こんにちは、TC-TUNEの田中です。
久々の「リペアマンはどう生きるか」です。
今回のテーマは
『リペアマンはギター(ベース)が弾けないといけないのか?』
時々聞かれる質問があります。
「リペアマンって、別に楽器弾けなくても良いんじゃないの?」
たしかに、楽器の構造や仕組みを理解し、道具を使いこなせれば、ある程度までは仕事ができます。ただ、“良いリペアマン”を目指すなら——結論ははっきりしています。
「弾けないとダメです。」
理由は単純で、私たちが扱っているのは、演奏するための道具だからです。
- お客様は“演奏するために”楽器を持ち込む
リペアマンが対応する相手は、ギターやベースを「演奏する人」です。
つまり、私たちの仕事は「楽器を正しく鳴るように直す」だけではなく、「快適に演奏できる状態にする」ことでもあります。
実際、「弾きにくい」「音がなんか変」など、感覚的な悩みを持って来店される方は多く、内容も非常に多様です。
こういった悩みは、ある程度自分で演奏できる人でないと、実感を伴って理解することが難しくなります。逆に言えば、「弾いてみることでしか見えてこない改善のヒント」も数多くあります。
- 弾き方を知らないと、調整の正解がわからない
ギターやベースは、弾き方によって音が決まる楽器です。
押弦の力、ピッキングの方法——音に影響する要素は非常に多く、調整した結果を正確に判断するには、ある程度演奏者と同じ動きができる必要があります。
自分で音を出して確認できなければ、「どこが良くなったのか」「なぜうまくいかなかったのか」も判断がつかず、技術の蓄積や発展も難しくなります。
- プロ級の腕前は不要。必要なのは「弾き方を知っていること」
ここまで読むと、
「じゃあプロ級の腕前が必要なのか…」
と不安に思う方もいるかもしれません。
でも、安心してください。その必要は全くありません。
速弾きができなくても、アーティスティックなソロができなくてもいい。
大事なのは、「弾ける人と同じように音を出す方法を知っているかどうか」です。
演奏における基本的な動作を理解し、それを自分の手でも再現できる。それだけで、調整の質は大きく変わってきます。
- 「レオ・フェンダーは弾けなかった」論について
ときどき、「レオ・フェンダーはギターが弾けなかったのに、数々の名器を生み出した」という話が持ち出されることがあります。
たしかにレオ・フェンダーはギターが弾けなかったようですが、それは歴史的大天才の話です。
自分がレオ・フェンダー並の天才じゃないと自覚しているなら、せめて弾けるようになって、彼が作った楽器を正しく理解し、調整できるように努力すべきです。
また、Ken Smithのように「プロベーシストでありながら、素晴らしいベースを作る」例も存在しますが、そちらはあまり引用されません。
「弾けない人が名器を作った」という話だけを根拠にして、自分が弾く努力を避けるのは、やはり無理があります。
- 楽器を使う人の視点を持つこと
リペアマンに求められるのは、単に構造を知っていることだけではありません。演奏者の視点を持っているかどうかも重要なポイントです。
自分自身がある程度演奏できれば、お客様の悩みに共感しやすくなり、調整の方向性も明確になります。
演奏する努力を重ねることが、最終的にはリペアの質にもつながります。
- まとめ
ギターやベースを扱うリペアマンにとって、「弾ける」ことは大きなアドバンテージになります。
・演奏者の感覚に共感できる
・調整の結果を自分で判断できる
・技術を検証・発展させられる
プロのように弾く必要はありません。でも、演奏者と同じように音を出す手順を理解し、再現できること。それができるかどうかで、リペアの質と深みは確実に変わってきます。

