GIBSON 1958 LES PAUL

 

 言わずもがな、この楽器が存在しなければ現代の音楽は生まれていないと言っても過言では無い、エレクトリック・ギターの代名詞「ギブソン・レス・ポール」。


 1952年に誕生して以来、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、デュアン・オールマン、マイク・ブルームフィールド、ゲイリー・ムーア、ランディー・ローズ、スラッシュ、松本孝弘等など、枚挙を厭わない数の伝説のミュージシャン達が愛用し、現代においても不動の人気と憧れを集め続けています。


 発売以来、仕様変更や一時発売中止等を重ねる事で年代によって特徴がございますが、今回は発売当初の希少なゴールド・トップ・レス・ポールに焦点を絞ってご紹介させて頂きます。見ているだけでもその存在感に圧倒される逸品をじっくりとご鑑賞下さい。

1958 Gibson Les Paul


 オールマン・ブラザーズ・バンドのディッキー・ベッツの影響により根強い人気を誇る’58年製。いわゆるゴールド・トップの完成形。ボディ・バックが一般的なナチュラル・バックと今回ご紹介のギターのようなダーク・バックとが存在し、ダーク・バックの方がレア。トグル・スイッチ・プレートやエスカッション、ジャック・プレートがブラック・パーツ仕様の個体もあり、レア・アイテムとなっている。ラッカー塗装にブロンズ(貴金属)パウダーを混ぜて塗布しているボディ・カラーで、ヴィンテージ・ゴールド・トップの色調は抜群の格好良さがある。

 ヘッドの突板にはHollywood(柊)、ロゴには白蝶貝を使用。ロッドカヴァーは非常に綺麗ですが当時板材を加工する際に生じる”ロールマーク”が確認出来当時のオリジナルである事が確認出来る。この個体はレスポール・モデルのロゴは消えかけている

 ボディ・バックは例外無く、マホガニーワンピースボディ。ネック裏もボディ・バックもダーク・ブラウンに仕上げられている。

ボディ・トップのメイプル材はマット・ゴールド塗装で潰されている為正確には解りませんが、通常は2~3ピース、多い物では6ピースのメイプル材から造られている。ゴールドのカラーが若干緑がかって見えるのは当時の塗装はブロンズ・パウダーをラッカー塗料に混ぜて塗布している為、塗料のブロンズが酸化して深みのあるゴールド・トップのカラーリングを生み出している。

 ギブソン社のオリジナル・レスポールモデルの大きな特徴として強固なセットネック構造が挙げられる。1952年の発売時点ではネック・ジョイント角度は1度であったが、1953年からは3度に変更される。通常のセットネック構造はボディに埋め込むネック末端の中子の部分をボディより細く削り”ザラ付け”する事で行われるが、ギブソン社の中子はネックのヒールと同じ太さを保ったままボディにジョイントされており”ザラ付け”が行われていない。これによりボディとネックの接合面が広く取れ無駄な隙間が出来ない。強度がありさらにレスポールの特徴でもある優れたサステインはこのようなところからも生まれる。

 ヘッドの角度は1952年の発売からの17度。ギブソン社のネックの木取りは、あえて木目を傾けた方法で木取りがされており、これにより折れやすいヘッドからナット裏部分までの木目が真っ直ぐになる事で強度が稼げる方式。その他ネック部分は木目が細かく切れている為、水分の飛散が早まり環境に馴染むのも早い利点もある。この木取りの方法は1枚の角材から取れるネックの本数が少ない為コスト的に非常に不利で贅沢な仕様ですが、当時のギブソン社の楽器造りの姿勢が伺える。

 ギブソン・レスポールはセットネック構造を採用しておりヘッド側からトラスロッドを調整する。トラスロッドは1920年代からギブソン社が採用しており、元来の用途であるネックの調整の他に木取りの為に柔らかくなったネックの強度を保つ役目も果たしている。

 ゴールドのハットノブ。1955年から1960年頃までレスポール・モデルにも採用されているノブ。中のゴールドはボディ同様の塗装が施されており、ブロンド・パウダーが酸化する事で所々緑がかった色に変わっている。

 コンデンサーには『スプラグ社』製のバンブルビー。ポットは『CTS社』製。トグルスイッチは『スイッチクラフト社』製。

 テッド・マッカーティ交換のチューン-O-マチック・ブリッジ。パテントの出願は1952年7月5日、認可は1956年4月3日で、先に使用されていたスタッド・ブリッジ/テールピース(出願1953年1月21日、認可1955年8月2日)より半年先に開発されていたブリッジ。元々はホロウ・ボディ・ギター用に出願されたもので、各弦のサドルを調整出来る為、細やかなオクターヴ・ピッチの調整を可能にしている。材質はダイキャスト製のベースにブラスのサドルを使用。

 テールピースに使用されているが、元々はテッド・マッカーティ考案で出願1953年1月21日、認可1955年8月2日のスタッド・ブリッジ/テールピース。1952年から1954年頃まではこのスタッド・ブリッジ/テールピースがレスポールに搭載。材質はアルミ。

 フィンガーボードには、世界的な銘木で現在ワシントン条約で絶滅危惧種に指定され、輸出入が禁止されているブラジリアン・ローズウッドを採用。一般的なローズウッドに比べ重硬な材で、柔らかいネックを補強すると共に芯のしっかりしたアタックも生み出す。

 ペグは『クルーソン社』製の320VP。ペグにクルーソンの文字が一列に入る通称シングル・ライン。ペグ・ボタンの形状がシャフトに近く一つのコブが付いている事から”1コブ”とも呼ばれている。プラスティックが経年する事で褐色になり渋みを増している(非常にもろく壊れやすい)。

 セットネックのジョイントはピックアップの半分以上奥まで差し込まれている、ディープ・インサート・ジョイントを採用。当然この当時にディープ・インサート・ジョイントの名称は無く、これが当然の仕様であった。ジョイントの接地面を広く深くとる事で強度を稼ぐと共に、ネックの振動とボディの振動をダイレクトにサウンドに反映出来る。現在では当たり前に用いられる方式だが、この当時よりシステムが確立していた事でレスポール楽器自体の完成度の高さが伺い知れる。

 1957年からレスポールモデルに搭載されるハムバッキング・ピックアップ。セス・ラバーとウォルター・フラー開発によるピックアップで、特許の出願は1955年6月22日、認可は1959年7月28日。一般的にPAFと呼ばれているこのピックアップは”PATENT APPLIED FOR”’(特許出願中)のデカールが貼られている事から来ている。セス・ラバーによると、ワイヤーはAWGの42(プロトタイプにはAWGの#32を使用した事もあるとのこと)、コイルターン数は約4,100から4,200、マグネットにはアルニコVを使用(50年代には入手が困難でアルニコIIやIIIを使用した事もあるとのこと)。ボビンの色は元々黒一色だったが、纏まって黒の素材が入荷しなかった時に白や黒白のボビンを使わざる得なかった事で色の違いが出ている。セス・ラバー曰く、重要なのはピックアップ・カヴァーで、このピックアップはジャーマン・シルバーのカヴァーを付ける事を前提に設計されている。ピックアップカヴァーは素材がジャーマン・シルバーで80%はニッケル・シルヴァー。高周波のレスポンスを変える為にピックアップ・カヴァーを外すミュージシャンが多く、その為ボビンのカラーもマニアの中では重要視される。

 1952年から1960年までのソリッド・ギターのシリアルは、最初の一桁が西暦の最後の桁で、続く4から5桁が続き番号となっています。この個体は「8 1116」なので、1958年製の1,116本目に製作されたレスポールと判別出来る。