調律された不協和音に対する内省的探求 - TC楽器 - TCGAKKI

 

アドバンスギターズの内藤です。

楽器にも人間にも適切な屋内湿度は45~55%程と言われていますね。
みなさん、この季節、部屋の湿度管理大丈夫ですか?
私の家は、24時間換気システムのせいで、加湿器をいくら稼働させても湿度が40%を下回ることがあり、非常に頭を悩ませています。
風邪もひきやすくなるし、フレットのバリも出てくるし、人間にも楽器にもよくないので、頑張って50%台を保ちましょう。

さて、今回はアコースティックギターという楽器が、今後どうなっていくのかについて考察していきたいと思っています。
昨今、エレキギターの使用楽曲が減っている、ギターソロが楽曲から無くなっているといった話題をよく耳にしますが、アコギについてはどうでしょうか。
そもそも、エレキとアコギは同じギターというカテゴリではありますが、役割は全く違います。
エレキではオープンコードを使ってコードをしっかり支えることは少なく、アコギでパワーコードをジャカジャカ弾いたり、多用なオブリガートを入れたりすることもあまりありません。
その点だけで考えると、コード楽器であるアコギの方が使用場面は多そうに思えます。

さて実際はどうなんでしょうか。
2024/02/04時点でのApple Musicの日本チャートTOP10を見てみましょう。

順位 曲名 アーティスト名 ギターの有無
1 Bling-Bang-Bang-Born Creepy Nuts
2 晩餐歌 tuki. アコギ
3 アイドル YOASOBI
4 ケセラセラ Mrs. GREEN APPLE エレキ
5 Ado ヴィーナー(インドの弦楽器)
6 SPECIALZ King Gnu エレキ
7 怪獣の花唄 Vaundy エレキ(微かにエレガットのような音)
8 ナハトムジーク Mrs. GREEN APPLE エレキ
9 Soranji Mrs. GREEN APPLE エレキ
10 ランデヴー シャイトープ エレキ&アコギ

 

 

.....2曲で使用が確認できました。


そして、エレキギターの使用楽曲が減っていると言いながら、10曲中6曲も使われているじゃないですか!
誰ですか?そんなデマを広めたのは。。。。


ただ、やはりコードを担う楽器というのは、ピアノ類の鍵盤楽器が強いです。
今の楽曲の流行りでいうと、テンションコードを含んで、曲内で転調を何度もするというのがギミックとして用いられることが多いので、ギターのボイシングだと中々にハードな演奏になりますよね。

和音楽器としてピアノには勝てないのは当たり前です。
だって、指10本フルに使えば、同時発声数10ですよ。
コード弾きながらメロディを弾くのも楽々です。
しかも、サスティンペダルとかいうチートアイテムも装備しています。
そんなアコギの使用楽曲が減っているという現状は目の当たりにしてしまったのですが、結局、流行りというのはいつまでも同じでいるわけはないんですよね。

今のヒットチャートの楽曲を聞いていくと、カラオケの採点バーで言えば、常にど真ん中を歌っているような非常に正確な音程というのが好まれていて、それが楽器にも適応されているんですね。
その点で言うと、和音を担う楽器として、チューニングが完全ではないアコギが減るというのも合点がいきます。どうしても、音の揺らぎは出ますし、微かな不協和音を感じることもあります


ただし、その特徴って実は人間の根本の心理的琴線に触れるんです。
倍音の詳しい話は置いておきますが、整数次倍音というのが音に多く含まれていると、音程感がしっかり感じられるのに対して、非整数次倍音が多く含まれていると、音程感が若干曖昧に聞こえるんですね。
その若干の心理的焦燥感というのが、歌手の方の魅力だったりするわけです。
楽器においても同じことが言えて、例えば60~70年代の楽曲って、チューニングがめちゃくちゃでレコーディングされていることや、録音テープの回転速度によってピッチが高くなっちゃっていたりもまぁまぁあるのですが、凄く耳に残っていますよね。


人は不完全なものに惹かれるという"ツァイガルニク効果"という心理状態を常に持っています。
これのいい例として、曲のコード進行というのはトニック/ドミナント/サブドミナントで構成されますよね。
簡単にいうと、トニックというのはCメジャーでいう"C"コードがそうなんですが、曲終わりはトニックで終われば当然落ち着きます。
それを裏切っているのがサザンオールスターズの"いとしのエリー"という楽曲なんです。
この曲はKeyがD Majorで、最後を聴くと、D(トニック) Em7(サブドミナント) A9(ドミナント)で終わっているんです。
もどかしい!となりませんか? でも、そのもどかしさがクセになりますよね。


今は、洗練された狂いの少ないものが好まれており、それが時を経て必ず焦燥感を求めます。
こう考えると、生楽器というのはこれから何年経ってもなくならないし、人間がAIに完全に代わって歌手をやるという未来も想像できませんね

結論として、完璧でないからこそ魅力的であるという原則は、アコースティックギターを含む生楽器の弾き手にとって、永遠のテーマですね。

 

内藤でした!

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