FENDER 1963 STRATOCASTER

 ハカランダ・ラウンド・ボードの'63年製ストラトキャスター!!傷や塗装の剥がれ具合など存在感を醸し出すプレイヤーズ・コンディション!!初期のものよりも厚みが増した手に馴染むグリップ感と程良く使い込まれたヴィンテージ感たっぷりのファット・サウンドが味わえます。
 この年はピックガードの止めネジの一つがミドル・ピックアップ寄りに移動し、更に12フレット上のドット・マーカーの間隔が狭くなるという外見上で見分けがつく変化が現れた年度です。

 キャビティの加工に大きな変化はなく'60年代の基本的な形状です。手書きのアルファベットのようなものは色の指定と加工を担当した人のイニシャルではないでしょうか。

 配線コードの溝は直線的で長めになっています。手作業であるため個体差が大きい部分です。

 "SwitchCraft"製のジャックを採用。ジャック・キャビティの縁はあまり削られておらずピン穴も見られません。

 '63年からはネック・ポケットにハンドルを取り付けて塗装されるようになりますので塗料が半分に別れるようになります。

 ボディ・コンターはトップ&バック共に浅く小さくなっています。

 ボスプリング・キャビティに記されたボディ・デイトは'63年の9月と判別できます。ボディにデイティングされるのはこの年が最後となるようです。

 ボビン上下に黒のファイバー紙を使用したブラック・ボビンのオリジナル・ピックアップ。'64年の後半からはボビンの下側の色がグレーのファイバー紙に変更されピックアップにもデイティングが入るようになります。ピックアップのマグネットには円柱型のアルニコ・タイプV、コイルは"AWG(アメリカン・ワイアー・ゲージ)#42"を使用。ポールピースは音量バランスをとる為に各弦で高さの異なる"スタガード"タイプとなっており'70年代半ばまで採用されています。
※アルニコ・タイプV:約50%の鉄にアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を加えた合金、ちなみに、アルニコという名前の由来は単純に元素記号を並べたもの。
◎ご参考として
<ピックアップ直流抵抗値>
(F)6.11kΩ (M)5.84kΩ (R)6.23kΩ

 基本的にシリアル・ナンバーは製作された年代を特定する要素として重要なポイントの一つとなっていますが、製作工程などを含めたシステムの変化による誤差は勿論、何らかの理由でシリアルと製造年月日が極端に離れた個体も存在していますので必ずしも一致している訳ではありません。容易にパーツの交換も可能という事もありますので、実際の年度の特定には各パーツを含め総合的に判断する事が必要となります。

 ピックアップのスペーサーに使われているゴムチューブはこの年まで。経年変化により硬化しているものが多い部分ですが、'64年からはゴムチューブに変わりスプリングが採用されます。

 ポットは'57年頃から採用された"Stackpole"製の丸溝タイプが2つ。ヴォリューム・ポット(CTS製)、スイッチはCRL製の5点式に交換。'61年からはオレンジ色のセラミック・コンデンサーが使われています。

 通称"グリーン・ガード"と呼ばれるピックガード。トップのセルロイド材が経年変化によって黄色く変色し中央の濃紺(黒色に見えますが実際は紺色)と混ざり合った色が緑がかって見える事からこう呼ばれています。コントロール部分だけだった裏側のアルミ製のシールド・プレートは'59年中期より全体を覆う形状になっています。

 フロントP.UとミドルP.Uの中間に位置していたピックガードのビスがこの年よりミドル・ピックアップ寄りに移動されます。これも外見から見分ける一つのポイントですね。

 '62年中期から採用された曲面貼りのラウンド指板。"2"はストラトキャスターのコード番号、"SEP(SEPTEMBER)"と"63"は製造の月と年度を表していますのでこの場合は'63年の9月という事になります。"B"はネックのサイズ(太さ)を意味しています。

 厚みと幅が増したオーバル・タイプのネック・シェイプ。'60年代初期のフラット・タイプよりも数値にして1mm程度の違いですが実際にはグリップ感が全く異なります。個人的には好きな太さですがこれでスラブ仕様だったら尚更いいんですけどね・・・。
◎ご参考として
<ネック・サイズ>
ナット幅:42mm、12フレット部:52mm
ネック厚:約22mm(1フレット上)、約26mm(12フレット上)

 ペグは"Kluson"製のカバード・タイプ。「KLUSON DELUXE」の刻印が入れられた"1列クルーソン(シングル・ライン)"で、この年の途中より刻印が2列に打たれた"2列クルーソン(ダブル・ライン)"に変更。

 金色に黒の縁取りの通称"スパゲティ・ロゴ"。'61年からは下部にパテント・ナンバーが入れられます。「2,573,254」はテレキャスターのブリッジに関するもの、「2,741,146」はシンクロナイズド・トレモロに関するもので、'62年からはボディ・コンター加工に関する「2,960,900」が追加。ストリング・ガイドは'63年頃よりテーパーが付けられたタイプになり、翌年あたりからはスペーサーが金属製からナイロン系のものに変更。

 指板からヘッド・ストックにかけての形状は大きく緩やかなアールとなっています。ヘッド厚に関しては同年の別の個体で13mm〜13,5mm程度に対し、この個体に限っては特に厚くなっておりかなりの違いが見られました。
◎ご参考として
<ヘッド厚>
1弦側:約15mm、6弦側:約15〜15,5mm

 '59年〜'64年までのクレイ・ドット。5弦と2弦の中央くらいに位置していた12フレット上のドット・マーカーですが、'63年からはこの間隔が内側に狭くなります。
※'59年製と比べてみると違いがはっきりしますね。これもピックガード同様に見分けるポイントと言えるでしょう。

 "ブリッジ"とテイルピースとして機能する"イナーシャ・ブロック"を一体化させたセパレート・タイプのトレモロ・ブロック。斬新なアイデアを実現させたこの"シンクロナイズド・トレモロ"の名称は、アーミングの際に一体化したブリッジ・プレートとイナーシャ・ブロックがシンクロ(同調)して動くという意味から付けられた。'57年頃からはサドルに刻印された「FENDER PAT.PEND.」の溝が深いタイプも採用されますが両方が混同している個体も少なくないようです。

 既に'58年にはピックガードとジャック・プレートのネジが変更されていますが、'62頃からはネック・ジョイントとスプリング・ハンガーのネジも木ネジからタッピング・ネジに変更。シリアルは数字の頭に「L」が付けられた"Lシリーズ"、これは'63年〜'65年までの仕様でその後CBSへの売却以降はネック・プレートに大きく「F」の刻印が入ります。