GIBSON 1954 LES PAUL

 

 言わずもがな、この楽器が存在しなければ現代の音楽は生まれていないと言っても過言では無い、エレクトリック・ギターの代名詞「ギブソン・レス・ポール」。


 1952年に誕生して以来、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、デュアン・オールマン、マイク・ブルームフィールド、ゲイリー・ムーア、ランディー・ローズ、スラッシュ、松本孝弘等など、枚挙を厭わない数の伝説のミュージシャン達が愛用し、現代においても不動の人気と憧れを集め続けています。


 発売以来、仕様変更や一時発売中止等を重ねる事で年代によって特徴がございますが、今回は発売当初の希少なゴールド・トップ・レス・ポールに焦点を絞ってご紹介させて頂きます。見ているだけでもその存在感に圧倒される逸品をじっくりとご鑑賞下さい。

1954 Gibson Les Paul


バー・ブリッジが特徴の’54年製。バー・ブリッジのコンパクトさによるボディ・トップのシェイプが魅力ともなっている。オクターヴやチューニングの精度の問題は有りますが、レスポール・ジュニアと同じで、このブリッジを好むプレイヤーも多いようです。また、やや音が暴れるところがマニアには好まれるようです。ジェフベックがこれにPAFを取り付けて素晴らしいプレイを披露して以来、バー・ブリッジのままでもOKという意識が植え付けられ、ロック・スピリットに溢れたギタリストは、このバー・ブリッジの’54年製を好む傾向にあります。’52年製だとあのトラピーズ・テールピースが曲者で弾きづらい。ネック・ジョイント角度も浅いため、弦のテンションが弱く、いまいちロックでは無い。ヴィンテージ・ゴールド・トップを選ぶ際、必然的に内容やコスト・パフォーマンスの面から’54年製が手の届きやすいギターなのではないでしょうか。

 ヘッドの突板にはHollywood(柊)、ロゴには白蝶貝を使用。ロッドカヴァーは非常に綺麗ですが、当時板材を加工する際に生じる”ロールマーク”が確認出来当時のオリジナルである事が確認出来る。

 ヘッドの角度は1952年の発売からの17度。ギブソン社のネックの木取りは、あえて木目を傾けた方法で木取りがされており、これにより折れやすいヘッドからナット裏部分までの木目が真っ直ぐになる事で強度が稼げる方式。その他ネック部分は木目が細かく切れている為、水分の飛散が早まり環境に馴染むのも早い利点もある。この木取りの方法は1枚の角材から取れるネックの本数が少ない為コスト的に非常に不利で贅沢な仕様ですが、当時のギブソン社の楽器造りの姿勢が伺える。

 ギブソン・レスポールはセットネック構造を採用しており、ヘッド側からトラスロッドを調整する。トラスロッドは1920年代からギブソン社が採用しており、元来の用途であるネックの調整の他に木取りの為に柔らかくなったネックの強度を保つ役目も果たしている。

 1952年から1960年までのソリッド・ギターのシリアルは最初の一桁が西暦の最後の桁で、続く4から5桁が続き番号となっている。この個体は「4 3046」なので、1953年製の3046本目に製作されたレスポールと判別出来る。

 ギブソン社のオリジナル・レスポール・モデルの大きな特徴として、強固なセットネック構造が挙げられる。1952年の発売時点ではネック・ジョイント角度は1度であったが、1953年からは3度に変更される。通常のセットネック構造はボディに埋め込むネック末端の中子の部分をボディより細く削り"ザラ付け"する事で行われるが、ギブソン社の中子はネックのヒールと同じ太さを保ったままボディにジョイントされており"ザラ付け"が行われていない。これによりボディとネックの接合面が広く取れ無駄な隙間が出来ない。強度があり、さらにレスポールの特徴でもある優れたサステインはこのようなところからも生まれる。

 ギブソン社は非常に木工技術に優れた会社であった。各キャビティを結ぶ配線用の穴やコントロール・キャビティは、マホガニーとメイプルを接着する以前に加工され接着される。アーチ・トップの角度に合わせたノブの向きを確保する為に、トップのメイプル底面を加工する際には異なる2方向から角度を付けて加工されている。非常に手間のかかる工程ではあるが、一環したこの拘りが銘器としての所以と感じられる。

 コンデンサーは『Cornell Dubilier社』製のGRAY TIGERに、ポットは『CTS社』製。

 ボディ・バックのマホガニーには当時例外無くワンピースのマホガニーを使用。
 ボディ・トップのメイプル材はマット・ゴールド塗装で潰されている為、正確には分かりませんが、通常は2~3ピース、多い物では6ピースのメイプル材から造られている。ゴールドのカラーが若干緑がかって見えるのは当時の塗装はブロンズ・パウダーをラッカー塗料に混ぜて塗布している為、塗料のブロンズが酸化して深みのあるゴールド・トップのカラーリングを生み出している。

 アーチ・トップ(カーブド・トップ)の技術はウッド・カービング・マシーンを保有していたギブソン社ならではの手法で、当時フェンダー社では保有しておらず、他のソリッド・ギターより高級である事への差別化が図られた。

 1953年からトラピーズ・ブリッジ・テールピースに代わり使用される、スタッド・ブリッジ・テールピースとP-90シングル・ピックアップのコンビネーションはこの年代のレスポールの大きな特徴。

 テッド・マッカーティにより1953年1月に出願されたパテントのスタッド・ブリッジ/テールピース。バー・テールピースやマッカーティ・ブリッジ等と呼ばれ、1955年頃まで採用されたブリッジ。その後もレスポール・ジュニアやスペシャルには使用され続ける。素材は軽量なアルミを使用。

 ペグは『クルーソン社』製の320VP。ペグにクルーソンの文字が入らない通称”ノーライン”。ペグ・ボタンの形状がシャフトに近く一つのコブが付いている事から”1コブ”とも呼ばれている。

 セットネックのジョイントはピックアップの半分以上奥まで差し込まれている、ディープ・インサート・ジョイントを採用。当然この当時にディープ・インサート・ジョイントの名称は無く、これが当然の仕様であった。ジョイントの接地面を広く深くとる事で強度を稼ぐと共に、ネックの振動とボディの振動をダイレクトにサウンドに反映出来る。現在では当たり前に用いられる方式だが、この当時よりシステムが確立していた事でレスポール楽器自体の完成度の高さが伺い知れる。

 ピックアップには1940年に登場したシングル・ピックアップP-90を搭載。2つのアルニコ・マグネットがポールピースを挟み込む構造で、コイルはプラスティック・ボビンに巻かれている。
 ワイヤーはAWGの#42を採用、ターン数は約10,000ターン巻かれており、ファットで粘りのあるサウンドが特徴。カヴァーはネジ止め部分がピックアップ横にある従来のドックイヤー・タイプでは無く、2・3弦の間と4・5弦の間にネジ止め部分がある、ソープバー・タイプ。ドックイヤーもソープバーも中身は同じ構造。ピックアップ下の木工技術も丁寧に仕上げられており、ここでもギブソン社の木工技術の高さが伺える。

 ゴールドの円筒形のノブバレル・ノブ。1952年の誕生から1955年頃までレスポールに採用。

 フィンガーボードには世界的な銘木で現在ワシントン条約で絶滅危惧種に指定され輸出入が禁止されているブラジリアン・ローズウッドを採用。一般的なローズウッドに比べ重硬な材で、柔らかいネックを補強すると共に芯のしっかりしたアタックも生み出す。

 トグルノブは当時よりスイッチクラフト製。穴あけや落し込みの加工も非常に丁寧に加工されている。