第一章
2005年1月も終わる頃、社内の新年会が開催された。
近くの居酒屋でいつもの通り、酒を浴びながらゲームや妙な曲芸で盛り上がっていた。時間も経ち皆の体内にアルコールが行き渡る頃、当日の幹事ニーヤ・富田が立ち上がり、皆に向かって話をはじめた。
ニーヤ・富田「皆さんに重大な発表があります。」
一同「なになになになになに・・・」
ニーヤ・富田「実は今回、店のテーマソングを創る企画をたてました。」
一同「?????」
ニーヤ・富田「全員何らかのパートで演奏してもらいます、そしてCD化した後に販売しようと思います。」
「誰が買うんだ?」
「・・・売れんな、それ以前に曲はどーする」
やる前から弱気である。
ニーヤ・富田「数は売れないかも知れません。皆で一つの目標を持って団結して行く事、そして万一売れたときはその一部を日本赤十字みたいなところへ寄付しようと思います。」
そう、記憶に新しいスマトラ沖地震津波、新潟などの地震など立て続けて起こった災害に対して我々は何もしていなかった。だがこれなら出来るかも知れない。単にお金を寄付するよりも、自分たちが楽しみながらお手伝いできるほうが健康的である。
誰が買うって?・・自分と親兄弟・・・・せいぜい数十枚程度かもしれないが、イイじゃないか。
楽しく行こう!
さて企画がスタートはしたものの、何からすべきか。企画名、作曲、作詞、パート決め、スケジュール、録音方法などなど・・・
このあたりは社内掲示板でのやり取りの中で徐々に決まっていく事になる。
作詞・作曲は皆からデモ曲を募ってそこから一つを決めよう。企画名は「TC Aid」でイイかな、パートは曲が決まってから、と。録音はニーヤ・富田私物の「ProTools LE」&「Apple iBook G4」ね。機材は店の商品使える許可もらったし、お金かけられないから。
さて、何はともあれ曲だ、曲!
そして二週間後にデモ曲提出最終日とになった。集まったデモは・・・・2曲。
時間が短かったか、人任せなのか。
結局多数決となり、我々のテーマ曲となるべき一曲が決まった。ヒーゲ・田部によって作曲されたものだ。
さあ曲が決まった。この後はヒーゲ・田部をプロデューサーとし、ニーヤ・富田を録音的技術担当責任者に迎えてスタートしていく事となる。
第二章
パートはそれぞれ自分が出来る楽器を選ぶしかないので早々に決まった。一般社会と比例するようにギターパートが多いが、まあ仕方ない。
ギターパート会議
デモッサ・小河内、ヤメーテ・小暮、ラメーン・鹿子田、ニーヤ・富田が集合した。同パートのヒーゲ・田部はインフルエンザで参加できず、この4人で最初の会合が始まる。
「・・・」
皆が誰かの第一声を待っている中、おもむろにヤメーテ・小暮が展示してあるフェルナンデスTEJを持ってくる。
ヤメーテ・小暮「ボクはこれで!サスティナーで行きます!」
勇猛果敢である。
一同「へ?・・・おっけ、イイよそれで」
イイのかホントに。
じゃーバッキングから決めようかね。
アコギはやっぱりヒーゲ・田部に任せるしかないでしょう、それとエレキを一本混ぜようか。で誰が?
「・・・」
積極的なスタッフ達である。
「先にソロ決めよう!」
ソロのパートは数小節あるから四つに分けて順番に・・・
それじゃー最初のソロは?
「・・・」
やる気マンマンである。
「ヒーゲ・田部氏に任せましょう・・・いないし・・・」
一同「うんうん」
トップバッターは決まった。
ズルイのである。
で次はじゃんけんね。はい、じゃん・けん・ぽ・・・あっデモッサ・小河内ね。そして破壊力抜群のTEJサスティナーが次だね。それで最後はラメーン・鹿子田で。
曲のエンディングはニーヤ・富田に任せて、と。じゃ、決まりってことで。よろしく~。
ヴォーカルパート会議
オッカーレ・松井、スイマーセン・井本の担当だ。
Cメロはハモって・・・AとBは順番にうたおっか。
そうね、ま、テキトーに。
おわり。
はやっ!
第三章
イザ録音。
まずは録音機材の紹介。先にお伝えしたように Apple iBook G4 と ProTools LE はニーヤ・富田の私物。必須の外付けのハードディスクにはFireWire接続の物を別途購入した。USB2.0の方がカタログ速度は速いのだが、実行速度はFireWire(IEEE1394)の方が早かったりする。今回ニーヤ・富田には終始お世話になった。
初めはドラムの入力だ。担当のブーチヤケタ・黒澤がスタンバイする。ところでなぜシロウトの彼が担当になったのか。
それは一年前・・・「運動不足の解消!」を目的にとりあえずスタジオで数回生ドラムを叩いていたのだが、手首が腱鞘炎になり断念した経緯がある。彼はこの機会に強制的にドラム練習せざる得ない状態に自分を追い込みたかったのである。
できんのかよ、ホントに。
話は録音に戻るが、生ドラムの録音は非常に難しい・・らしい。
辛いのと難しいのが嫌いは我々は、売場にあった商品のエレドラYAMAHA DT-Xに視線を傾けた。
「これにしよう♪」
アウトジャックから2本をMacに接続されているインターフェイスに接続し、いざ録音。
ありゃ、自分の音が微妙に遅れて聞こえてくる。どうやら仕様らしい。DTMの宿命か。しかしこれではプレイできない。そこで自分の音はモニターせずに、デモ曲だけ聞きながらそれに合わせてパタパタ叩いた。
1テイクが終わる頃、
ヒーゲ・田部「あの~、バスドラがちょっと違うような・・・」
ブーチヤケタ・黒澤「あ、うん。そうね、出来ないの、リズムマシンみたいに。」
ヒーゲ・田部「・・・」
そして数テイク程で終了。いいのか、こんなので・・・と宿る空気を遮り、ブーチヤケタ・黒澤は言う。
「だっておかしいところ、Macで直せちゃうんでしょ?」
完全にソフトの編集技術に頼っている彼。
ニーヤ・富田「えっ?まあ技術的には可能なんですが・・・」
「はい、じゃオツカレ~」
「・・・カレ」
実は後日「Roland TDシリーズ」のエレドラが入荷したのだった。こっちの方が音が良いので叩き直す事になったのでした・・・。
ブーチヤケタ・黒澤曰く、ドラムで運動不足解消にはならない!
続いてベースの録音。ダカーラ・吉羽登場。
彼はこの企画が始まった当初から
「私は裏方ですからベースで。」と決心を固めていたらしい。
スタッフにはギター人口が圧倒的であったため堅実な判断である。「ベース=裏方」の論理。うむ、リペアマンらしい。
セッティングはライン直、ベースアンプをモニター代わりにしてクリック音とデモ音を聞きながら本番開始。
1テイク、2テイク、3テイク・・・
ドライバー持ち出しオクターブ調整を始めるダカーラ・吉羽。腕はあるのだが、音程の問題と予想を反したベースラインにヒーゲ・田部とその場協議が始まる。
結局ベースを70年代のFender JBに持ち替え、更にトッサに決めたベースラインを難なく弾き終えて無事?終了。作曲者のヒーゲ・田部のイメージを尊重しつつ演奏したようだ。
ダカーラ・吉羽曰く、シンプル・イズ・ベスト。
そしてアコースティックギターの登場。ヒーゲ・田部の出番だ。
使用したのは店頭にあった、Gibson SJ 65年製。
生ギターの録音にはマイクの位置など気を使うところが多い。今回はサウンドホールに向けて一本とボディのエンドピン方向からと合計二本のマイクを使用。
やはりマイクの位置決めに非常に苦労した。目標は生音を生かした抜けの良いサウンドだ。ヒーゲ・田部本人の曲でもあるので、マイク位置さえ決まってしまえば、後は早い。
スピーカーからリズムなどをモニターできないため、ヘッドホンの片側だけでクリック音をモニターし、もう片方は外して自分のギターをモニターすることになった。そして数テイクの後終了。
この時知ったがこのデモ曲は元々アコースティックの曲だったらしい。
ヒーゲ・田部曰く、やっぱりナマはイイ!
次にラメーン・鹿子田の登場。
エレキによる、バッキングとリードソロを担当。
機材は自己所有のFENDER STRAT 70年製にFENDER/CUSTOM SHOP VIBROKING COMBO、それにBOSS OD-2とCE-3を使用。
何はともあれ初めてのレコーディング経験。バッキングで前に出てはいけないので、他の楽器を邪魔しないように、それとな~く格好良く決めたつもりらしい。
この時点では他の音がないほとんど無く、ある意味自由にプレイ出来たかも知れない。
そしてテイクを重ねること数時間。時計を見ると夜中の1時だ!
スロー・スターターと聞いていたが、ちょっと遅過ぎないかっ!
本人曰くとにかく緊張してしまったためミスが多かった。いつもは普通に抑えられるコードが出来なくなるなど、初めて女の子と二人っきりでカラオケに行ったときくらいに緊張した、らしい。
最終的には本人も納得いったテイクが録れ、満足だったようだ。
さて後日、ソロの部分を録る事になった。
最後の4小節の担当で終わり方をどうするか、組立方など珍しく考え込んだ。
ギターはFENDER JAPAN製ハム改造ストラトにアンプはBRUNO COW TIPPER、エフェクターはBOSS OD-2と武装しテイク開始。
カンペキにイメージ通りにはいかなかったけど、まあ満足。と、ラメーン・鹿子田。
皆そうだが、終わってからああすれば良かった~ときりがない。
録ったばかりのサウンドをCDに焼いて渡せるあたりがDTMっぽいが、まず間違いなく「もう一度、お願い」になる。便利にはなったが、終わらんなこれでは。
良い経験だったので、これを機にMTRに目覚めよっかな。by ラメーン・鹿子田。
ラメーン・鹿子田曰く、レコーディングは怖い
第四章
ヤメーテ・小暮のソロの番がやってきた。
彼のソロは曲を聴けばすぐで分かるほど、印象的だ。なんたって、サスティナー使って白玉イッパツなんだ。
いい加減にやっているように聞こえるかも知れないが、アーミングのタイミングや音程など結構気を使ったのですよ。
今回の曲で一番(笑える!?)独創的な部分だ。
ヤメーテ・小暮曰く、次回もサスティナーでイイっすか?
そうこうしている間に、デモッサ・小河内の順番となる。
彼もまた、エレキギターでソロの担当だ。
ソロパートは予想以上の緊張が走った。
というのも前のヤメーテ・小暮によるサスティナー・ソロが意外にも良い感じだったのだ。
少々バカにしていただけにがんばらねば。
当初の作戦通りLINE6のPOD2を使用し、プロビデンスのバッファをかましてダイレクトに録音してみたが、少々ノイズと抜けが気になった。
結局BOSS MD-2, CE-2をTUBEWORKS のアンプにつないで音作りをすることになった。
個性イッパツということで、ソロは周りの流れをほとんど無視して自分の世界に浸っていた。
しばらくするとニーヤ・富田から「ワウは使わないの?」との一声があり、我に返る。
「おお、そうだね!使っちゃおう。」
選んだのはジムダンロップGCB-95Q。
妥協はしたくなかったが、自分自身がOKでも周りからOKがでなかったり、その逆もありで、なかなかスムーズにはいかなかった。by デモッサ・小河内。
そうそう、ギターは個人所有のシャクターのストラトタイプ。当店の売れ残り?を購入して大改造したものだ。
ソロの後にギター四重奏部分の録音を行ったが、皆とのテンポ取りが難しかったらしい。
デモッサ・小河内曰く、もう4小節くれ!
さて、ギターも大半録り終えたところで、ボーカルさんの登場だ。
男性ボーカル、オッカーレ・松井が現場に「お疲れさまでーす」と登場。
担当決めの際、自分が歌に決まったときはうれしかった、カラオケ以外で歌えることがうれしい。と歓喜のあまり、腕立て伏せで喜びを表現したオッカーレ・松井。
さて本番前の練習はどうだったか。歌詞は事前に出来ていたのでそれをプリントアウト。相方の女性ボーカル、スイマーセン・井本とのパート決めも決まり、自分のパートの歌詞を一心にカタカナ変換!
そして証拠品、没収 >>
事前練習はスタジオがいっぱいだったので、カラオケへ自分のアコギをかかえて入った。店員の目が気になったが知らん顔して入室。おい、窓から覗くなよ。
本番は緊張した。声はうわずり、今まで覚えていた事が真っ白に。だが1テイク録った後は気分もやや楽になり、自然な感じで歌うように心がけた。
スイマーセン・井本さんが上手なのでそれについていった感じです。とオッカーレ・松井。
声の質がハモりに適していないと本人が気にしていたが、以外?にきれいに合致してましたよ。気持ちよさそうだったしね。
ご本人は楽しかった。またやりたい!と腕立て・・・・はしなかったが、良かった良かった。歌はドラッグだ。とご本人。やめられないのね?。
オッカーレ・松井曰く、カラオケにフォークギターは忘れずに!
続いて女性ボーカル、スイマーセン・井本の順番だ。
「ボーカル担当になって、非常に恐縮でした。もちろん初めてのレコーディングだったし、今までこのテの曲を歌った事が無かったので新鮮であり、面白かったです。」とコメントを頂いた。
本番前はひとりでスタジオに入って練習をしたらしい。最近バンドもカラオケもなかったので、まずは声を出すところから始めたそうだ。
二人でなかなか合わないハモリ部分を練習したのだが、ナントもうまくいかず困っていたが、本番は待ってくれない。
実際の録音現場は自分の担当売場でもあり、また歌いやすい雰囲気にしたので、楽しめたでしょ?
終わった後の感想は、本番録音については勢い重視であったため、ちょっと荒かったかもしれない。そして二人で合わせるところがやっぱり合わずに苦労した。そうだ。
スイマーセン・井本曰く、合わないモノは、合わない!
ごもっとも。
第五章
アコギ担当ヒーゲ・田部と録音担当ニーヤ・富田との一致した見解でアコースティックギターの録り直しとなった。最初は良いと思ったが、他のパートが入ってきて、バランスや音色が気になってきたので、もいっかい。
今回はマイク位置に改良?を重ね、録音しては聞いての繰り返した。このテイクではリズムパターンを変えたり、アコギのアレンジを加えるなど数ヶ所で変更を加えた。
特にソロの部分がベースパターンと合わずに苦労したのだが、結局ベースに合わせた形となった。
そして数テイクで完了。満足&カンペキの出来ばえだ。
遠くの方から声が聞こえてくる・・・「初めから話し合えよ~」。
そりゃそうなんだけどねえ・・・。
さて続いてソロの録音。
機材はFENDER/J STRAT EXTRAD 80'S 個人の愛機にFENDERカスタムショップ製 DUAL PROFFESIONAL。エフェクターは自前のTURBO RAT, TUBE SCREAMER, GUYA DELAYなどなど。
実は最初Fender TWINを使ったが、なぜかRATとの相性が合わず(低音がひずみっぱなし)急遽、Dual Proffesionalに変更したのだ。ところがこれがなかなか良い。これで音作りは決まった。
担当の4小節ほぼデモ通り。4人のギタリストの中で、一番ロックぽいぞ!、とご本人。
ハモリ部分はその場で考えて雰囲気を壊さぬようプレイした。ソロが短く物足りないと感じたらしい。ギターの見せ場だからねえ~。
後半に入り、ここからは管楽器の出番だ。
「みんなでヤル」を目標にしてきたので、やや強引であったが管楽器部門がある以上登場して頂けねば。
先陣切ってトッタンカーイ・水本がトランペットを持ってスタンバイ。
事前にサックスやらフリューゲルやら吹いていたが、結局ペットに落ち着いたようだ。
ところでどうやって録るのかと思っていたら、金管用のコンデンサーマイク持参だ。ラッパの先に取り付けて完了。便利ね♪
音決めに少々戸惑ったがさあスタート。
ファ~♪プァ~♪
地味だ。
おや、チューナーに向かって吹いてる。音程を確かめながら演奏しているらしい。
アンタ器用ね。
数回の録り直しがあり、次第に疲れが見えてきた。この辺りはボーカルさんと同じように連続演奏は疲れるんだよね~。
しかし、ここは根性イッパツ。きっちりやり遂げました。
トッタンカーイ・水本曰く、ハンドルネームは「ミズーリッヒ・ヤエガシ」ってお願いしたのに~
管楽器部門にはもう一人リペア担当のソナーンデスカ・中島がいる。
彼女にはクラリネットで参加してもらおう。
先のコンデンサーマイクを無理やりラッパの中に突っ込んでみたが、結果はNG・・・高い方と低い方のバランスが悪すぎで使えません。
却下。
少々強引だった事を反省しつつ、普通のマイクで録る事にする。
さてソナーンデスカ・中島、一見ボーとしているように見えるが実は彼女、吹いてもすごいんです@o@
さあ行ってみよう!
ボー♪ ボー?
地味だ。
スイングガールズみたいに動けないもんな・・・
まあ、地味はイイんだ。それよりこの管楽器が曲にどのように溶け込んでいくかが楽しみだ。君らの苦労は無駄にはしません!
ソナーンデスカ・中島曰く、もういいんですか?
第六章
さて録音作業も終盤になってきた。
と、そこに一報が。
どうやら、ボーカル二人組。もう一度やり直したいと申し出たらしい。
おお、やる気が感じられるぞ。すばらしい。その勢いが仕事に生かされれば、なおよろしいぞ。
と言う訳で今度は一人ずつ録る事にする。
一度やっているので今回は技術的な事より、ノリ&勢い重視で行こう!
結局のところ「ノリ」なんだよね。
結果サウンド的にも満足なものが録れたのでニーヤ・富田も満足そうだ。
えっ?そう見えない?
弾けるから。それだけの理由で狩り出されたオッカーレ・松井。あなたにはキーボードも弾いて頂きましょう。
当初予定には無かったため、その場でテキトーに考えながら弾いてもらう事になった。
どちらにしても楽曲に合わせるのは初めてだ。ニーヤ・富田、ヒーゲ・田部と協議しながら組立を考えていく。
もちろん機材は当店の一押し!高回転率NO.1のエレピさんだ。アウトジャックをインターフェイスに直結してイザ録音。
出来上がってみればかなり良いではないか!ついでのつもりが今回の楽曲に無くてはならない存在になってしまった。
オッカーレ・松井曰く、エレピは3万円台からございます~!
さてある土曜の閉店後。スタッフ9人集まってのコーラス録りとなった。
曲の最後を飾る、大事なコーラスだ。残念ながら二名参加出来なかったが、これだけいれば大丈夫でしょう。
狭い売場の一角にマイクを二本立て、一方はメインパート用として四人が囲む。そしてもう一方には3人がハモリ隊としてスタンバイした。テンポ取り役のビーゲ・田部と録音主任のニーヤ・富田も後方から歌うことになる。
さて、リハーサル。
皆声が出てない・・・かなり遠慮しているようだ。照れるのも分かるがここは奮起してもらいたい。二度目のリハ。
暗い・・・元気無い・・・。
何度やってもあまり変らなそうなので、すぐ本番いっちゃいましょう。
そして本番一回目が終わる。
まあ、こんなもんかな、でも厚みがないね~。じゃ、もう一回。
う~ん・・・さっきの方が良かったか??
とその時
ニーヤ・富田「二つ重ねちゃおっか」
なるほど~そうすれば人数倍だ!
名案名案♪
ということで、一回目のコーラスに合わせて再度チャレンジ、そして重ねて聞いてみる。
「おっ厚くなった!これでイイかな?」
「OKじゃない」
教訓:少なくても、重ねて録れば大人数♪
第七章
最後はニーヤ・富田のソロ録りだ。
2Fのアンプコーナーでスタンバイする彼。
今回初めて Marshall がお目見えだ。
彼のパートは後半のコーラス部分にソロ?を絡ませるところだ。
ところがこのコーラスの裏にエレキを切り込ませるのが難しい・・・
いろいろ試してはみたが、うまくかみ合わないのだ。
翌日自宅で試すも結果は同じ。
しかたなく12弦のアコースティックでオカズを入れてみた。
歌のジャマをしないで弾くのがこれほど難しいとは・・・
普段はメタルバンドで活動しているので、バリバリソロが出来ないことがちょい残念。
ニーヤ・富田曰く、次はバリバリ弾かせて!
ところで、タンバリンは???
おお、そうだ!忘れてたよ。
そしてヒーゲ・田部による、生録りが開始された。
数小節をループで・・・なんてことはしません!
ぜ~んぶ叩いて頂きます。
終わった後、彼の左手は右手の1.2倍の厚みがあったらしい。
ご苦労さまでした。
さ~て終わった!
やっと終わった!バンザ~イ!!
えっ?編集?
そうだ、それがあった・・・
が、それ以前にアコースティック・バージョン録ってないじゃん。
どーしよ。
また一から撮り直すのも・・・時間的にも体力的にも辛い・・・。
正直に言おう、めんどくさ~い^^;
そうだ!一発取りにしよう!
そして当日。
当店3階に特設会場を設け、アコースティック・バージョンの録音が開始されようとしている。
6畳ほどのスペースに、ヒーゲ・田部、ラメーン・鹿子田、スイマーセン・井本、そしてオッカーレ・松井がスタンバイする。
床は一面ケーブルだらけ、その中心に陣取るニーヤ・富田とiBook G4 & Mixer。
この小さなスペースでアコギ二本とボーカル二人の音をバランスよく録るなんて技はありましぇん。
そして試行錯誤しながらいざリハーサルがスタート。
・・・ジャン♪
ニーヤ・富田「うわっ7分20秒・・・」
一同「なげ~よ~」
しかし一番困ったのは、誰か一人が鼻をススッても、確実にその音を確保する恐るべきコンデンサーマイクである。
「おーい、ジャンバーの擦れる音するから脱いで~」
「さみ~よ~」
「本番中に鼻なんかススるなよ!」
「あんまり歩き回るな!」
「おいそこ、息するな!」
そりゃ無理だ。
「さっ本番いこっ」
そしてテイクを重ねる我々・・・。
ヒーゲ・田部のMartin D-18 が静寂を打ち破り、
スイマーセン・井本の歌がホールにこだまする・・・
ラメーン・鹿子田のGibson SJ が荒波をたてれば、
オッカーレ・松井のシャウトがオーバーロード・・・
そんな感じで無事終了。
皆のかたずけが終わり、ニーヤ・富田とヒーゲ・田部が今録ったばかりの音を聞いてみる。
アイタタタ・・
やってしまいました・・・大失敗!
バランスが全くとれてませんっ!
ニーヤ・富田の忠告を聞かず、2トラックでまとめて録ったため各音源のバランス調整ができません(泣)
また録り直す時間も体力もないし~まあ、生ライヴという事で我慢しましょう。
遺憾にも海賊版のようなサウンドだが、良しとしちゃいました。
とにかくオツカレ、オツカレ。
最終章
我々は楽器販売のプロではあるが、CD制作(DTM)においてはハッキリ言ってシロウトである。
MTRでデモを作ったりすることはあってもパソコンで音楽を作ったことはない、それ以前にレコーディングすら経験のないスタッフも見受けられた。
今回はたまたま"ProTools LE"というプロの現場で使用されているDTMソフトの直系/下位バージョンを利用することが出来た。
さらに店内の機材も利用することが出来た訳だが、さて「録り方」となるとそのノウハウがある訳ではなく、過去に一度だけ作品をつくったことがある、ニーヤ・富田と共に自分たちで考え、トライ&エラーを繰り返しながら作業を行った。
各録音作業は店が閉店した後に行われ、結果的にスタッフの皆がプライベートな時間を提供してくれた訳だ、文句一つ言わずに。
サポートしてくれた彼らに感謝すると共に、この経験が今後の職場に置いて役立ってくれる事を願っている。
特に全ての録音に立ち会った、録音担当のニーヤ・富田、全スタッフをまとめてパートごと臨機応変に対応してくれたヒーゲ・田部。
この二人の努力無しにこの企画は実現しなかっただろう。彼らのタイムカードの退社時間に何度「0:00」と印字されていたか。
録音が終わっても30トラック以上ある、気の遠くなるような編集作業に関してはニーヤ・富田一人に任せるしかなかった。
地味で孤独で最も責任の重い作業に君は何度徹夜をしたことか。
今回のヒーゲ・田部はプロデューサーとして、良いモノを作りたい!その一心で同僚達に苦渋のダメだしをしなくてはならなかったこともあったろう。
本番中の演奏者をリラックスさせたり細かい配慮をしたりと、陰で気を使っていたのを知っています。
今回の体験で我々は技術的な面や精神的な面で多くを学びました。
スタッフ同士のいつもとは違う側面をお互い感じる事ができ、助け合う事ができました。
我々は時間を気にする事なく、展示中の数千点の楽器を好きなだけ試す事ができるなど、大変恵まれた環境が提供されていた事を忘れてはいけません。
これからもお客様に対する感謝の気持ちを忘れず、熱意や努力そしてチームワークをもって仕事に打ち込みましょう。
最後にこの企画をサポートしてくれた人々には、改めて感謝致します。
また、当店をご利用されている全てのお客様にもこの場をかりてお礼をしたいを思います。
ありがとうございました。
最後までご愛読ありがとうございました。実は今回の作業工程中にカメラ撮影だけでなく、ビデオによる動画撮影も行っておりました。市販のDVカメラ(SONY PC-9)で録った動画はApple社のiMovieで編集後、最終的にiDVDで焼いてスタッフ全員に配布しました。
皆の「思いで」として作成したものですが、スタッフ内で公開しても良いのでは、との声に後押しされ、お恥ずかしながらこの「メイキング」の一部を公開させて頂きます。
ところで一部とはいっても16分の動画となっており、ファイルサイズも大きくなってイマス。気合いでご覧くださいませ。