'56年はボディ材の仕様変更が行われた年になりますので、アッシュ材とアルダー材の個体が混在している特徴的な年度になります。
核となる材が違えば当然サウンドにも大きく影響してくるのですが、共に個性があり魅力的なトーンを持つ事は間違いないでしょう。
本器はピッキングに対しての反応が良く、コードを鳴らした時の倍音もかなり気持ち良く出ますね。トレブリーさはそれほど感じられず、カッチリしている中でも柔らかい印象を受けました。
FENDER 1956 STRATOCASTER
'50年代の基本的なキャビティ。コントロール部分は'59年の中頃にはピックガードが8点止めの白の1プライから3プライの11点止めへ変更された事に伴いネジ穴の部分が出っ張った形状に変わります。ピックガードに隠れる部分にはネジ穴の他にジグ留めのピン穴が3箇所('58年頃には一つ無くなり2箇所になるようです。)と、ジャック・キャビティの1箇所の計4箇所に空けられています。ボディのデイティングは裏のスプリング・キャビティに記載。
リア・ピックアップ部の配線コードを通す溝はかなりラフに仕上げられてますね。個体差はあるものの、'57年頃からはフリーハンドでもある程度は一定の深さに仕上げられます
"SwitchCraft"製のジャックを採用。ビス穴の横にもう一つ小さい穴が確認できますが、これはジグ留めの際に空けられるピン穴で、ボディにも同様に3箇所(ピックガードに隠れる部分)あり計4箇所空けられています。
スプリング・キャビティに記されたボディ・デイトです。手書きでかなりラフに書かれていますので少々見えづらいですが'56年で間違いないでしょう。
トップ&バック・コンターは'57年にかけて大きく深くなるようですがそれ以降は徐々に面積が狭く浅くなっていくようです。細かく変更されていますので年度によって違いがある部分ですね。
ネック・ポケットは全体に塗装が塗られています。ラッカー剥がれもボディとネックで一致していますので間違いなくオリジナルでセットされたものでしょう。'62年頃からはネック・ポケットにハンガーを取り付けて塗装されるようになりますので塗料は半分しか乗らなくなります。
ボビン上下に黒のファイバー紙を使用したオリジナル・ピックアップ。配線をまとめるマスキングテープもしっかりと残っております。ピックアップのマグネットには直径5mm弱の円柱型アルニコ・タイプV、コイルは"AWG(アメリカン・ワイアー・ゲージ)#42"を使用。ポールピースはストラトキャスターでは音量バランスをとる為に各弦で高さの異なる"スタガード"タイプとなっており'70年代半ばまで採用されています。
※アルニコ・タイプV:約50%の鉄にアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を加えた合金、ちなみに、アルニコという名前の由来は単純に元素記号を並べたもの。
◎ご参考として
<ピックアップ直流抵抗値>
(F)5,77kΩ (M)5,67kΩ (R)5,76kΩ
基本的にシリアル・ナンバーは製作された年代を特定する要素として重要なポイントの一つとなっていますが、製作工程などを含めたシステムの変化による誤差は勿論、何らかの理由でシリアルと製造年月日が極端に離れた個体も存在していますので必ずしも一致している訳ではありません。容易にパーツの交換も可能という事もありますので、実際の年度の特定には各パーツを含め総合的に判断する事が必要となります。
ポットは"Stackpole"製の溝無しタイプ。ポット・デイトは「304633」ですので、'56年の33週と判別できます。キャパシターはポッティング処理された"CornelDubilier"製の0,1μF 150VDC、スイッチも"CRL"製の3点式オリジナル。アルミ製のシールド・プレートはコントロール部分のみをカバーしていますが、'59年頃からはピックガードの仕様変更に伴い裏側全体を覆うサイズに変わります。また、ポットも'57年頃から底面が平らなタイプから円形の溝の入ったタイプが使用されます。
手書きのデイティングで'56年と確認できます。逆さに記されていますので見づらいですね、、、。
特徴的な"Vネック"です。'54年の登場当初は三角気味の太いグリップですが、'56年頃からはグリップの厚みがやや薄くなり三角の角度が強くなります。翌年には更に角度が強くなりますので、いわゆる"Vネック"仕様のピークは'57年と言えるでしょう。その後は徐々にネック・シェイプも薄くなりフラットなグリップへと移行。また、1ピース・ネックの場合は、背面からトラスロッドを仕込む為ロッドの溝の部分にウォルナット材が埋めてあり、通称"スカンク・ストライプ"と呼ばれています。
ペグは"Kluson"製のカバード・タイプ。前年までの初期タイプではカバー上部に刻印の無いタイプでしたが、'56年頃からは「KLUSON DELUXE」の刻印が入れられた"1列クルーソン(シングル・ライン)"になり'63年頃まで採用されます。
金色に黒の縁取りの通称"スパゲティ・ロゴ"。'54年以降は大きな面取り加工が無くなり徐々に角張ったヘッド・ストックになっていきます。この年の途中よりストリング・ガイドが丸型からプレス加工した波型に変更されました。ロゴの剥がれもなく綺麗に残っていますね。
指板部分からヘッド・ストックにかけての形状が一段下がったような急なアールとなっているのが特徴。'59年からのローズウッド仕様では大きく緩やかなアールとなっています。
◎ご参考として
<ヘッド厚>
1弦側:14mm、6弦側:14mm
'56年よりコントロール・ノブやピックアップ・カバーなどの材質が削れやすく割れやすいベークライトからナイロン製に変わります。強度は増したものの、ベークライトが変色しにくい特徴を持っているのに対しナイロン製は経年変化で黄色く変色するのが特徴。
"ブリッジ"とテイルピースとして機能する"イナーシャ・ブロック"を一体化させたセパレート・タイプのトレモロ・ブロック。斬新なアイデアを実現させたこの"シンクロナイズド・トレモロ"の名称は、アーミングの際に一体化したブリッジ・プレートとイナーシャ・ブロックがシンクロ(同調)して動くという意味から付けられた。'57年頃からはサドルに刻印された「FENDER PAT.PEND.」の溝が深いタイプも採用されますが両方が混同している個体も少なくないようです。
ピックガード用(上8個)とジャック用(下2個)の木ネジです。'58頃からは上部まで切り込みが入ったタッピング・ネジに変更。また、'60年代初期に入るとネック・ジョイントとスプリング・ハンガーの木ネジも同様にタッピング・ネジに変更されます。シリアル・ナンバーはネック・プレート上部に刻印。