フルアコを代表するGibson ES-175。ジャズやブルースではお馴染みのモデルながら、実は懐の 深さから多彩な使い分けも出来るモデルとして、多くのプレイヤーを魅了し続けています。多くの フルアコがエレクトリック・モデル移行した時期に誕生し、現在まで生産され続けている超ロングセラーの名器ES-175。乾いた中にも太く艶やかなトーンの ”イチナナゴ ” の魅力に迫ってみましょう!!
<Gibson ES-175とは>
1949年に最上級モデルGibson L-5の廉価モデルとして登場。ちなみに名称の由来はE=Electric(電 気)、S=Spanish(横にして抱えるスパニッシュ・スタイル)、175=定価175ドル。1949年の発表以来 製造され続けるスーパーロングセラーモデル。
当初登場したのはP-90の1ピックアップ仕様のみ、後にダブルピックアップ仕様 ( ES-175D、ES-175DN )やハムバッカー搭載モデルが登場します。ボディーは16インチと比較的抱えやすいサイズ、ネックはGibsonではお馴染み24 3/4インチのミディアムスケールを採用。ちなみにボディー厚はフルデプスボディーと呼ばれるサイズの3 3/8インチです。
最大の特徴は、最上級モデルGibson L-5よりコストダウンした設計を実現する為、トップ材をプライウッド(多層)にしている点です。L-5は単板と言われる一枚板のトップ材を使用していますが、 ES-175はメイプル+ポプラ+メイプルの合板を使用しています。
この仕様によりトップ材の鳴りが制限され、ハウリング/フィードバックの軽減の効果が生まれ (この特性を活かし、歪ませて使用するプレイヤーも )、且つL-5の廉価版だけでは語れないオンリーワンのES-175サウンドを確立しました
「取り回しの良い16インチサイズ」、「プレイヤビリティーの高さ」、「ホーンの様に響く、太く艷やか、明瞭で甘いトーン」は多くの名手達を魅了。特にジャズ・ギタリスト達に支持をされた 事もあり、ジャズギターのスタンダードにもなっています。ただ同時に「素早い立ち上がり」、「速やかな減衰」、「豊かな低音成分」の特性も持っており、実はパワフルなカッティング・サウンドが得られたり、懐の深さも持ち合わせているES-175。ジャズだけでなく、ブルース、ソウル、ファンク、ロックと幅広いジャンルのギタリスト達に愛用されています。
アンプを通したサウンドも素晴らしいですが、生音の方もアコースティックギターとしての魅力を充分備えています。生鳴りの方は前でご案内の通り音量を抑えた仕様となっていますが、そのサウ ンドは軽やかで透明感のある美しいサウンドです。実はその素晴らしい生音を収録した名盤がございます。ソロギターの名手としても知られるジャズギタリスト” ジョー・パス ” 氏の作品「ヴァーチュオーゾ」。こちらの作品で素晴らしい演奏と共にサウンドを聞くことが出来ます。
アンプ使用時と生音の両方で楽しめる素晴らしいギターです! まだ触れたことの無い方は、是非一度手にして見て下さい。名手たちを魅了した素晴らしい世界を堪能出来ることでしょう!
上級モデルL-5と比較して みよう!
「2本の名器を比べてみましょう。比べてみる事で、それぞれの特徴がより分かります! ちなみに愛用者も比較してみようと並べてみましたが凄いです! (ジャズ系の方は両方使用している方も)
L-5 :
ウェス・モンゴメリー
スコッティー・ムーア
ハンク・ガーランド
エリック・クラプトン
メルヴィビン・スパークス
リー・リトナー
タック・アンドレス
ハワード・ロバーツ、
ジョン・メイヤー etc.
ES-175 :
スティーブ・ハウ
パット・メセニー
ウェス・モンゴメリー
ジョー・パス
ジム・ホール
ケニー・バレル
ハーブ・エリス、
ロニー・ジョーダン
スラッシュ
etc.
ES-175はギブソンの標準的なスケールの24 3/4インチ(ミディアムスケール)を採用。L-5ではフェンダー等でもお馴染みの25 1/2インチ(ロングスケール)を採用しています。ロング・スケールの方がハリがありますが、ミディアムの方が少し柔らかいニュアンスになります。
L-5ではよりアコースティックギターな仕様の単板ソリッド・スプルースを採用。逆にES-175ではエレクトリックギターな仕様の合板メイプル(メイプル/ポプラ/メイプル)を採用しています。これはコストダウンを図ると共にハウリング防止の意味合いもあります。
L-5ではメイプル材を主に使用したネックに対し、ES-175ではマホガニー材を使用しています。70年代はメイプル材を使用していた時期もありますが、基本的にはマホガニー材を使用。特徴としては、柔らかなサウンドになります。ES-175の特徴に大きな影響を与えています。
L-5では上級モデルらしく高級材エボニーを、ES-175ではローズウッドを使用しています。エボニー材は硬い木材となり、サウンドにアタックを与えてくれます。ローズウッドの方が材としては柔らかく、サウンドに柔らかいニュアンスをもたらします。
写真のカッタウェイ部分が、L-5では"なだらかな曲線”に対し、ES-175では鋭く尖っています。L-5は高級モデルという事もあり、継ぎ足しの無い1本のバインディングを使用。ES-175は鋭く尖らせるデザインにする事で、バインディングを継ぎ足す形にしてコストダウンを図っています。
L-5ではゴールドパーツを採用する事で、高級モデルらしいゴージャスな外観に仕上がっています。
ES-175ではニッケル/クロームパーツを採用。L-5に対して親しみやすい(庶民的な)外観になっています。古くなる程、渋みを増すところも魅力ではないでしょうか。
テールピース部でも、L-5ではゴールドの豪華なプレートを採用。ES-175の方はユニークなデザインを施しつつ最低限のシンプルなテールピースを採用しています。
L-5の方が高級モデルらしく7層のセルバインディングを採用。ES-175の方はシンプルな3層のセルバインディングを採用しています。
バインディングの層が多いだけでも、大分印象が変わりますね。7層のセルバインディングは、同じく高級モデルのLes Paul Customでも見ることが出来ます。
<ちょっとブレイク>
1949年の発表より、ずっと製作され続けている超ロングセラーモデルES-175。その中には生産 数の少ない”レア”モデルが存在します。
例えばナチュラルのES-175N (ES-175DN) / 通称 “ ブロンド ”。1950年を例にとるとサンバーストが生産503本に対し、ナチュラルが30本など、比率は年度によって異なりますが、サンバース トに比べてはるかに生産数の少ない事でも知られています。特にヴィンテージに関しては希少なこ と、またパット・メセニーが愛用していた影響もあり、非常に注目度の高い逸品として扱われてい ます。
ES-175中でも、一際希少なモデルとされているのがES-175CCです。ES-175CCは1978年~1979年にかけての極僅かな期間のみ生産。現在では非常に入手困難な逸品として、コレクターを始め注目されているモデルです。
ちなみにCCとはCharlie Christian Pickup (チャーリークリスチャン ピックアップ)の略 。ご存知の方も多いと思いますが、チャーリー・クリスチャンは1930年代後半~40年代初頭にかけて、極僅かな活動期間にも関わらず、非常に大きなインパクトを残したジャズギタリスト。1990年には、その功績を認められロックの殿堂入りをした事も話題になりました。当時ギターはまだ脇役の時代。音の小さな伴奏楽器とされていたギターを、華やかなソロ楽器へと昇華した演奏家で同時代のジャンゴ・ラインハルトと共に、後のギタースタイルに大きな影響を与えました。天才的なシングルトーンのフレージングは多くのギタリストがリスペクトしています。
ES-175CCに話を戻しますと、搭載のピックアップ Charlie Christian Pickupは、チャーリーが愛用していたGibson ES-150にインストールされていたピックアップです。( ちなみにES-150は ギブソン初のエレキギターとも言われ、1936年に発表されたアーチトップ・フルアコースティックギターの事です。) バータイプのポールピースで視覚的にも非常に特徴的なピックアップで、印象的には音ヌケが非常に良いクリアーなサウンド。且つレスポンスの良さと元気の良いサウンドも印象的です。
ES-175CCの特徴としてピックアップの他にも、この時期にギブソンで採用されていたメイプル3ピースのネックも上げられます。所謂マホガニーネックのES-175とも異なる芯の強いサウンドが特徴で、チャーリー・クリスチャン・ピックアップと共にこのモデルに唯一無二の個性を与えています。生産本数も500本に満たない僅かな本数だった為、現在では超がつくほどの希少なレアモデルになっています。
こうしてヘッド裏をよくみると、ネックが3ピースなのが分かりますね。ちなみにペグも余り見ない形状だと思いますが、こちらはインペリアルペグ(GroverImperial Tuners)というペグです。洒落てますね!
この他の希少なモデルとして、ES-175のシンボディーバージョンES-175T / ES-175TNもございます。ロングセラーモデルとして君臨しつつ、各時代によって珍しいバージョンのモデルも生み出しています。
ES-175の歴史
・1949年 ES-175が発表される。
トップ材にエレクトリック専用のプライウッド( Maple / Popler/ Maple )を使用 ( 生鳴りを抑え ハウリング軽減、コストダウンなどの目的にて )。ネックは24 3/4インチ、ボディーは16” 1/4イ ンチサイズ。ボディー厚はフルデプスと呼ばれる3 3/8インチサイズ。当時はP-90の1ピックアッ プ仕様。カラーはサンバースト(ES-175)とナチュラル(ES-175N)。
*Nはナチュラルの略。
・1953年 2ピックアップ仕様のES-175D、ES-175DNもランナップに加わる。
*Dはダブルの略 ( 現代では2PU搭載が通常仕様なのでDが省略されています )。
・1957年 ギブソンのハムバッキング・ピックアップ ( PAF )の登場に伴い、「ハムバッカー仕様」 と「P-90仕様」の2タイプとなる。
テイルピースが「ベイルテールピース」→「ジグザグテールピー ス」へ変更される(一部旧タイプのままの個体も)。
・1957年~(1962年頃まで)使用されているピックアップPAFには、特許出願中/Patent Applied Forのデカールが貼られる(オリジナルPAF/PU-490)
*1956年~1957年はデカール無し。
・1959年 ES-175N (1ピックアップ仕様)が生産されず、翌年1960年にわずか5本のみ生産され、その後生産をされなくなる。
*ナチュラル仕様は極端に生産数が少なく、現在では非常に希 少なモデルとなっています。
・1960年代に入るとネックシェイプの変更がされ、よりプレイヤビリティーを重視した薄く/狭 いタイプへ。
また1ピックアップ仕様よりも、2ピックアップモデルの方が中心になっていく。
・1962年~(1965年頃まで) 使用されているピックアップ PAFは、デカールシールにパテントNo. が入る様になる (ステッカー・ナンバードPAF / PU-490)。
・1965年頃~ヘッドの角度が17度~14度へ順次変わっていきます。
・1965年~(1975年頃まで) 使用されているピックアップ PAFは、パテントNo.に加えボビン上 部にTのエンボス加工が入る (ステッカー・ナンバードPAF "Tバッカー" / PU-490)。
・1966年頃~ 指板材が従来のブラジリアンローズウッド(ハカランダ) → インディアンローズウッ ドへ。
・1969年初頭~(1975年頃まで) ネック材が従来のマホガニー1ピース→ボリュート(補強)付きの3ピースへ。
・1970年代に入ると生産拠点がカラマズーファクトリーから、ナッシュビルファクトリーへ徐々に移転。
*アーチトップを生産していたカラマズーファクトリーは徐々に整理されて1984年に閉鎖。
・1970年代に入りヘッドが大きなデザインになる。
またヘッドの付き板部分も従来の木製(柊)からプラスチック製(フェノール樹脂/ベークライト)に変更される。ヘッド裏に "MADE IN USA”と刻印される。
・1970年~(1983年頃まで)ヘッドロゴ 従来はGibsonスペルのbとoの文字に隙間(完全な丸では ない)があるが、隙間のないロゴになる。また文字もやや角ばったデザインに。
・1975年~(1981年頃まで) 使用されているピックアップPAFは、従来のステッカード・ナンバー ドから、パテントNoが直接刻印される (刻印ナンバードPAF/ PU-490へ)。
・1976年 ボディーの薄い新ボディータイプが登場 ( ES-175T、ES-175TN )。
*Tはシンボディーの略。
・1976年~(1982年頃まで)ネック材がマホガニー3ピース→メイプル3ピースへ。
・1979年 チャーリー・クリスチャン・ピックアップ搭載モデル ES-175CC登場。
・1981年~(1984年ごろまで) 使用されているピックアップPAFは、従来の刻印ナンバードから オリジナルPAFを復刻したNEW PAFへ(通称ティム・ショーPAF / PU-490)。
・1982年頃~ ネック材が再び マホガニー3ピース / 1ピースへ。
・1983年~(1990年頃まで) バックとサイドにマホガニー材を使用する。
・1999年 親会社の変更により、エレクトリックアーチトップ専門 メンフィスカスタムショップ が設立される。
愛用アーティスト
スティーヴ・ハウ(ex イエス、エイジア他 )
プログレッシブ・ロック・バンドを代表する「イエス」や「エイジア」で活躍するロック界のレジェンド。ロックのみならず、多彩なジャンルから演奏技法などを取り入れ、独創的なサウンドを 確立。またGibson ES-175Dの愛用者としても知られています。若かりし頃にカタログで何度も眺め、デザインのカッコよさや、ウェス・モンゴメリーやジョー・パスが到達したサウンドにも憧れたそうです。ES-175Dの魅力は、多彩なサウンドが得られる事、そして特にフロントピックアップのサウンドが他のギターでは得られないトーンが得られる所が気に入っているそうです。*ちなみに弦はラウンド・ワウンドを使用。ES-175の特性を活かしつつ、可能性を広げた一人ではない でしょうか。
パット・メセニー (ex パットメセニーグループ他 )
ジャズギタリストという枠越え、クリエイティブに音楽を創造し続ける現代の巨匠の一人。若かりし頃より、長らくES-175DNを愛用していた事でも知られています。愛用のES-175DNは、元々 はノーマルの仕様でしたが、途中からリアピックアップや、それに伴うアッセンブリーを取り除い て使用 ( リアピックアップの穴を黒いテープで覆っていたES-175を覚えている方も多いのでは )。 現在ではアイバニーズのシグネイチャーモデルを愛用していますが、ES-175DN時代は一際甘く美 しいトーンが印象的でした。古い因習に囚われず新しい機材にも貪欲で、ES-175DNと共に非常 にクリエイティブなサウンドを表現。ES-175の可能性を広げた一人ではないでしょうか。
ウェス・モンゴメリー
ジャズ・ジャイアンツ「ウェス・モンゴメリー」。圧倒的な演奏力でジャズギターの1つのスタイ ルを確立。ビックサウンドを豪快に指弾きで鳴らすスタイルは、多くのプレイヤーに影響を与えました。ウェスと言えば、Gibson L-5を愛用していた事でも知られていますが、その他の愛用した ギターの中にはES-175(P-90搭載モデル)もありました。ES-175を抱えたジャケットが印象的な アルバム「インクレディブル・ジャズギター」等で使用したと言われています。ES-175の素晴らしいサウンドを引き出した一人ではないでしょうか。
ジョー・パス
ソロギターの名手として名高いジャズ・ジャイアンツ「ジョー・パス」。もちろんアンサンブルで も素晴らしい名演の数々を聞くことが出来ますが、卓越したボイシングはやはりソロギターで聞 くとより聞きごたえがあります。先にご案内していますが、ソロギターの名盤「ヴァーチュオー ゾ」では、ES-175をアコースティックギターとして使用しています(ギターにマイキングをする形 にて)。アンプリファイアーされたサウンドとは別のアコギとしての美しいサウンドを耳にする事が出来ます。もちろん演奏も異次元のプレイを聞かせてくれます。ES-175の素晴らしいサウンド を引き出した名プレイヤーの一人ではないでしょうか。
この他にもジム・ホール、ケニー・バレル、ハーブ・エリスなど、ジャズギターの巨匠達はもとよ り、モダンなジャズ・ギタリスト達 ( ロニー・ジョーダンetc ) も愛用。ロックギタリストでもスラッシュなどもレコーディングで使用したりと、実に多くのギタリストがES-175の魅力に惹かれ 使用しています。