B.C. Richは、いわゆる変形ギターのモデルが多く存在するブランドで、代表的なモデルとしてMockingbirdやWarlockなど奇抜なシェイプを持つモデルが多く存在します。 現代ではディストーションなど深い歪みを使うアーティストに好まれているギターブランドの一つです。
私自身もB.C. Richは「歪ませてなんぼのギター」「メタルのギタリストが使うギター」というイメージがありました。
B.C. Richは、いわゆる変形ギターのモデルが多く存在するブランドで、代表的なモデルとしてMockingbirdやWarlockなど奇抜なシェイプを持つモデルが多く存在します。 現代ではディストーションなど深い歪みを使うアーティストに好まれているギターブランドの一つです。
私自身もB.C. Richは「歪ませてなんぼのギター」「メタルのギタリストが使うギター」というイメージがありました。
1970年代のSeagullというモデルに触れた際、その外見からは想像できないほどの持ちやすさや弾きやすさに驚かされました。 滑らかで透き通るようなサウンド、そしてその音に多彩なニュアンスを加えることができる緻密なコントロール。 触れれば触れるほど、「こんなに考え抜かれたギターだったのか」と感心させられました。 それまで「歪ませてなんぼ」「メタル向け」といったイメージを持っていたB.C. Richに対して、「道具」として非常に使い勝手が良く、いわゆる「ハイエンドギター」としての新たな印象を持つようになりました。
そんなB.C. Richをもっと多くの人に知って頂きたい。という想いがあり、今回このコラムを制作するに至りました。
という事でここからB.C. Richの歴史を辿っていきます。
B.C. Richはベルナルド・リコという人物によって生み出されたメーカーです。 1941年にロサンゼルスで生まれたリコですが、彼の父はビウエラやレキントといったフラメンコなどで使われる楽器を制作する”ザ・リコ・ショップ”という楽器屋を経営していました。 リコ本人はギタープレイヤーとしてフラメンコやクラシック音楽を演奏していましたが、1950年代に父親の店でも働き始め、ウクレレやギターの制作、マーティンを12弦に改造するなど、多彩な業務を行っていました。
カントリーミュージックが流行り出した1960年代、リコは1966~67年頃にB.C. リッチと名乗り始めます。 B.C.リッチはベルナルド・リコを英語風の呼び方に変えただけですが、 実は当時のリコの友人が自分をラテン風の呼び方で名乗っていたので、それを真似したという説もあります。
1968年にソリッドギターのボディを製作し始めたリコは、アーチトップに豪華なインレイの入ったEB-3のコピーモデルやマッチングヘッドのレスポールコピーモデルなど個性的な楽器を制作します。 また制作と同時にリペアやリフィニッシュも行っていたリコは、フェンダーのネックに合わせてボディを制作したり、アバンギャルドなリフィニッシュを行うようになります。 これは派手なペイントを施したバイクに乗っていたリコに、店の従業員が派手なリフィニッシュをしようと提案した事がきっかけとも言われています。 こうしてソリッドギターの道を歩み始めたリコは、ついにオリジナルモデルの開発に着手します。
そして1972年にリコが初めてデザインしたSeagullというギターとベースを完成させます。 Seagullはヒールレスネックジョイントを採用したスルーネック構造にシングルカットというデザインでしたが、ボディはSGのように薄く1弦側のカッタウェイが外側に飛び出し、6弦側のトグルスイッチ上あたりがとんがっているという奇抜なシェイプを持っていました。
現在では多くのブランドが採用しているヒールレスネックジョイントですが、Seagullはエレキギターの歴史の中でも非常に速い段階でヒールレスを採用したモデルとなっています。 またスルーネック構造に関しては、当時アレンビックのリック・ターナーなどの制作者とも情報共有をしていたそうです。 そうしてスルーネック構造やヒールレスジョイントは、B.C. Richの一つの代名詞とも呼ばれるようになり、後続のモデルにも継承されていきます。
Seagullは見た目だけでなく電装系も個性的です。 コントロールは個体によって様々ですが、基本的にはマスターボリューム/マスタートーン/ピックアップセレクター/各ピックアップのデュアルサウンドスイッチ/ミックス時のフェイズスイッチ/ブースターのオンオフスイッチとブースターボリューム/6ポジションのバリトーンスイッチ といった、アクティブを採用した多彩なものとなっています。 この多彩なコントロールは、のちにBichなどをデザインするデザイナー ニール・モーザーによって開発されました。
B.C. Richの最初期の個体にはギブソンのピックアップを搭載していました。 これはB.C. Richのギターを販売していたL.D ヒーターという会社がギブソンの親会社のノーリン社の傘下という事もあり、ピックアップを供給できたそうです。 ですが、上記の多彩なコントロールを搭載するためには一度ピックアップを分解して4芯構造にしなければいけない手間がありました。 その後ギルドのピックアップを使い始めましたが、こちらも分解しなければいけない手間がありました。 74~5年頃にL.D ヒーターからの販売を辞め、自分達で販売を始めた時期にリコは、当時リプレイスメントピックアップの販売を開始したラリー・ディマジオに連絡を取り、4芯のハムバッカーを依頼します。 ここから自社のピックアップを開発する86年頃までは基本的にディマジオのピックアップを搭載していきます。
Guildピックアップ搭載
1975年頃にはSeagullのボディ上部にある突起が身体に刺さるという苦情があり、 6弦側のトグルスイッチ上あたりの突起を無くしダブルカッタウェイにしたSeagull IIを発売します。
76年にはボディにくびれを付け、6弦側のホーンを伸ばしたEagleを発売。 基本的なスペックはSeagullと同じでシェイプだけ変更された、進化系とも呼べるモデルです。
1976年には現在のB.C. Richの看板モデルとも呼ばれるMockingbirdが発売されます。 先に発売されていた2つのモデルと同様にスルーネックのヒールレスジョイント構造に多彩なコントロールを持っていますが、1弦側カッタウェイは外側に長く伸び、6弦側のコンターは急で深く掘られています。 そしてボディエンドが左右非対称となっており、独創的な奇抜さが更に増したモデルとなっています。
Mockingbirdはリコがなんと夜11時にデニーズでナプキンに描いたスケッチ(通称「ナプキン・デザイン」)を元に誕生したモデルであり、ジョニー(ゴーゴー)ケッセルという人物によって設計されました。 しかも初めて作ったMockingbirdはショートスケールのベースという、これまた個性的な仕様をしていたそうです。
同年頃にはBichというモデルも開発します。 Bichは先に発売されているモデルよりも一層奇抜なシェイプを持っており、Seagullのコントロールなどを手掛けたニール・モーザーによってデザインされました。 Bichの最も目を引く部分といえば、ボディエンド部分が大きく切り取られたデザインだと思います。 何故このような奇抜なデザインをしているか。その理由はボディエンド部分に副弦を4本張った10弦を想定しているからなのです。 ちょうどブリッジの下に副弦用のペグを取り付けられるように切り取られており、ペグが付けられるように一部の木材は薄くなっています。
12弦ギターなど副弦を使用するギターは、もちろんヘッド側にペグを持ってきますが、構造上ペグが回しづらいというデメリットがあります。 ですが、Bichはボディ側にペグを持ってくる事で、そのような煩わしさを無くすことができます。 またヘッド側に重量が偏りすぎないため、ボディバランスも見た目よりも悪くなく、奇抜なデザインでありながらも「弾く」事を考えたデザインとなっています。 コントロールはSeagullのものを基準にプリアンプブースターが2つ搭載された個体なども存在します。
Bichの誕生から5年程が過ぎた1981年にはWarlockというモデルを発売します。 これはリコが初めて製図台の上でデザインしたモデルで、今までの滑らかな曲線とは対照的な輪郭のハッキリとした鋭利なデザインを持っていました。 またそれまでのB.C. Richは3:3のペグを使用していましたが、Warlockで初めて片連ペグを採用します。 デザインをした当初ベルナルド自身は、あまりWarlockのデザインを気に入っていなかったらしいですが、シャーク・アイランドというバンドのギタリスト、スペンサー・サーコムがデザインを気に入り、制作を進めていきます。 その後もリタ・フォードやニッキー・シックスなど著名なアーティストが使用し、爆発的な人気を博します。
Bichはジョー・ペリーが使用していましたが、恐らくWarlockがHR/HMのアーティストに使われた事が、今のB.C. Richの印象に大きく影響しているのでは無いかと個人的に思います。
その後、1982年には稲妻のようなデザインをしたIronbirdを発売。 83年にはWaveとStealthを発売します。 Waveはその名の通り波のように揺らいだボディシェイプを持つ、これまた個性的なモデルです。 StealthはギブソンのExplorerをさらに細くしたようなボディシェイプにリバースヘッドを採用したモデルとなっており、リック・デリンジャーがデザインしたとも言われています。
B.C Richホームページから引用
84年にNJシリーズという名古屋で制作をしていたシリーズを販売開始しますが、円高の影響もあり、工場を韓国へ移転し、安価なシリーズの制作を開始します。 95年にはアコースティックギターを販売したりと、様々なアプローチを行っていましたが、99年にリコが心臓発作で惜しくもこの世を去ってしまいます。 2001年にHanser Music Groupに買収され、現在に至ります。
現在も安価なシリーズなどを発売しているB.C. Richですが、Custom Shopの展開や一部モデルには70年代のコントロールを搭載したモデルがあるなど、当時の空気感を感じる事も出来ます。
話は逸れますが、以前にAria Pro IIに関してのコラムをまとめた際に、B.C. Richのコピーモデルを制作し、それを基にオリジナルモデルを制作したという歴史がありました。 Aria Pro IIのMockingbirdコピーモデルのMKなどは70年代後半に発売を開始しており、Mockingbirdが発売された76年からすぐにコピーモデルを発売している点に、日本の底力とアーティストへの憧れと熱意を感じる事ができます。 その他にもFernandesの展開ブランド、BurnyからもB.C. Richコピーモデルが出ていたりと、B.C. Richが日本にもたらした影響力は計り知れません。
最初にも記載しましたが、ここまで触れる前と触れた後の印象が変わるギターは多くありません。