マーティン・ウクレレの魅力とモデル比較 - TC楽器 - TCGAKKI



 エレキ・ギター・シーンでは「Fender」「Gibson」、アコースティック・ギター・シーンでは「Martin」「Gibson」、どのジャンルにも一般的に認知される2大巨頭というものが存在する。それではウクレレの世界ではどうだろう。ウクレレをよく知る者にとっては「Martin」「Kamaka」が定説となっているようだが、若い世代のファンにはどう認識されているのか。"ウクレレの神様"ハーブ・オオタさんが'20年代のMartin Style-3を愛用しているにも拘わらず、実際のところMartinプレイヤーはあまり存在しないのも事実。あまりにもアコースティック・ギター・ブランドとしての印象が強すぎるのか、あるいは高価なイメージが強いのか、現代に於けるMartinウクレレの認知度はやや低いものになってしまっているように思える。"ハワイのジミヘン"こと天才ウクレレ奏者ジェイク・シマブクロさんが注目を集め、ウクレレ・ブーム再来の兆しを見せる今だからこそ、Martinウクレレの紆余曲折を経た歴史を紐解くと同時に、その真価を確認して頂きたい。

 ドイツから渡米したC.F. Martin(クリスチャン・フレドリック・マーティン・シニア)により1933年に創設された『The Martin Guitar Company』。当初はニューヨーク郊外の小さな工房からのスタートで、マーティン・シニアは現代に受け継がれる内部構造"Xブレイシング"など、自由な国アメリカで斬新なアイディアを取り入れたギターを次々に製作。その成果は1888年に後継する三代目F.H. Martin(フランク・ヘンリー・マーティン)のヴァイタリティ溢れた経営能力によって開花する。当時アメリカに増加したイタリア移民の需要を見据えたマンドリン製作による大ヒットも手伝って、『The Martin Guitar Company』は大きく躍進。ウクレレの製作に着手し始めたのも、この時代のこと。

 時は20世紀初頭の1920年頃、アメリカに空前のウクレレ・ブームが到来。ボストンの出版社『Oliver Ditson』の依頼を受けて、1907年12月10日にMartinウクレレ第一号(プロト)は製作されたと記録されている。しかしながら、当初の試作品の評判は芳しくなく、スプルース・トップに強固なブレイシングが重厚なギターっぽさを醸し出し、軽快で弾むようなウクレレの音色のイメージにそぐわなかったようだ。その後、試行錯誤を繰り返すうちに現在のMartinウクレレの原型が完成。トップにはスプルースの代わりにマホガニーを採用、ブレイシングの数も少なくし、ボディ材をギターに比べ遙かに薄くした完成型が、1916年に市場に登場する。ウクレレ・ブームの追い風に乗ってMartinウクレレは大成功し、需要に応えるため工場を2倍に広げ従業員も増員。1920年にはハワイアン・コア製のウクレレにも着手、ハワイ製ウクレレを彷彿とさせる明るく軽快なサウンドがより多くのプレイヤーに受け入れられていく。

 最盛期の1926年には最多の14,000台を生産したというMartinウクレレだが、ブームの翳りや第二次世界大戦による経済不安定期も災いして低迷を迎える。'42年にはハワイアン・コア仕様が生産終了となり、'60年代半ばまで積極的に生産されていたマホガニー仕様も需要の激減とともに'78年に生産終了。ヘンリー・マーティンの息子であるC.F. Martin III(クリスチャン・フレドリック・マーティン三世)が後継者となり、戦後のフォーク・ミュージック・ブームに乗ってMartinアコースティック・ギターの人気が高まる一方、Martinウクレレは衰退への道を辿ることになる。

 1990年代に入り、カスタム・オーダーという形でStyle-0、Style-3、Style-1C、Style-1Tを生産し始めるものの、本格的に再稼働するのは2000年代に入ってから。"ハワイのジミヘン"こと天才ウクレレ奏者ジェイク・シマブクロさんが注目を集め、ウクレレ・ブーム再来の兆しを見せる。彼の登場により、高度なプレイにも適した高品質なウクレレが注目を集め、Martinウクレレの再評価への流れが整う。現Martin社CEOのクリス・マーティンによって2006年に伝説の名機Style-5Kが復刻。それはMartinウクレレの実力を改めて知らしめるには充分な完成度と圧倒的な存在感を誇った。その後、Style-3やStyle-2、ハワイアン・コア仕様のコンサート・モデルなども再生産、ウクレレのゴールデン・エラ復権に懸けて動き始めている。

ソプラノ・モデルの相違点

 Martinウクレレのソプラノ・モデルは5つのスタイルに分類される。Style-0、Style-1、Style-2、Style-3、そしてStyle-5。Style-4は何故か存在しない。サイズは全長/533mm、ボディ長/240mm、ボディ幅/162mm、スケール/345mm。Style-0~2のマホガニー・モデルの基本スペックはトップ/マホガニー単板、S&B/マホガニー単板、ネック/マホガニー、フィンガーボード/ローズウッド、フレット数/12フレット、ロゼッタ/2層で、Style-1K、2K、3K、5Kはボディ材がオール・ハワイアン・コア単板。Style-3と5はフィンガーボードがエボニー仕様。

Style-0~2までの大きな相違点はボディ・バインディング。Style-0にはバインディングは無く、Style-1にはローズウッド・バインディング(1938年以降は暗色プラスティックに変更)、Style-2にはトップとバック両方にアイヴォリー・バインディングが施されている。

 1918年にリリースされたStyle-3の特徴は、5層ロゼッタ、7層トップ・バインディング、3層バック・バインディング、フィンガーボード・センター・ライン、ダイヤモンド・ペア・インレイ('40年代以降はドットに変更)、トップ下部のセルロイド・オーナメント('40年代には無くなる)、17フレット。そして、1922年に発売されたハイ・エンド・モデルStyle-5Kには光沢美しいアバロンによるインレイをヘッドストック(フラワーポット)やボディ・バインディング、ロゼッタ、フィンガーボード(スノー・フレーク)に装飾。最高級ハワイアン・コアの美しい杢目とあいまった豪華絢爛なルックスが最大の魅力となっている。1941年~'42年の一年間のみマホガニー仕様のStyle-5が生産されたらしいが、市場には全く出回っていない幻のモデルとなっている。

 

スペックの変遷

 大まかに年式を推定するのにも役立つ、幾つかの仕様変更をご紹介しよう。まずはヘッド・ロゴ。1916年~'33年までは"C.F. Martin & Co., Nazareth, PA"の刻印をヘッドの裏側に刻印。'33年以降はヘッド表面のデカール(シール)になる。切り替わり時期には希に刻印とデカールがなされているものも存在する。また、ボディ内部の"C.F. Martin & Co., Nazareth, PA"の刻印に"Made in USA"が追加されるのが1962年以降。

 フレットに関しては1934年までがバー・フレットで、それ以降にはTフレットに。最後はペグ。Style-0と1は1927年から、Style-2と3は1923年から、発売当初からの基本装備の木製フリクション・ペグからロトマティック・タイプにそれぞれ変更となった。

Martin Style-5K

1922年から1940年にかけて965台生産された記録が残っているものの、既に世界中に200本は存在せず、しかも実際に弾くことが出来るのは100本くらいと言われている幻の名機Style-5K。豪華なアバロン・インレイを配したウクレレ・シーンの最高峰と呼ぶに相応しい逸品。

  • ボディ/ハワイアン・コア・ウッド
    (トップ&バック/アイヴォロイド&アバロン・バインディング)
  • ネック/マホガニー
  • フィンガーボード/エボニー
    (スノーフレイクス&ダイアモンド&キャッツアイ・インレイ、17F、アイヴォロイド・バインディング)
  • サウンドホール/パール・アバロン&ブラック&ホワイト・ウッド
  • ヘッドストック/ハワイアン・コア・ウッド・トップ(フラワーポット・インレイ)、マホガニー・バック
  • チューナー/アイヴォロイド・パテント

1922年:生産開始
1923年:カタログ上に掲載開始
1925年:アバロンがサイドにもインレイされる
1927年:アバロンがサイドから外される
1940年:生産終了
1941年:Style-5マホガニー・モデル生産開始
1942年:Style-5マホガニー・モデル生産終了

 


Martin Style-3

Martinウクレレのハイエンド・ラインナップとして1918年にリリースされたStyle-3。フィンガーボード・センターの3本線インレイやトップ・ロウアー・エッジのセルロイド・オーナメント、フィンガーボードのダイヤモンド・ペア・インレイが個性と存在感を醸す名品。

  • ボディ/マホガニー or ハワイアン・コア
  • ネック/マホガニー or ハワイアン・コア
  • フィンガーボード/エボニー(ダイヤ形ペア・インレイ、17F)
  • サウンドホール/ホワイト・セルロイド&アイボリー・メイプル(5層)

1918年:生産開始(初期モデルのみ指板中央に3本線インレイ入り)
1920年:Style-3ハワイアン・コア生産開始
1923年:パテント・ペグに変更、ヘッドストックのオーナメントが外される
1938年:Style-3ハワイアン・コア生産終了
1977年:生産終了

 


Martin Style-2

トップとバックに施されたアイヴォリー・ホワイト・バインディングが個性を醸すStyle-2。

  • ボディ/マホガニー or ハワイアン・コア
  • ネック/マホガニー or ハワイアン・コア
  • フィンガーボード/ローズウッド(スモール・ドット・インレイ、12F)
  • バインディング/アイヴォリー・セルロイド

1916年:生産開始
1916-1922年:木製フリクション・ペグ
1920年:Style-2ハワイアン・コア生産開始
1923年以降:パテント・ペグ
1933年:Style-2ハワイアン・コア生産終了
1965年:生産終了

 


Martin Style-1

ローズウッド・バインディング(1938年以降は暗色プラスティックに変更)が特徴のStyle-1。

  • ボディ/マホガニー or ハワイアン・コア
  • ネック/マホガニー or ハワイアン・コア
  • フィンガーボード/ローズウッド(スモール・ドット・インレイ、12F)
  • バインディング/ローズウッド

1916年:生産開始
1916-1926年:フリクション・ペグ
1920年:Style-1ハワイアン・コア生産開始
1918-1937年:ローズウッド・バインディング
1927年以降:パテント・ペグ
1942年:Style-1ハワイアン・コア生産終了
1965年:生産終了

 


Martin Style-0

1916年のリリースから1977年まで長い期間生産されたMartinウクレレの永遠のスタンダード・モデルStyle-0。

  • ボディ/マホガニー
  • ネック/マホガニー
  • フィンガーボード/ハカランダ
  • ブリッジ/エボニー
  • フレット/12(12フレット・ジョイント)

1916年:生産開始
1916年~1923年:マホガニー製ナット
1924年以降:エボニー製ナット
1922年~1926年:木製フリクション・ペグ
1927年以降:パテント・ペグ
1977年:最終生産

 


Others

ソプラノ・サイズ以外に1-C(Concert)、1-T(Tenor)、Style-51(Baritone)、Taropatch(8弦仕様)、Tiple(10弦仕様)なども生産されている。

Tiple,Soprano,Concert,Tenor,Baritone (L.to.R)

★ 1-C (Concert)
Style-1と同様の装飾と仕上げで、ソプラノに比べて一回り大きいサイズ。ソプラノのスケールが346mmなのに対してコンサートもスケールは375mm。

  • ボディ/マホガニー
  • ネック/マホガニー
  • フィンガーボード/ローズウッド(スモール・ドット・インレイ、12F)
  • バインディング/ローズウッド~暗色プラスティック
  • パテント・ペグ

1925年:生産開始
1925-1937年:ローズウッド・バインディング
1938年:暗色プラスティック・バインディング
1966年:生産終了

★ 1-T (Tenor)
スケール432mm仕様のソロ・プレイヤー向き。通常のウクレレ弦でソプラノ同様のチューニングだが、ガット弦を使用してギターと同じ5度低いチューニングにも対応。

  • ボディ/マホガニー
  • ネック/マホガニー
  • フィンガーボード/ローズウッド(スモール・ドット・インレイ、18F)
  • バインディング/ローズウッド~暗色プラスティック
  • パテント・ペグ

1928年:生産開始
1928-1937年:ローズウッド・バインディング
1938年:暗色プラスティック・バインディング
1977年:生産終了

★ Style-51 (Baritone)
ソロ弾きの方はもちろん、最近では弾き語りのプレイヤーにも人気があるBaritone。ギターの高音側4弦と同様にD-G-B-Eにチューニングされることが多い。

  • ボディ/マホガニー
  • ネック/マホガニー
  • フィンガーボード/ローズウッド(スモール・ドット・インレイ、21F)
  • バインディング/暗色プラスティック
  • チューナー/パテント・ペグ

1960年:生産開始
1977年:生産終了

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