唯一無二のオリジナルモデルとして地位を確立した

YAMAHA SG限定モデル

- TCGAKKI -


今回、奇跡的にYAMAHA SGの限定モデルが数本同時に入荷しました
現在希少性が上がり見かける事も少なくなっているYAMAHA SGを一気に見れる機会もこれが最後だと思うと同時に、
以前より興味のあったSGを掘り下げてみる良いきっかけかと思い、このコラムを作成いたしました

YAMAHAギターの歴史


まず、YAMAHAはオリジナルエレキギターを制作する上で、当時の社長であった川上源一氏より「全てにおいてオリジナルであるべし」と伝えられます。

それもありYAMAHA SGはオリジナリティーの高い唯一無二のモデルとして進化を続けていきます。YAMAHAのギターの歴史は1946年にクラシックギターの製造まで遡ります。それから15年後の1961年にダイナミックギターの制作を開始します。(ダイナミックギターはクラシックギターにスティール弦を張れるようにしたモデル)ダイナミックギターはギタリストであり作曲家の伊藤翁介氏が特許を取得した表面振動板の共振理論を取り入れて作られており、1952年には試作が出来上がっていましたが、量産体制に入ったのは1961年でした。5年後の1966年にアコースティックギターのFGを販売開始。1960年代後半のフォークブームも重なり、FGは当時から多くのニーズに使われていました。

それより1年前の1965年にYAMAHAはエレキギター開発チームを設立。1965年といえばベンチャーズがフルメンバーでの初来日を果たし日本にエレキ・ブームが訪れた年でもあります。それまでに制作していたクラシックギターやダイナミックギターなどの開発技術を使い、チーム設立のわずか1年後の19664月にYAMAHAは初のエレキギター(S-201/S-302)を世に放ちます。

ブルー・ジーンズ・カスタム


1965年12月に公開された「エレキの若大将」にて登場した「ブルー・ジーンズ・カスタム」モデルでYAMAHAのエレキギターは世間に大きく知れ渡ります。ちなみにブルー・ジーンズ・カスタムは通常のYAMAHAエレキ制作チームとは別の専門チームによって作られ、ギターの完成と共に解散されました。その後、絶えず人気のあったブルー・ジーンズ・カスタムは1966年8月にブルー・ジーンズ・カスタムを市販化したSG-5/SG-7が発売されます。

1970年代に入るとレッド・ツェッペリンの初来日などもあり、日本におけるエレキギターの需要が高まります。この頃はGrecoなどからもLes Paulコピーモデルが販売され、オリジナリティーというよりも本格的な”本物”のエレキギターを望むニーズが増えてきました。

そこでYAMAHAはSGのフルモデルチェンジを決心します。そうして1972年4月にSG-40/SG-60/SG-80を発売します。SG-80らはレスポールのようなシングルカットのボディシェイプにジャーマン・カーブのような縁取りが施されています。
この頃のSGはボディシェイプから「ダルマ」の愛称で呼ばれています。1972年のレッド・ツェッペリン来日以降、国産のエレキギターブランドはコピーモデルに注力していきます。

カルロス・サンタナ


そんな中でもYAMAHAはオリジナリティーを突き詰めていき、1973年11月にSG-30/SG-35を発売します。
これらのボディは左右対称のダブルカッタウェイシェイプとなっており、現在のSGのボディシェイプに通ずるものがあります。それから約一年後の1974年11月に現在のSGの原点とも呼ばれるモデルSG-175が発売されます。SG-175のアーチトップボディやシェイプはもちろん、アローポジションマークなどSGを象徴とする仕様が沢山使われています。SG-175はユーザーが求めるものとしては完成形となっていました。ですが、YAMAHAはそこで歩みを止めず更なる高みを目指し突き進みます。その第一歩はカルロス・サンタナにSG-175を持ち込み意見を聞く事でした。

そこでサンタナより「SGは軽いのでサスティンを稼ぐ事が出来ない。もっと堅牢なもので無くてはならない」と意見をもらいます。その後もサンタナの意見を真摯に聞き続けたYAMAHAはサンタナからオーダーを貰います。そして制作されたのがブッダSGです。ブッダSGはSG-175を基に細かな仕様変更が行われ、ボディトップに大きく仏陀のインレイが施されています。ブッダSGの試作機が数本ありましたが、最終的な仕様として、Tクロス・ワンピースネック/ブリッジ下にサスティン・プレートを搭載/ピックアップにOPG-1を搭載します。上記は後に販売されるSG-2000にも採用される仕様となっており、YAMAHA SGの歴史の中でカルロス・サンタナの貢献度が分かります。

SG-2000


サンタナがブッダSGをライブなどで使う事によって海外から「あのギターはなんだ?!」と話題になり、YAMAHAにも「サンタナと同じギターが欲しい」という要望が非常に多く寄せられます。その要望に応え販売されたのがSG-2000です。

SG-2000が発売されたのは19767月、SGの販売開始した1966年より約10年の歳月を経てSGはついに完成します。SG-2000はブッダSGの仕様を色濃く持ち、ユーザーの要望にも応えられる出来栄えでした。
SG-2000の販売開始してから半年後、SG-500/SG-700/SG-1000が発売されます。この3機種はセットネック構造を採用しており、SG-2000との差別化が図られます。その中でもSG-1000は新たにバイ・サウンドとダイレクト・サーキットが搭載され、YAMAHA SGの代表モデルとしてSG-2000と肩を並べます。

SG-3000


1980年代に入りハードロック/ヘビィメタルが本格的に流行り始め、アンプ/エフェクターの多様化が増えると同時にSGはハウリングという大きな問題に直面します。
それまでも時代の変化、ニーズの変化に適応して来たYAMAHAは試行錯誤を行い、1982年9月にSG-3000を発売します。SG-3000はSGシリーズの中でもフラッグシップモデルとして登場。ニューアローポジションマークやアバロンを贅沢に使った外周バインディングなどまさに上位機種に相応しい見た目をしています。

もちろんサウンド面でのアプローチも行っており、YAMAHAが新たに開発したスピネックスマグネットと洋白のベースプレートを使ったPUを搭載。PUカバーをいままでのオープンでは無くフルカバードにし、パラフィン処理を行う事でハウリングを起こしづらくする工夫もされています。
その後も様々なバリエーションが発売されていくYAMAHA SGは、間違いなく日本のエレキギター史を語る上で外す事の出来ないシリーズとなります。


主要なモデルの発売時期

1966年4月

SG-2

19664 S-201/S-302 (発売1ヶ月後にSG-2SG-3にモデル名変更) 発売

1966年8月

SG-5

19668月に「ブルー・ジーンズ・カスタム」モデルを市販用に転用したSG-5/SG-7を発売

1972年

SG-45

1972 SG-40/SG-60/SG-80

1973年

SG-35

1973年 フルモデルチェンジが行われ、SG30/SG35が発売

1974年

SG-175

197411月に現代のYAMAHA SGの完成型ともいえるSG-175が販売

1976年

SG-2000

1976 SG700/SG1000/SG2000 発売

 

今回はYAMAHA SGの中でも特に魅力のある限定販売が行われたモデルを紹介していきます

 

SG1000 Metallic Blue

SG1000 Metalic Blueは1982年の11月と12月と1983年9月に460本限定で生産されたカラーです。
Metalic BlueはSG1000の中で初めて出た限定カラーとなっており、発売当時は高中正義氏のファンを興奮させたそうです。

SG1000はSG2000と同年の1976年に発売を開始。SG2000がT・クロス・ワンピースネック構造(いわゆるスルーネック)を採用していたのに対し、SG1000はセットネック構造を採用。パーツの大部分はSG2000と同じ物を使っていますが、サスティーン・プレートは搭載せず、ウッドマテリアルはメイプル2Pトップにマホガニーバックというシンプルな構造になっています。

SG1000はダイレクト・サーキットとバイ・サウンドを搭載。ダイレクト・サーキットはVolumeとToneをフル10にした際に、音の信号をアースと完全に独立させる機能です。これにより高音域の成分がアースに落ちてしまう事が無くなり、ブライトなサウンドを得る事が出来ます。バイ・サウンドはToneポットがPush/Pushとなっておりコイルタップを行う事が出来るよう仕様。いずれもSG1000から新たに採用されました。

セットネックでありながらもボルトでも固定する方式が使われていますが、これは1983年中期以降に見られなくなります。

YAMAHA SGの系譜を継ぎながらも、SG2000とはしっかりとした差別化を図り「セットネックのSG」を確立したモデルがSG1000です。

サウンドインプレッション

セットネック構造、PUにはアルニコVAWG#42という組み合わせからクラシカルなトーンに近くいですが、この時代の他の国産メーカーと似た中音域の出方を感じる事だ出来ます。

SG特有のタイトさと相まって歪ませた際の粘りと歯切れの良さのバランスが気持ちいいです。パワーは比較的高めなのでバイ・サウンドに切り替えた際もパワーが顕著に落ちたなと感じる事も無く、しっかりと使えます。

[SPEC]

BODY:Maple Top/Mahogany Back

NECK:Maple/Mahogany 3P


FINGERBOARD:Ebony

PICKUP:OPG-I


SG2000 Deep Purple

SG2000 Deep Purpleは1981年の7月と8月の2ヶ月間で600本限定で生産されたカラーです。
1980年にSG2000発売4周年記念で、SGでは初となる限定モデルのBlackカラーとBlueカラーのを販売しているので、Deep PurpleはSG2000の中では3番目の限定モデルになります。カラー以外の仕様は他のSG2000と変わらないです。

SG2000は1976年に発売が開始されます。
SG2000の誕生にはカルロス・サンタナが大きく関わっており当時SG175を使用していたサンタナはYAMAHAにカスタム・オーダーを依頼します。
そして出来上がったのが「ブッダSG」でした。
SG2000はブッダSGで採用した要素を多く組み込んでおり、「プロに通用するエレクトリックギター」というコンセプトで開発が行われました。
それまでのSGには無い要素を非常に沢山持っています。
代表的な仕様として、[T・クロス・ワンピースネック構造]を採用しています。これはスルーネック構造でありながらもボディトップ面に別の木を貼り合わせるという、正面からだとスルーネックに見えないようになっている。T・クロス・ワンピースネック構造にする事でネックヒールの段差が無くなり、ハイフレットへのアプローチがしやすくなっていると同時にロングサスティーンを目的とされています。

ブリッジ下にサスティーン・プレートという金属のプレートが付けられています。これは弦の振動伝達を可能な限りループさせる事によってサスティーンが伸びると考え、開発されたパーツです。

上記のようなSG2000ならではの特徴は「ブッダ・SG」に既に取り入れられていた仕様であり、如何にSG2000がプロに通用するモデルを目指していたかが分かります。

サウンドインプレッション

サスティンプレートが付いている為、SG1000に比べて金属感のあるタイトなサウンドになるかと予想していましたが、SG2000の方が全体域のバランスが綺麗に出ており更にクラシカルなサウンドとなっています。木材がしっかり振動してくれているのを出音から感じる事が出来、若干のコンプ感があるので、歪みは勿論、クリーントーンでも味わいを感じる事が出来ます。

私自身、2014年5月号のギターマガジンの表紙でRed Hot Chili PeppersのJohn FruscianteがこのSG2000 Deep Purpleを持っており、それがYAMAHA SGを知るきっかけとなりました。そのため、初めてDPを見た時はとてつもなくテンションが上がったのを今でも覚えています。

[SPEC]
BODY:Maple Top/Mahogany Back
NECK:Mahogany
FINGERBOARD:Ebony
PICKUP:OPG-I


SG1000XY

基になっているモデルはSG1000X

SG1000X1984年に発売され、SG1000の中で初めてトレモロユニットを搭載したモデルとなっており、ネックヒールも通常のSG1000とは異なり段差の無いヒールレスとなっています。

VOW WOWの山本恭司氏がカスタム・オーダーしたSG3000をモチーフに作られ、1985年に150本限定で販売。SG2000の初のアーティストモデルは高中正義のSG2000MTでしたが、YAMAHAが公式にアーティストの名前を付けて販売したのはこちらのSG1000XYとうじきつよし氏モデルのSG1000XUが初めてです。

トレモロユニットは1983年に開発された2点支持のロック式ユニットを搭載。ヘッド側にもナットの上に付けられるロック機構が付けられています。山本恭司氏のSG3000はナット自体がロック式になっている為、そこは差異がありますが本人のSG2点支持のトレモロユニットが搭載されています。

最大の魅力と言っても良いのが、この指版ではないでしょうか。基となっているSG1000Xは指版インレイに通常のアロー・インレイが使われていますが、SG1000XYは本人のSG3000と同じくアロー・インレイを逆さ向きで配置した物が入れられています。

アロー・インレイの間にアバロンが入っているのは1982年に発売されたSG3000などの高級機種が殆どで、それを逆さ向きで埋め込まれているのはSG1000XYのみの仕様となっています。

山本恭司氏のSG3000と同様に24フレット仕様になっており指版が延長されている為、フロントPUの位置が通常よりもブリッジ側に寄っています。結果として通常のSG1000に比べてフロントPUとリアPUの間が狭くなっています。
この時代の通常ラインはスピネックスPUが搭載されていますが、SG1000XYSG1000XUにはアルニコVマグネットのPUが搭載されています。

コントロールは2Vol 1toneというこちらもSG1000XYでのみ採用されたコントロール配列となっており、バイ・サウンドも搭載しています。

サウンドインプレッション

トレモロユニットを搭載している、他のSGとは全く違うアプローチをしているSG1000XYは、今回紹介する4本の中で一番パワーがあり硬質なサウンドになっています。パワーが強いのとトレモロユニットを搭載している事もあってか、バイサウンドを使用するとシングルコイル感がとても出てくれます。

歪ませた際はタイトさをもちろん持っていますが、ハイミッド帯域が前に出てくれるので耳に刺さり過ぎないトーンを出してくれます。

[SPEC]
BODY:Agatis
NECK:Mahogany
FINGERBOARD:Rosewood
PICKUP:Alnico V Pickup


SG2000MT

基になっているのは勿論SG2000。
Tクロス・ワンピース・ネックやブリッジ下のベースプレートなどSG2000の特徴的な構造は踏襲しています。

高中正義が1979年から使用していたタカナカ・ブルーのSG2000を復刻再現したモデル。SG2000では初のアーティストモデルとして出されたSG2000MTは1998年に限定220本で販売。実際に高中氏の持っていたオリジナルのタカナカ・ブルーSG2000を採寸して作り上げられています。
またトラスロッドカバーには「TAKANAKA」と青文字で入れられた専用のカバーが付けられています。

YAMAHA SGはそれまで進化を取り入れ続け、[新しさ]を突き詰めてきましたが、SG2000MTを発売するにあたり[復刻]というそれまでとは真逆の観点で作り上げられたモデルとなっています。その為、単にアーティストモデルというだけで無く、[復刻]という点でYAMAHAの努力を感じる事が出来るのもSG2000MTの魅力の一つです。

ペグはオリジナルのタカナカ・ブルーに搭載されていたOMG-I ペグになるべく近づける為に従来のTM-57Gでは無くR Typeが搭載されています。

1990年代中期に廃止されたコントロールポットの固定穴が復活。

PUSG2000MT用に作られた専用PUが搭載されており、ダブルホワイトのボビンが特徴的の一つですが、同時期の他のSGに搭載されているスピネックス・ピックアップと同様の洋白ベースプレートを使用しながらもマグネットにはOPG-Iと同様のアルニコVを使用するという2つのPUの良いとこどりをしている構造になっています。

またSG2000MTにはハイパスコンデンサーが付けられています。これはSG2000MTのみの仕様となっており、他のモデルには無い特徴の一つです。

上記はSG2000MT以降のSG2000にも採用されていく仕様となっていく為、SG2000MTYAMAHA SGの指標を大きく変える事になったモデルの一つです。

サウンドインプレッション

SG2000DPと同様にクラシカルではありますが、DPよりもタイトでスッキリとしたサウンドとなっています。そのため歪ませた際の音の分離感が心地良く、特にコードストロークでの各弦のバランスが良く出てくれます。分離感が良いので歪ませた際にはもたつく事も無くちゃんと各弦の音を感じる事が出来ます。

 

[SPEC]
BODY:Maple Top/Mahogany Back
NECK:Mahogany
FINGERBOARD:Ebony
PICKUP:New OPG-I

あとがき

限定モデルや限定カラーというと、やはり見た目にフォーカスをしがちですが、YAMAHA SGは実際に楽器を演奏するプレイヤーの事を考え、サウンド面でのアプローチを行っている事を改めて知る事が出来ました。

しかもそれを企業理念の「全てにおいてオリジナルであるべし」を実行しながら行うのは、YAMAHAだからこそ出来る事だと感じました。またSG1000に搭載されているバイ・サウンドやなど国産ハイエンドの先駆け的な存在にも思えました。様々なアーティストがYAMAHA SGを使っている事がその証明だと思います。

今回この記事を書くにあたり寺田 茂氏が執筆をした「YAMAHA SG graffiti」を参考にさせて頂きました。YAMAHA SGという楽器を知るには外す事が出来ない出版物です。本の表紙にも記載されていますが、まさしく永久保存版として後世に残すべき本です。

この場を借りて感謝致します。

TC楽器で扱った「YAMAHA SG」ギャラリー