィンテージ・ファンの方は多数いらっしゃいます。中古品は一本一本に今まで弾かれてきた環境などでそれぞれのドラマがあり、全く同じ音色を奏でる楽器というのは存在しません。その膨大な数の中で自分好みの音やルックスを持ったギターに出逢う瞬間、それはきっと、運命の巡り合わせなのでしょう。
 それでは予算と直感、そして運命の出逢いを信じて・・・いざ、楽器屋!!

大きく2種類ある

 ・・やって来ました、楽器屋。店内に入り膨大な数のアコギを目の当たりにした時、「こんないっぱいあったら、どれがえぇか全然分からへんやないか・・・」と立ちすくむ事でしょう。間違いの無い様にまずはアコギの種類からご説明します。大きく分けてアコースティック・ギターには二種類あります。"フォーク・ギター"と"クラシック・ギター"です。スチール弦を使うフォーク・ギターは、"弾き語り"からピックを使わない"フィンガー・ピッキング"まで幅広いスタイルに対応します。

一般的にアコギと言うとフォーク・ギターを指します。片や、文字通りクラシック音楽やボサノヴァなどに用いられるクラシック・ギターは、ナイロン弦を使い、基本的にピックは使わず指でメロディーを弾く奏法です。ジャリーンと広がるサウンドで思わず掻き鳴らしたくなるフォークに対し、クラシックは柔らかく甘い音色でムフフな雰囲気にはもってこいです。ちなみにクラシック・ギターは"ガット(Gut)・ギター"とも言われます。かつては羊の腸(ガット)などから作られたガット弦が用いられていたことから、そう呼ばれます。

 フォークギターとクラシック・ギターはパッと見は同じに見えますが、ボディの大きさ、弦を取り付けるブリッジ部分、弦を巻くペグ部分など、更にネックの幅や太さにも違いが見て取れます。この違いさえ分かれば某マンガの主人公の様にクラシック・ギターで"ジャンピン・ジャック・フラッシュ"を弾く失敗は回避できます。

 それでは次に、実際アコギを選ぶにあたってのチェック・ポイントを挙げていきましょう。数あるアコギが並ぶ中で、どこをチェックするべきか? 実はここが最初にして最大の難関かもしれません。店頭でも「初めてなんやけど、何を見て選んだらえぇんでっか?」と聞かれる事は多いです。そんな時私はこう答えます。「音よりも弾きやすいギターがよろしおま」と。(←実際はもちろん敬語ですよ)

そうです、初めてのアコギを選ぶにあたって、一番重視するべきなのは"弾きやすさ"ではないかと私は思うのです!! アコギの弾きやすさにおいて、まず挙げられるのが"弦高"。弦高とは"弦"と"弦を押さえる指板"との間の事です。一般的に弦高は低い方が弦を押さえる時に力を入れずに済むので弾きやすくなります。エレキに比べて、アコギは元々弦高が高めなので、今までエレキを弾いていた方もこの辺を要チェックです。弾きやすさは二の次で音やデザイン重視で選ぶ方法もありますが、もしそれで選んだアコギが弾きにくかった場合、「あ〜昨日練習したら指がチョ〜痛ぇよ〜、今日はやめとこ」「ちょっと弾いたらまた指痛い! やっぱ今日もパス!」「あ〜っ、もう! 痛いんじゃ!」そしてそのままホコリに埋もれていくアコギ・・・という具合になりかねません。楽しく続ける為にも弾きやすいギターがオススメです!!

 そして次にチェックするのは弦高とも密接な関係にあり、弾きやすさにも多大な影響を与える重要なパーツ"ネック"。実際に店頭でネックを握って頂ければ分かると思いますが、ネックには太い物や細い物、半円を描く物(Uネック)や三角型の物(Vネック)など様々な形があります。演奏する際はこのネックを握って弦を押さえるので自分の手に合った形を選びたいところですが、どの形が良いかは人それぞれ好みがあります。一般的には細めのネックが握りやすいと言われてますので、最初は細めから試すのも良いのではないでしょうか。

 次のチェック・ポイントは"ボディ・サイズ"。一見すると同じ様に見えるアコギですが、実は色々な種類があります。ボディ・サイズによってサウンド、抱えやすさ、そしてもちろんルックスにも大きな違いが現れます。主要なサイズは3タイプあり、1つ目は"ドレッドノウト"タイプ。一般的にはアコギと言うとこのサイズが有名です。やや幅があり、くびれの浅いボディでストロークやフィンガー・ピッキングなど、どんなスタイルにも対応できるオールマイティなサイズです。2つ目は"OOO(トリプル・オー)"タイプ。

 小さめのボディが特徴で、女性の方や小柄な方に弾きやすいサイズと云えます。かのエリック・クラプトンもこのタイプを愛用しています。3つ目は"ジャンボ"タイプ。名前からも分かる通り、完全無欠のバック・ドロップ・・・ではなく、大きいボディが特徴です。サイズが大きい分、奥行きのある深めのサウンドを楽しめます。それぞれの特性やルックスの好みで選んで下さい。一般的にOOOタイプはフィンガー・ピッキング、ジャンボ・タイプにはストロークが向いているとも言われていますが、演奏スタイルも人それぞれ。「OOOでストロークがしたいんじゃぁぁ〜!」とか「ジャンボでポロンポロン弾きたいんですけど何か?」と言う方もいるでしょう。しちゃって下さい。そうして自分なりのスタイルを探すのも楽器演奏の醍醐味のひとつだと思います。

 ちなみにクラシック・ギターは〜タイプというのは無く、基本的に同じ様な形をしています。が、クラシック・ギターはルシアーと呼ばれるギター製作家の手造りである物が多く、製作家により造り方やサイズ、形が微妙に異なり、そしてもちろん音にもそれぞれ違いが表れます。

アコギの代表的なボディ・スタイルです。見た目通り、奥行きのある深めのサウンド。

抱えやすく演奏性は抜群。全体的に丸みを帯びたボディです。

材質の違い

 では、ここでちょいと寄り道をしてアコギの構造や木材、パーツについてサラッとご説明致します。アコギの最大の魅力であり特徴は何といっても生音。何度も言いますが、基本的にアコギはアンプを使わずにギター本体で音を出すので、非常に良く響く構造になっています。軽くぶつけた時は、それだけでもコーンと響くのでちょっとドキッとします。また、部屋で弾くにはかなりの音量がありますので、大家さんの厳しいマンションにお住まいの方はお気をつけ下さい。
 そしてアコギのサウンドを決定付けるのが"材"です。アコギは大きく分けて4つのパーツで形成されており、トップ(表面板)、サイド(横板)、バック(裏板)、ネックとなります。その内トップ、サイド、バックの材の組み合わせによってサウンドも変化します。

トップ材:
 一般的にトップにはスプルース(松)がよく使われています。細かく言うとスプルースにも"シトカ・スプルース"や"イングルマン・スプルース""ジャーマン・スプルース"などの種類があり、それぞれ音質にも特徴があります。ちなみに木目を見てスプルースの種類を判断出来るスペシャリストもいますが、普通の人で同じ様な木目を見て○○スプルースと判断するのは一目見ておそ松くんかチョロ松くんかを見極めるぐらい困難です。スプルースの特徴はやや硬質でハッキリとした音色です。弾き込む程に鳴りが良くなると言われています。

 その他に良く使われる材がセダー(杉)です。スプルースに比べると柔らかく、温もりのある音色でクラシック・ギターに多く使われています。スプルースと同じ様に"レッド・セダー"や"ホワイト・セダー"などの種類があります。

サイド&バック材:
 サイドとバックには基本的に同じ材が使われます。代表的なのは"ローズウッド"と"マホガニー"。縦縞の木目が特徴のローズウッドは余韻が綺麗に残り、低音から高音までのバランスが良く、アコギのサイド&バック材としては一番ポピュラーです。単純に言うとスプルースとローズウッドの組み合わせが一番アコギらしい音ではないかと思います。マホガニーは中音域が強くカラッとした歯切れの良いサウンドが特徴。個人的にはマホガニーの音色が好みです。  また、ギターに使われる材の王様と言えるのが"ハカランダ"。種類的にはローズウッドに分類され、俗に"ローズウッド"と呼ばれるものは"インディアン・ローズウッド"、"ブラジリアン・ローズウッド"がハカランダと呼ばれています。現在は輸出入に制限があり、非常に希少な材の為、高額なギターにしか使われません。ハカランダ仕様のギターは若者から年輩の方までの憧れの的になっており、ギター界のマドンナ、世の男性における長澤まさみと言えるでしょう。(オレだけ!?) ちなみにハカランダという言葉を使うと少しやり手の様な気がします。是非言いまくって下さい。  その他にも、高音が強く硬質で明るい音色が特徴の"メイプル"や、キラキラとした余韻の中に温もりを感じさせ、ウクレレに多く使われる"コア"など様々な種類がありますが、材による音の違いは好みの問題で、良し悪しではありません。実際に弾いて比べるのが良いと思います。

パーツや各部名称

ヘッド:
ネックの先端部分。この部分にメーカー・ロゴが記載されている事が多いのですが、機種によっては綺麗な装飾や彫刻などが施されており、ルックスにも大きな影響を与えます。

ペグ:
弦を巻きつける部分。ゴールド、クローム(シルバー)、プラスティック・ボタンなど種類も豊富でカスタム入門用にピッタリ
のパーツです。

ナット:
牛骨、カーボン、プラスティックなどの種類があり、素材で音も変化する小さいながらもあなどれないパーツ。弦の横滑りを防止する溝が彫られており、溝の深さが弦高にも影響を与える為、サドルと対になっているパーツと言えます。

フレット:
指板に打ち込まれた金属製の棒で、押さえる場所により音程が変化します。弦を押さえる時はこの付近を押さえると綺麗に音が出ます。

サウンドホール:
弦振動によりボディ内に生まれた共鳴音を外に放出する穴。アコギの外観で最も特徴的な部分。

ピックガード:
トップ板をピックによる弾き傷から保護します。花や鳥の装飾が入った物や独特の形の物もあり、アコギのオシャレ・ポイントのひとつと言えるでしょう。ちなみにピックガードはトップ板に接着されている場合が多いため、取り外しや交換は簡単ではないので要注意。

 続きましてパーツですが、数あるパーツの中で重要視したいのが"サドル"。最初に買う時は弾きやすい様に弦高の低い物がオススメと前述しましたが、実は弦高の高い物でも、このサドルを調整する事で弦高を変えられる方法があります。そう、これが先程思わせぶりな言い方をしてみた裏技です。
 「じゃあ、音やルックスで選んでも、後から調整すれば問題無くね?」と思う方もいるでしょう。しかし! 一言で調整と言ってもそれは容易ではなく、サドルをミリ単位でヤスリで平らに削るという職人技が必要となります。誤ると音の劣化やビリ付きの原因にもなるので、行う際は必ず店員さんやリペア・ショップに相談して下さい。

ブリッジ:
弦の振動をサドルからボディへ伝える他、弦を固定する重要なパーツ。フォーク・ギターの場合は弦をブリッジの穴に差し込み、ブリッジ・ピンで固定。クラシックは弦をブリッジに巻き付けて固定するのが一般的です。なお、弦を張りっぱなしで放置しておくと、その張力でブリッジ付近が膨らんできたり、ブリッジが剥がれてくることもあるので、弾いた後は半音〜1音程、弦を緩めることをオススメします。(ネック反りの防止にもなるヨ)

 

さあ、これだ!ってギターは見つかったかな?後はお店にGO!だ。
 お店のスタッフはみんな気さくで貴方の事情や好みなどなんでも聞いてくれる。気軽に話しかけてほしい。


遠方の方はこちらのサイトでいろいろと周遊してみてほしい♪
 ビデオ通話もできるし、TC楽器のYouTubeチャンネルでたくさん発信してるのでお楽しみに!